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著者紹介

プロフィール
クレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen、1952〜2020)
アメリカ合衆国の実業家、経営学者。
初の著作である『イノベーションのジレンマ』(人や企業はなぜ成功を続けることができないのか理論)によって破壊的イノベーションの理論を確立させたことで有名になり、企業におけるイノベーションの研究における第一人者である。
その後、発表した代表作には従来のマーケティングやコンサルタント手法を覆し、モノの有効需要を見える化した『ジョブ理論』(本書『イノベーション・オブ・ライフ』では、このジョブ理論を“人がものを雇う理論”として説明している)がある。
また、ハーバード・ビジネス・スクール (HBS) の教授も務め、低迷していた同スクールを世界で最も優れた人材を輩出する機関に再生した。
本書は、末期ガンに侵された著者がHBSで行った最終講義が収録されている。
HBS卒業生など、その他の共著者
アルワース・ジェームズ
オーストラリア出身。ハーバード・ビジネススクールを成績優秀者に贈られる、ベイカースカラーで卒業。ブーズ・アンド・カンパニーとアップルコンピュータで勤務していた
ディロン・カレン
コーネル大学とノースウエスタン大学大学院でジャーナリズムの修士号を取得。2011年まで『ハーバード・ビジネス・レビュー』の編集者として20年のキャリアをもつ。同年、アショカ財団により世界で最も影響を与えた女性として選出。
イノベーション・オブ・ライフ
内容紹介
最高の人生を生き抜くために。“Thinnkers50”で第1位を獲得したクリステンセン教授のハーバード・ビジネススクールの最終講義。
目次
- 序講 羽があるからと言って…
- 第1部 幸せなキャリアを歩む(わたしたちを動かすもの;計算と幸運のバランス;口で言っているだけでは戦略にならない)
- 第2部 幸せな関係を築く(時を刻み続ける時計;そのミルクシェイクは何のために雇ったのか?;子どもたちをテセウスの船に乗せる;経験の学校;家庭内の見えざる手)
- 第3部 罪人にならない(この一度だけ…)
クリステンセンの影響について
アメリカの企業経営は、ノーベル経済学賞受賞者の理論では動いていない
近年、書店での経済書籍のコーナーには、ダニエル・カーネマンやリチャード・セイラー、ジョセフ・スティグリッツなど、ノーベル経済学賞を受賞した学者による本が目立つところに飾られている。まるで現在の経済学・経営学が彼らの言論で成り立っているかのうような演出である。ここ数年で彼らのような難しい書籍でも、日本のビジネスマンは読むようになった。
だが、私のように金融業界・大企業コンサルタント業界に足を突っ込み、また個人的にも2000万円以上の金融商品を運用する身分からすると、ノーベル経済学賞の学者たちは「経済をつっつく」だけで、ほとんど役に立たない。現場の理論は、全く別物だと感じる。
実際の経営の現場ではもっと地味な、もっと気難しい論理で動いていると思う。
決算短信(10-k)や統合報告書(anual report)には多用されるクリステンセン用語
本書を読むとわかるように、クリステンセンは学者でありながら、複数の企業(しかも比較的大きな)の経営者としての側面を持つ。これは学者として非常に稀である。というか、そもそも学者・経営者として大成功しているのは、クレイトン・クリステンセン以外に存在しない。
話を企業に戻すと、そのことがさらにもっと良くわかる。
彼の生み出した「イノベーションのジレンマ」「ジョブ理論」「破壊的イノベーション」は、実際の企業の報告書である決算短信や統合報告書で、非常によく見る用語なのだ。
これらの言葉はそれだけ、企業の問題と課題に向き合った単語であることを証明している。
『イノベーション・オブ・ライフ』のブログ主の勝手なまとめ
『ジョブ理論』『イノベーションのジレンマ』簡易版で、彼の人生志向もわかる本
本書を簡単に説明する。代表作である『ジョブ理論』『イノベーションのジレンマ』の要点をわかりやすく解説しながら、クリステンセンの人生思考についても触れた本だといえる。
