
この記事を書く、私、PIT監督とは?
2000年代前半からリクルート住宅情報(現:スーモ)で不動産ライターを務め、リーマンショックを経験。その後、東京芸術大学大学院映像研究科を修了し、映画監督と社会人を平行でこなす。多くの海外の映画祭で受賞・上映歴あり。現在は金融系の出版社で編集者をしつつ、映画を制作。世界基準の海外ビジネス系書籍を読み漁る。不動産投資、株式投資も行う。
大多数の日本人は、不動産屋に騙されてきた
不動産業者の資格、宅建は国家資格である。つまり、不動産は大量の法務の山に埋もれた仕事であり、説明しなければわからないことだらけだ。しかも、巨額の現金が動く。情報を隠したり、見せ方を工夫するだけで、営業成績がはねがるのならば、良心はもちろん消えていく。
近年、さまざまな報道で住宅の購入だけでなく賃貸契約や引っ越し、水道の修理など、不動産業界が人々を生活に関するあらゆることで暴利を貪ってきたきたことが明らかになりつつある。
バブルと不況でクソまみれ産業に。そこに登場した『正直不動産』
著者ブレーンの中の一人、夏原 武氏(1959年生まれ)は特殊詐欺や裏社会をずっと描き続けてきた。代表作と知られるのは、マンガ『クロサギ』の原案である。『クロサギ』は、映画としても大ヒットしており、闇社会をエンタメ化する手腕は卓越している。
私の年代から上のこのバブルと大不況を経験していないと『正直不動産』のような作品を描くことができない。故に、不動産業の悪行を漫画化する数少ないチャンスだったと思う。
不動産業界は旧財閥系が悪行を構築したため情報が暴露されにくかった
不動産業で悪事を働いてきたのは、世間的に言われているような弱小不動産業者や個人のブローカーではない。主流は、財閥系である。三井、住友、三菱、安田系の巨大企業が、悪行の標準である。でかい企業ほど悪いことをしてきた。これは案外、不動産業界にいないとわからない。『正直不動産』では、偽名は使っているもののこの点がしっかり描かれていることが重要だ。
『正直不動産』全巻解説
『正直不動産』(1)
扱われるトピック
- サブリース
- 敷金・礼金(オーナー嫌がらせ激安物件)
- 現状復帰
- 囲い込み
- 売却(専任・一般)
- 店舗物件
- 三為(前半部)

かぼちゃの馬車とレオパレス事件でで有名になったサブリースでスタートした第1巻はそれほど衝撃はなかったけど、それでもまあまあワクワクしましたね。これは変なマンガが登場したと。小学館、攻めてるなと。今思うととてもユルい1巻でしたが、業界人はそれでも震えたはず。
『正直不動産』(2)
扱われるトピック
- 中間省略(三為 前号の続き)
- 建築条件付土地売買
- 瑕疵担保(土地)
- 瑕疵担保(殺人)

第2巻では、大地主の息子で金に苦労をしていない不動産投資家の「藤原」が入社。いかにも地主というキャラクターと、不動産業界でモメにモメている瑕疵担保、三為が扱われたことで、あ、何か本気だと、思いました。
『正直不動産』(3)
扱われるトピック
- 賃貸借契約(家族内無償賃貸)
- 預かり金(賃貸・買付)
- 賃貸契約後の賃料値上げ
- あんこ業者(元付け・客付けの間に入る業者)
- 借地権(底地と借地権の統合)

シリーズを代表する第3巻。ビビりましたよ。これ世に出しちゃっていいの?っていう内容が満載で。特にあんこ業者や賃料値上げトピックは、財閥系仲介からよく苦情で潰されなかったなと、思いました。個人的にはこの第3巻だけでも見てもらいたいです。
『正直不動産』(4)
扱われるトピック
- 借地権(大型案件 前号から続き)
- ホームインスペクション(築浅物件)
- 地面師(積水ハウス事件と類似)
- リバースモーゲージ
- フルコミッション(不動産営業の給与形態)

