著者紹介

ジェレミー・シーゲル 1945年アメリカ・イリノイ州出身。若干40代で膨大な資料を要して書かれた『株式投資の未来』は、証券業界に衝撃を与える。現在、米ペンシルベニア大学ウォートン校教授。メディアにもたびたび登場する。
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S&P500上場企業の寿命は96年から、たった12年になった
本書は、実に不思議な本である。
なぜなら、はっきりとした結末を避けたため、魅力が年を減るごとに急上昇しているからである。これから、その理由を解説していく。と、その前に、これだけは知っておいてもらいたい。
それは、米国の優良企業を集めたS&P500の上場企業の平均存命期間が、2010年代からたったの10年の間に96歳→12歳へとなってしまったことだ。
これはなにを示すのか? 答えは個別株の死である。
と同時に、指数への投資の正しさの表れでもある。
日本も米国と同じ指数システムとなる
これはアメリカに限ったことではない。日本には、いいインデックスファンドが存在しないと言われてきたが、日本にもやがてこれと同じ波が訪れる。つまり、個別株が廃れ、指数メインの株式投資の時代に突入するのだ。
日経株価指数が、2022年4月から変更になり、「東証一部」「東証二部」「マザーズ」「ジャスダック」が廃止となり、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」となる。(東証HP参照)。これにより、「プライム市場」=「S&P500」、「スタンダード市場」=「ラッセル2000」、「グロース市場」=「NASDAQ」と同等の市場となり、銘柄入れ替えがアメリカと同じく、激しくなる。
これまでは、東証一部は一度上場すると、倒産寸前のクソ株になるまでしがみつくことができた(上場廃止なった「オンキヨー」などの1円株など)。
この市場セクション改革によって何が起きるか?
それは、企業の資金集めが、恐ろしく困難になるということだ。
このような中で、日本でもこの『株式投資の未来』の持つ意味が重要になってくる。個別株の新陳代謝が活発になり、資金集めが不安定になることで、個別株投資のリスクが大幅に向上するからだ。なので、よく注意して本記事を読んでほしい。
株の赤本でありETFの存在を知らしめた
同書は、米国株投資をする投資家におそらく最も人気の書籍である。著者のジェレミー・シーゲル氏は、現在も存命(2021年現在)でコロナショックでも度々メディアに登場している。
本書では米国の企業史を緻密にみながら、大恐慌前後からリーマンショック前の2000年代中盤までの企業と株価の分析を行っている。
サブタイトル「永続する企業が本当の利益をもたらす」は間違い『米国でいかに企業の永続が困難か』を記述
私は本書を3回ほど通読して、いつもこう思うのである。
本書には、企業の永続性など一切語られていない。語られているのは、アメリカでは企業間の競争、買収、統合があまりにも厳しすぎて、生き残ることはかなり稀である。という事実である。血だらけのアメリカの大企業の殺し合いの歴史である。
この本で語られるのは、優良企業指数から転落した元大企業の末路であり、儲かりすぎた企業の独占禁止法による企業解体の文化(やがてFacebook、Google、マイクロソフト、Amazonにも襲いかかる)であり、TOBなどによる企業のハードな切り売りの、悲しすぎる歴史なのだ。
IT企業よりもタバコ銘柄?:稼ぐと思った企業がいかに稼いでいないか理論=成長の罠
本書ではタバコ株のフィリップモリスとアルトリアが、第二次世界大戦後のアメリカで最も好成績を挙げた銘柄であること書かれている。そしてIBMや当時のグロース株などを取り上げて「成長の罠」についても書かれている。「成長の罠」とは、みんなが金を稼ぐだろうと期待して買い進んだ結果の株価は、実際の成長を上回りがちで、そのせいで得をしない、という法則性である。
これも、たとえ短期間であっても個別株の購入リスクを助長させている。逆に言えば、これは個別株のリスクから個人投資家を守るべき優れた理論だとも言えるが、だがしかし、本書をそこまでじっくり読んで、じっくり考える人間が1万人に10人もいないは言うまでもない。
本書で書かれていないタバコ株の「成長の罠」。落とし穴
さらに恐ろしいことを語っておこう。それは、シーゲルが気がついていない点、つまりは、本書のむしろ逆説的な黒歴史というべきものでもある。
私が過去に書いた『PRE-SUASION :影響力と説得のための革命的瞬間 by ロバート・チャルディーニ』には、1970年代後半から1980年代にタバコ業界が遭遇した健康被害訴訟。その中で、タバコ業界が広告を打てない法律が可決され、広告を打たなくなった後、押しつけの印象が薄れ、また希少性のバイアスがかかって、売り上げが急上昇した話について書かれている。シーゲルはこの部分に本書では全く気がついていない。タバコ業界が長期間手放しで儲けた時代が、アメリカにはあるのだ。よって、結局、企業存命があまりにも厳しいアメリカで、意外な利益を叩き出したタバコ企業も、実はある種の幸運によって「広告費という贅肉を削ぎ落として、たまたま利益を得た」というだけにすぎなかったのだ。
これは、日本のネスレでも同様のことが起きている。以下はひろゆきの動画でわかりやすく解説されているので参照して見てほしい。
銘柄選びの手法ではなく、「個別株を持つリスク」を研究した書籍
以上が本書のざっくり解説だ。
本書は、一見儲かる銘柄選びはどうすればいいか? が書かれている書籍に見える。しかしそうではない。ここは要注意である。そして、ほとんどの人がここを読み誤っている。
儲かる銘柄選びは、難しく、実質一般人には不可能なのである。それは、長期では多くの予想がハズれタバコ株が一人勝ちしたところに見て取れる。
では、どうすればいいか?
それは、株式投資の『箱』を利用しつつ、中身が永遠に新陳代謝され腐らない物体を買えばいいのである。その例として、本書ではETFの元祖SPY(ステートストリート社)を紹介している。あとはネットやYouTubeでETFのことを調べてみれば、今はかなりのことがわかる。
以下、私のブログでもETFの運用成績を公開しているので、参考にしてほしい。
5月4週目に購入 米国株ETF(VYM・HDV・SPYD・VWO)
コロナ・オリンピック相場本番!!日本株&米国株 ポートフォリを公開!(2021年6月)
☆残念な配当金報告☆調整局面で20万円購入。減配スローダウン。だが円安ややうま味。2021年7月 米国株購入&分配金報告
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