死の直前に書かれた本とは考えられないくらい淡々と経済理論と人生の関わりを描く反面、要所要所に、人生論が出てくる。それは、クリステンセンの教え子たちが裕福さを取るか、幸せを取るかの選択で、多くの失敗をしているケースを提示している。
合わせて、クリステンセン自身の幼少期の教育のされ方も語られる。
ハーバードの教え子たちの多くが、不幸になったことが本書を書く動機
クリステンセンが37歳でハーバード・ビジネス・スクール(HBS)に戻ってくるまで、同大学院はアイビーリーグの中でも軽視された存在で、優秀な卒業生も輩出していなかった。
そこから処女作の『イノベーションのジレンマ』という優れた研究成果を生み出し、それがインテルの経営陣の目に留まって、実際の企業で使われる理論となった。その後はスティーブ・ジョブズの愛読書になったり、数多くの名物経営者に愛読され、今に至っている。
そしてHBSは、世界的に注目を浴びる経済研究機関となった。
関連記事:(一眼でわかる図掲載)流行語「破壊的イノベーション」を生み出した『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン 要約
本書で種明かしをされているが、『イノベーションのジレンマ』は、アメリカ人が日本人にコテンパンにされて自信を失ったときに、生み出された書籍だ、日本人のイノベーション能力をアメリカ人がアレンジして使えるようにした書籍だともいえる。
また、中国の台頭により、アメリカの技術移転、実質的な乗っ取りであり、結果的に地獄をもたらした。そこから、低価格競争でアメリカ人はまたも疲弊して沈む。
それに対しての処方箋として書かれたのが『ジョブ理論』だといえる。また、ずっと以前より優れた経営者は「企業の核となるノウハウをアウトソーシングしてはいけない」と警告したのもクリステンセンだった。その行動に至った真意も本書に、かなり詳細に書かれている。
関連記事:アメリカの迷走を解決した名著。ニーズ探索やマーケティング理論を根底から覆す『ジョブ理論』クレイトン・M・クリステンセン
仕事と家庭の両立はできない。出来るのは、家庭を優先すること。
クリステンセンは、本書を書く中でがんを2回発症し、脳障害にもなって、言語能力のリハビリにかなりの時間をかけた。推測するに2009年ごろから死の直前まで本書の執筆は続いている。
その中で、彼の導き出したものは「仕事と家庭(育児)の両立はできない」という、なかなか他のビジネス系学者が導き出さない答えだった。ただし、本書にそれをしっかりわかりやすく書いているわけではない。結果的にそういう本だということだ。
子育ては、後から挽回できない。故に、仕事よりも決定的に優先する
教育論に熱中した、晩年の姿も描かれている:教育の不可逆性
本書『イノベーション・オブ・ライフ』では、クリステンセンが過去に『イノベーションのジレンマ』の理論を教育学に応用した研究である『教育×破壊的イノベーション~教育現場を抜本的に変革する』(日本語版は翔泳社)での経験を後半部で語っている。
その中で、子供の教育の研究で次々に明らかになるのは、育つ過程でタイミングを見極め、やるべきことをしないと、絶対的に“取り戻すことができない”という“教育の不可逆性”についてだった。
これをハーバード大学の学生たちに熱心に語るのだが、その姿は結局「ビジネスは家庭に優先することは絶対にあり得ない」という、スタンス以外に他ならない。
本書を通して、彼が一番読者に伝えたかったのはこの点だと私は判断している。
Q:どんな人が読むべきか?
A:クリステンセンの歴代の代表作で挫折した人。あるいは、彼の書籍全体を網羅的に読みたい人で、学者・経営者としてのクリステンセンに少しでも興味がある人。
クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』『ジョブ理論』は、正直、普通のビジネスマンにとってかなり難しい。少しだけ読んで、挫折したか、わかったふりをしている人が本当に多い。また、両者はページ数も膨大で読むのに恐ろしく時間もかかる。
よって、先にこの『イノベーション・オブ・ライフ』を読んでから、それぞれの著作に進むのでも問題ないと思う。むしろ、その方が理解度が上がると思う。
また、変な言い方だが、人情ものやお涙ちょうだい的なビジネス本を探している人にもいいかもしれない。現に、アマゾンのレビューではそのような人が多く本書を買っていることがわかる。