俳優との実践的コミュニケーション。後進のために巨匠が残した書籍『映画を撮りながら考えたこと』(伊丹十三賞受賞) 是枝裕和 要約・概要

投資と映画
映画ジャンル

表紙は是枝さんの絵コンテが使われている

著者紹介

是枝 裕和(これえだ ひろかず、1962年6月6日 – )は、日本の映画監督、脚本家、ドキュメンタリーディレクター、映画プロデューサー。ドキュメンタリー出身の映画監督として知られ、国内外で高い評価を受ける日本人監督の一人である。2016年には『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドール。主な作品に『真実』『誰も知らない』『三度目の殺人』『海街diary』『そして父になる』『空気人形』『歩いても 歩いても』『ワンダフルライフ』など

概要

いわゆる邦画BIG4 是枝裕和・河瀬直美・黒沢清・園子温の筆頭、是枝監督のほぼ自伝に等しい著作を今回は読んでみました。ざっと解説します。

この本は、彼が後進のために書いたものです。

口が悪いかもしれませんが邦画BIG4の中で、人材育成に本気で携わっているのは是枝氏のみという印象が私の中にあります。黒沢さんも長らく教員をしていますが、彼は若手への嫉妬も足引っ張りもよくしている印象があります(ここだけの話)。まあ、普通にライバルとして若手に接すると自然とそうなるのかもしれませんが……。

本書を読むべき人

  • これから映画界を目指す人
  • テレビ業界に興味がある人
  • 雑草ADやお騒がせ若手ディレクターがどんな感じか知りたい人
  • 是枝氏の手法「脚本に頼らず映画を作る」を知りたい人
  • 是枝さんのキャスティング手法が知りたい人
  • 映画の大事なお金の話を知りたい人(巻末10ページほどだが最重要)

是枝裕和の特徴とは何か

早稲田大学からテレビマンユニオンという形で映像の世界に入った同氏ですが、最初にあった映画企画は「誰も知らない」の原型の脚本でした。しかし、デビューは宮本輝の原作小説「幻の光」を映画化したもの。本人曰く絵コンテに縛られた作品で、それでありながらもヴェネチア国際映画祭で今のオリゾンティに当たる部門で賞を受賞します。そこから順調にキャリアを重ねる。

面白いのは二本目の『ディスタンス』は元々テレビ創作シナリオ賞奨励賞受賞の60分の脚本であるということ。また、彼は自分をテレビドラマのマニアというか猛烈な愛好家と思っていることなどでした。

終始流れる文章の謙虚さは、自身のキャリアの幸運さを意識

今のようなインディペンデントの作品も多いわけではなく、また当時の是枝氏の時代は、8ミリ映画が一度隆盛して流行が落ち着いたあとということもあって、いろんな映画を撮影しやすい状況が確かに重なっています。

調べてみると彼の所属していたテレビマンユニオンは、出来高制で現在の年収で言うと200万円から500万円というレンジ。給料は薄給の部類に入りますが、それでも業界で確固たるポジションを持っている会社なので「やりたくない仕事はしない」という風土があったようです。その最たる存在がまさしく是枝氏。出社拒否や気に入らない仕事で干されるなど、いかにも早稲田なノリです。

そんな中、著名作家の原作で1億、また二作目は東京国際映画祭の支援などで1億2000万の作品を立て続けに監督し、キャリアを固めます。現在、非常に能力が高くても1作目でキャリアが終了している作家が多い中で、たとえヴェネチアで賞をとっていてもこの幸運はバブル景気(メディアの資金は2000年代まで潤沢)にあやかったものだと本人もよく理解しているようです。

取材して脚本を書くスタイル=従来のテレビドラマの手法

よく誤解されるのですが映画は、実は取材して脚本を書くと言うのが主流ではありません。少なくとも日本では違います。というか、私から言っても映画業界の「取材」というのは取材の部類にはりません。その反面、報道番組やドキュメンタリー、教養番組とコンテンツ的に肩を並べるテレビドラマの取材はハンパがありません。マーケティングも兼ねているからでしょう。できるネタは限られますが、この点は是枝さんの青年時代のテレビの描写は実にリアルに感じます。

安田匡裕・村木良彦というバブル期の二大プロデューサー

これらの取材脚本が持つ政治性を非常に気に入っていたのは、安田匡裕・村木良彦というテレビと映画を行き来するプロデューサーの存在でした。私も実感しているのですが、バブル期のプロデューサーほど、安易なエンタメから独立しようとする意識が高い。是枝さんの初期〜中期作品の色を補佐し、作家としての像を確立したこの二人に関する記述は、今の監督には大事な部分です。

オリジナル脚本が故に是枝作品はリメイクで売り上げをあげている

また、これに関しては非常に意外だったの最後に触れておきたいと思います。

是枝作品の興行収入とお金に関して、最終章で触れられています。

ここで、驚いたのは、是枝作品は何度もアメリカでリメイク権を買われており、それによって興行収入で空いた穴を金銭的に埋めていたと言う事実。ご本人はここをそれほどフューチャーしていませんでしたが、これは結構な希望的な面かなと思いました。それはなぜかと言うと、映画業界のリメイクというのは結構な安全策というか、宣伝費を省けて、知名度も使え、俳優や資金も集めやすいという利点があるからです。ましてや外国映画のリメイクはその色が出ます。

是枝作品は、いずれも『親子もの』。

黒澤明の作品がそうであったように、外国人の恋愛モノは、容姿の違いや文化の違いで浸透はしませんが、親子モノは海外で売りやすいというのがあるのです。そんな中で、一度リメイクの話が来るような作家になると、予算としてあてにできるくらいのリメイクフィーがあるというのは本書を読むまで知りませんでした。

本書は伊丹十三賞を受賞

本全般に、やけに自伝色が強いと思いながらずっと読んでいました。この点がずっと気になっていた。そしたらあとで本作は伊丹十三賞を受賞していること知りました。まあ、賞を狙って書いたわけではないのですが、何か重厚なノンフィンクション的な印象を受けたわけです。また本の分厚さも凄い。何か、彼の『後世に残したい』強い願望が全編に染み渡っています。というか、将来的に「是枝裕和を知らなくても読んでもらえるモノ」的な印象が本書にはあります。

以上が、この本の特徴です。
誰もが役立って面白く読める本ではないので、オススメではないです。ただ、映画監督をしたいなら必読の書籍だと。久しぶりに思えるモノ読んだかな。そんな感じです。

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