著者紹介

チャールズ・A・オライリー
スタンフォード大学経営大学院教授カリフォルニア大学バークレー校で組織行動論の博士号を取得。 同校教授、ハーバード・ビジネススクールやコロンビア・ビジネススクールの客員教授などを歴任。 専門はリーダーシップ、組織文化、人事マネジメント、イノベーション等
目次
- 第1部 基礎編:破壊にさらされる中でリードする
- 第1章 イノベーションという難題
- 第2章 探索と深化
- 第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる
- 第2部 両利きの実践:イノベーションのジレンマを解決する
- 第4章 6つのイノベーションストーリー
- 第5章 「正しい」対「ほぼ正しい」
- 第3部 飛躍する:両利きの経営を徹底させる
- 第6章 両利きの要件とは?
- 第7章 要としてのリーダー(および幹部チーム)
- 第8章 変革と戦略的刷新をリードする
アメリカの大企業は10年で市場から消える
アメリカの大企業をメインとした株式市場 S & P 500(スタンダード&プアーズ500社)の平均上場年数は、戦後50年の期間で96年間から12年間と、極端に短命になった。その原因は「破壊的イノベーション」、つまり、突然発生する極端な破壊的なトレンド変更によるものだと言われる。これらのことが、『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセンによって明らかにされた。
本書は、その後続書籍であり、世界的な企業を襲って破滅させてきた「破壊的イノベーション」を乗り切るほぼ唯一の対処方法が書かれた書籍だと言われている。
大企業・伝統企業の失速・崩壊を研究
本書では1930年代にアメリカの30%の消費を握るという栄華に築いたものの、1980年代に失速して2018年に経営破綻したシアーズやフィルム市場の36%を支配したが破綻したコダックなどを研究している。それだけではなく。シアーズにトドメを刺したアマゾンの多角戦略研究や、コダックのライバルであり、現在、ヘルスケアの透過・フィルム分野で唯一無二の存在感を誇る富士フィルムの生き残り戦略などをわかりやすく取り上げている。
「イノベーションのジレンマ」の数少ない答え
両利きの経営とはなんであるか?
それは「深化」と「探索」であると定義している。
そのわかりやすい例は、アマゾンの通販事業のブラッシュアップ工程(深化)、Amazonプライムビデオ・AWSサーバーなどの多角化事業(探索)などの研究でわかる。
クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』では、もちろん、突如企業を破綻に追い込む「破壊的イノベーション」の解決方法に触れられているが、その方法は流動的で難しく、また、実際はそれぞれの産業によっても対処方法が違い、正解ではない可能性があった。汎用性がないのである。
しかし、この『両利きの経営』の「深化」と「探索」戦略は、万能で絶対的な解決方法、とまでは行かないが、様々な業種で横断的に実践可能で、効果もかなり高いように思われる。
両利きの経営は、CEOにしかできない
両利きの経営を推進できるのは、リーダーの中でもトップのCEOにしかできないというふうに本書では書かれている。人事権と予算権の根本を握っていないと、できないのだという。
よって、本書は本当の意味では『社長以外読んでも無駄な本』かもしれない。
ただ、それ以外の用途もあるといえばある。それは何かといえば「両利きの経営」をしなければならないような局面に対峙したとき、そこで起きる出来事を事前に様々なアメリカの大企業のケースを引用して、予測することができる、ということである。
本書を読むとわかるが「両利きの経営」は、経営者が宣言して行うというよりは、破壊的イノベーションによって窮地に追い込まれた企業が、リストラや業務変革によって、どうにかこうにかして何とか辿り着くもので、おそらく、経営が危うい企業がほぼ全て経験する可能性がある。
そういう意味で、この書籍の知識は、知っておいて損はない。
「深化」と「探索」を邪魔するもの
本書では様々なケースが記述されており、そもそもこんな2000〜3000字のブログでは要約しきれないものではあるが、それでも要点を絞って記述していく。
本書で注目の箇所のひとつは、両利きの経営を阻止しようとするものを分析したパートだ。目次でいう第3部の第7章にあたるところだが、最後にそこについて触れておきたい。
両利きの経営=「深化」と「探索」を邪魔するものは「過去の業務改善の成功体験」と「予算配分の不明瞭さ・一点集中的なカリスマの存在」だとされる。
先での述べたシアーズは、栄華を誇った1920年代から破綻する2018年まで何度も経営危機に陥ったが、その度にリストラと効率化で乗り切ってきた。しかし、時代の流れに合わせてネット販売などに切り替えるタイミングを見失い破綻した。組織としては優れたインベーション集団だったが、ちょっとした切り替えができなかった。
また、ネット企業の大手CISCOの例をあげると、モデム・ルーターで市場で独占的なポジションを獲得したとき、収益性に行き詰まる。そのときに、多角化戦略を推し進め、両利きの経営にシフトしたが、予算の配分権利がカリスマ経営者たった一人に集中したがために、判断に時間がかけられず、大規模な予算を持ちすぎているため、無意味な社内政治が発生。それによって、ほとんどの多角化の経営判断が頓挫するという状況に見舞われた。
両利きの経営がリーダーにしかできない、ということを勘違いしてして、業務を分配できなかったたために、CISCOは現在、クソ企業に転落している。
本書を読めば「決算書を読み解く」力が手に入る
私が本書を読んで思ったことは、この本に書かれていることは、優れた投資家が決算書を読んでジャッジすることと似ているということ。例えば、ウォーレン・バフェット『バフェットからの手紙』に書かれていることと、ある意味で内容が一緒だということだ。
つまり、優れた投資家が持っている、企業を値踏みする要素がてんこ盛りだということである。おそらく、そういう視点でこの本を解説している人はほとんどいないが、株式投資をしている人が読めば、100人中90人が、どう考えてもこう思うはずである。
以上、参考にしてただけたら幸いです。