ここでは積水ハウスが50億円以上騙し取られたニュースで世間を賑わせた「地面師」が登場。はやい!タイムリー!現実の問題とマンガがリンクして、面白かった!世間的にもこの辺から『正直不動産』の話を、不動産投資化の間で聞くようになりました。
『正直不動産』(5)
扱われるトピック
- AD物件(手数料・広告費両取り)
- 中抜き(フルコミッション関連)
- フルコミッション(売れない営業バージョン)
- トリプル両手
- 再建築不可(旗竿地)
- 共同名義(離婚)
- コラム:大島てる(事故物件サイト運営)VS夏原武(本作原作者)対談

盛りだくさんの5巻は、コラムゲストに事故物件専門サイトの運営の大島てるさんが来て、個人的には盛り上がりました。不動産投資家の間では、再建築不可の旗竿地をやってくれたのも好評でしたし、マンションの所有権でモメる共同名義を取り扱ったのも大きいと思います。
『正直不動産』(6)
扱われるトピック
- 共有名義(後編)
- 埋蔵文化財包地域
- 任意売却
- 賃料増額請求
- タワーマンション

この辺が2回目のピークだったと思います。任意売却と賃料増額請求は、面白かった。コロナ後の資産バブルが来ると言われているこれから、家賃の値上げ合戦が起きることは必死で、本書を読んでおかないと、家主の言いなりになってしまう借主が続出するだろうなと思いますね。
『正直不動産』(7)
扱われるトピック
- タワーマンション
- 三為業者
- 公募売買
- 賃貸管理物件
- 既存不適格マンション

主人公の永瀬の元上司である神木が、浮浪者として登場し、ライバルの悪徳不動産ミネルヴァに入社。永瀬の正直営業の遥か上を飛ぶ、極悪インチキ営業で迫力がすごかった。扱う内容は一転して、プロ仕様に。多くの実務者が手にとったのは間違いないですね。
『正直不動産』(8)
扱われるトピック
- 既存不適格マンション
- 賃貸仲介手数料上限値
- 契約解除
- 立ち退き
- フラット35

個人的には、立ち退きの回かな〜。ここでも、極悪不動産営業マンで永瀬の氏である神木が炸裂しました。不動産業をする人にとっては、妙にリアルな話だったんじゃないでしょうか? 立ち退きってここまでやるのかと。フラット35の詐欺は現実世界でも流行ってましたね。
『正直不動産』(9)
扱われるトピック
- フラット35
- 管理費滞納マンション
- 水害マンション
- 搾取マンション
- 通行地役権

マンションの管理費・修繕積立金が4万円以上に値上がりする「搾取マンション」は、実は大都市圏で凄く起きている。理事会のワイロや管理会社の腐敗問題の根深さを実感。物語は永瀬がなんとか解決するが、現実にはそんなことが到底無理たということが逆にわかる、驚愕の内容でした。
『正直不動産』(10)
扱われるトピック
- 通行地役権
- 眺望悪化マンション
- 原状回復
- 未公開物件
- 狭小物件

120年ぶりに改正した民法の煽りをうけた「原状回復」は、不動産投資家仲間の間でも話題になりました。話がややこしいので、マンガを読みたいという人が多かった。都市圏でよく見られる狭小物件の内実も、きっちりさらしていましたね。
『正直不動産』(11)
扱われるトピック
- 狭小住宅
- 負動産(ガーラ湯沢リゾートマンション)
- 担ボ物件
- 持ち回り契約
- 契約不適合責任

個人的には残念な展開になってきて、このマンガが果たして継続できるのか怪しい感じしてきた巻。取り扱っている内容は、悪財産化している地方のリゾートマンションなどのいい素材を扱っていただけに勿体無い。ここで、主人公の長瀬は課長代理になり、社内人事を扱うようになる。果たして、この後はどうなるかって感じかな。
『正直不動産』(12)
扱われるトピック
- 契約不適合責任
- 賃貸併用住宅
- 二重譲渡
- 建築確認
- 賃貸保証会社

