世襲の秘密は、日本史で知るしかない。権力者による日本史のウラを探る『世襲の日本史』本郷和人

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著者紹介

本郷 和人(1960年10月12日- )は、日本中世史を専門とする日本の歴史学者である。学位は博士(文学)。東京大学史料編纂所教授。 東京都生まれ。石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わる。著書は『新・中世王権論』『日本史のツボ』『戦いの日本史』『戦国武将の明暗』『上皇の日本史』(中央公論新社)。

目次

  • 序 章 世襲から日本史を読み解く
  • 第一章 古代日本でなぜ科挙は採用されなかったか?
  • 第二章 持統天皇はなぜ上皇になったか?
  • 第三章 鎌倉武士たちはなぜ養子を取ったか?
  • 第四章 院家はいかに仏教界を牛耳ったか?
  • 第五章 北条家はなぜ征夷大将軍にならなかったか?
  • 第六章 後鳥羽上皇はなぜ承久の乱で敗れたか?
  • 第七章 足利尊氏はなぜ北朝を擁立したか?
  • 第八章 徳川家康はいつ江戸幕府を開いたか?
  • 終 章 立身出世と能力主義

本書を読むべき人

  • 日本の世襲が強いことろが嫌な人
  • 自身が世襲に頼っている人
  • 会社を経営している人
  • 人事に関わる仕事をしている人
  • 歴史ファン

明治維新で一度途絶えた世襲が復活しつつある現代

多くの方もお気づきだろうが、現在の日本政治は岸信介から安倍晋三、吉田茂から麻生太郎、小泉純一郎から小泉進次郎と発展した日本を代表とする政治家たちをはじめとした世襲政治家が、見渡せばかなり多く存在している。国政で目立つ存在だけでもかなりの量だが、地方政治や地域政治にまで範囲を広げると、その率はさらに高まるだろう。

しかし、なぜここまで世襲政治に日本は立ち戻ってしまったのだろうか?

それは、日本が天皇を軸とした世襲制を、国全体で力を入れて行ってきたその歴史に見つけることができる。世襲制時は歴史が深く、その分闇が深い。明治維新でイギリスの属国になったとしても、戦後GHQの支配があったとしても、その強固な基盤は崩れなかった。

本書ではそのような世襲制時の真髄は、歴史のどこにあるのか?そんな問いかけから始まっている。

世襲を軸に歴史を見ると「間違い」「嘘」「騙し」が見えてくる

冒頭で述べられるのは、鎌倉幕府の設立年の話である。

私たちの世代は、いい国作ろう鎌倉幕府で1192年と記憶させられたが、近年の教科書では1185年という表記なっている。これは、天皇による征夷大将軍の任命が1192年であるのに対し、実質的な源家の日本支配が1185年に完了しており、幕府体制も出来上がっているからということとなる。

この話の前提は、歴史は為政者によって都合よく書き換えられてきたことの裏返しであり、天皇制に取って1192年が都合よかったということを表している。そして、今のような天皇制がそれほど剛権を持たない世相も反映されている。そして言わずもがな天皇制は、世襲制である。

筆者はこのように、権力と世襲制を見ると、歴史の都合がわかると結論づける。

「世襲制度」ブラッシュアップ過程を知ることで得られるもの

目次を見てわかると思うが、編年体(歴史順)で本書は書かれている。

そして、それは同時に世襲制のブラッシュアップされていく経過を同時に示している。

ある時は、世襲制で血筋が家柄だとされたのに対し、鎌倉時代などは、武士という貴族よりもストレスも外的攻撃も受けやすい人たちが覇権を握ったことにより、出産・子育てトラブルが増えると、養子も感化されてくるようになる。また、本来支配している家柄と支配されていた家柄の逆転現象が起きる時の事象も細かく書かれており、そこには歴史の疑惑が大いに浮かび上がってくる。

近代に入って「世襲情報」が隠された今、最適な素材は日本史

世襲制は、穏やかで争いを少なくし、長期政権で経済発展や制度構築に向いている。というのが、筆者の語る利点だ。だが、江戸時代末期に海外から侵略の危機を迎え、世襲制を一旦やめた明治時代がやってくることになる、という論調で書かれている。

世襲制が江戸時代末期に、一度、否定的な味方をされたのは間違いない。それが、今もずっと続いており、日本は世襲制が復活し、続いてはいるものの、世襲制の秘訣・メソッドなどは、公開されていない。

世襲制の秘密を知るためには、本書のような日本史の世襲の転換期を研究した書籍を読むしかない。それが同時にこの書籍のヒットの要因ではないかと、私は思っている。

世襲は、謎めいているのである。

世襲に影響された日本独自の社会制度の中でいかに生きていくか

日本は、一部の産業をのぞいて、中間管理職や役職クラスも実は世襲が続いている。また近いうちにそのことも取り上げたいがそれを証明したのが橋本健二『階級社会』である。現代の日本において、たぶん、江戸時代とは比較にならないくらい階級社会の闇は深い。

そんな中で生きていくためには、歴史のメルヘンというよりはこのような本を、ヒヤヒヤしながら読むような意識があったほうがいいと思う。オススメである。

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