この巻は、前の11巻でつまらない方向にっていっていた物語が、ある登場人物の出現によって大きく変わります。
それは岩沢という新入社員なんですが、ライバルの悪徳業者、ミネルヴァ不動産から正直不動産の登坂不動産に移籍。
主人公の永瀬の部下になるという展開です。
月下というほぼ素人の準主役だった女性社員が、ほぼ登場し無くなり、内容がよりハードコアになっていくわけです。
12巻まで読んだ読者は、もう不動産の素人ではない。
そういう、出版社の意図が見て取れます。
これからの展開が期待できそうです!
『正直不動産(13)』
扱われるトピック
- 賃貸保証会社
- 大規模開発
- 底地投資(借地権の購入も関係する)
- 事故物件サイト(大島てるの不動産業者の使い方)
- 原野商法

正直不動産(13)は、冒頭で岩沢の裏切り行為というダイナミックな内容から発展し、わたしたちにとても身近なトピックを扱います。
特に、必見なのは事故物件サイト『大島てる』を悪用する賃貸仲介の話でしょう。これは現在の都市部の不動産屋でも大手、中小関係なく、さまざまなシチュエーションで行われています。
また、家を買いたい人に読んでもらいたいのは『底地投資』のトピックです。現在、不動産バブルが再発しており、物件が足りていません。そんな時に、悪徳業者がやたら勧めてくるのが「借地物件」です。このトピックでは、借地のリスクを非常にわかりやすく解説しています。
『正直不動産(14)』
扱われているトピック
- 原野商法
- 住宅ローン事務手数料
- 物上げ
- 家賃滞納
- 更新料

正直不動産(14)は、テレビドラマ化を祝うスペシャルコンテンツが満載。詐欺師を主人公とする原作の夏原武氏の作品のドラマ化で連続で採用された、ジャニーズの山下智久さんを含めた首脳陣のインタビューを掲載している。
内容面で注目すべきは、『原野商法』と『住宅ローン事務手数料』。
『原野商法』は団塊世代を狙いうちしている詐欺的手法で、リモートワークやキャンプブーム、工場移設、倉庫建設などの予定だと偽って、土地を買わせる手法で、コロナ禍以降大流行。老後資産を溶かす人が多い。
また、『住宅ローン事務手数料』は、一般人はほぼ見抜くのが不可能なステルス詐欺。ノルマ主義に縛られた営業マンを抱える、大手の不動産業者で多く行われている。これを開示したこと自体が、実はかなりすごいことだ。
『正直不動産(15)』
扱われているトピック
- 更新料
- 価格交渉
- 契約の誘引
- 1Rマンション投資
- 買取保証
- 原作者のスペシャルエッセイ(更新料・価格交渉・宅建業者のタブー行為)
- 原作者の取材こぼれ話

正直不動産(15)は、日本人が人生で必ず一度は経験する内容である『更新料』『価格交渉』という重要なトピック扱いつつ、現在、公務員女性を中心に狙われている『ワンルーム投資詐欺』を扱った内容も取り込んで、まあまあ、最近としてはひどく充実している。
ドラマ化によってこれだけ世間を賑わせているにもかかわらず、増える一方の不動産詐欺。その代表格である『ワンルーム投資』は必見。久々に読み応えがあった。
また、結果的には地味にな扱いになったが『更新料』に返金ができることや『価格交渉』での暗黙業界ルールがあることなど、知っておいて損がない情報が込められている。
いかがでしょうか?ざっと駆け足で『正直不動産』の全巻を辿ってきましたが、参考になったでしょうか。よかったらアフェリエイトでご協力していただけると助かります。
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