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著者について

野崎幸助(1941〜2018:享年77歳)
和歌山県田辺市に生まれる。
中学を卒業後、一度大阪に上京して販売業につくも退社して帰郷。
その後、鉄屑商売(事業指南をしてくれるグッチ先輩にここで出会う)をしながら、当時珍しかったコンドームの訪問販売を行い、最初の成功をする。のちに代理貸金業(金利だけもらう)をしながら、自身も貸金業に本格参入するが、身長も小さく腕力もなく、取り立て面での失敗が続き、廃業。
だが、心機一転して、東京・霞ヶ関で官僚や大企業の幹部をターゲットとした貸金業に転身し、バブル崩壊後の需要増の中で、2度目の成功を収めた。
関係者の証言(メディアや他者の書いた記事、ノンフィクション)では殺害されたとみられる須藤早貴さん以外での結婚歴はなかったというが、本書の最後に結婚歴とその離婚の顛末が書かれており、金銭で短期間で終了させた旨が書かれていた。離婚歴は2度あり、須藤さんとの結婚で3度目。
子供はいないとも書かれている。「家庭」に関しての興味は持ったことがないという。
総資産額は13億以上と言われており、現在、田辺市に寄付するという遺言のもとに、田辺市が焦って強引な手続きしたことが報道された。
貸金業の過払い請求などのトラブルで、遺産処理は現在停止中。
関連記事:「紀州のドンファン」破産申立てで「13億円」遺産分捕りの「田辺市」 遺言書に則し債権継承
本書の目次
- 第1章 50歳下の愛人は大金とともに去りぬ
- 第2章 「若さ」と「馬鹿さ」の日々
- 第3章 転機――「どうも、コンドーム屋でございます」
- 第4章 高度経済成長の波に乗れ
- 第5章 よく稼ぎ、よく遊ぶ
- 第6章 心を読めばナンパも仕事も上手くいく
- 第7章 人生、山もあれば谷もあるさ
- 第8章 老け込んでなんて、いられない
殺害に関して情報まとめ
まずは、本書読む前に紀州のドンファン殺害事件についてまとめておきたい。
本書は生前の書籍であるため、もちろん事件に関しての記載はない。
殺人手法を野崎氏の愛犬でテストしたという疑惑
2018年5月に野崎氏の愛犬イブちゃん(アダムとイブのイブであり全人類の女性という命名らしい)が、急死する。世間では覚醒剤でなくなったと言われているが、厳密には司法解剖では証明されていない。飼い犬の解剖は野崎氏の事件後の3ヶ月後とだったため、当然のごとく体内には薬剤は残留していなかったのだ。
そして、その愛犬の死の18日後に、野崎氏が急逝。急性覚醒剤中毒が死因である。
2021年5月に元妻で会社経営者の須藤早貴さんが殺害容疑で逮捕される。
関連記事:死亡直前、2人で4時間 野崎さんと元妻、夕食時も―逮捕1週間・和歌山県警
(以下、引用始め)
野崎さんの会社の元従業員らによると、野崎さんは2018年2月に須藤容疑者と結婚した後、同容疑者に月100万円を渡していたとされる。ただ、東京に滞在して不在がちな須藤容疑者に不満を募らせ、周囲に離婚をほのめかしてたという。野崎さんには13億円超に上る遺産があり、県警は事件との関連を調べている。
(引用終わり)
デビ夫人の証言
デヴィ夫人は、紀州のドンファンこと野崎氏と20年近く長期間交流があり、年に3度ある夫人のパーティに野崎氏はほとんど参加していた。
デヴィ夫人は、野崎氏と顔を合わせるたびに「結婚するんだ」と新しい女性を紹介されたという。それゆえに須藤氏と実際に籍を入れた話を聞いて、たまげたという。
ちなみに、須藤さんと野崎氏がパーティに出席し時、デヴィ夫人との記念撮影で須藤さんは野崎氏を「近づかないで」と突き飛ばした、夫人と証言している。
そのほかにも、デヴィ夫人は須藤さんの態度がきにくわかなかったとのこと。
須藤被告に約束の月100万円を払っていなかった?
デビ夫人はこの動画の中で、結婚後、野崎氏の自宅がある田辺市によりつかなった理由として、野崎氏のしぶちんぶりを匂わせた。つまり、野崎氏が、須藤さんに対し、結婚の公約だった月100万円を与えていなかった可能性が高いと言うのだ。
これまでの野崎氏と付き合った過去の女性との交流があったデヴィ夫人は、野崎氏が女性とのセックスに飽きると、お金を渡さなくなる傾向があるというのを見抜いていた。
一方、須藤早貴氏のコメントや考えを述べた媒体は存在しない
他方で、須藤早貴氏に関する情報は少ない。
出演していたビデオ作品(朝までハシゴ酒:ユリカ)や高校時代の写真、札幌出身であること、5人家族であることくらいしか、確かな情報はないようだ。
現在も容疑を否認している。
『紀州のドンファン』の概要
まずは目次に、野崎氏の年代をくっつけてみる。すると見えてくるものがある。
- 第1章 50歳下の愛人は大金とともに去りぬ (現在形74歳)
- 第2章 「若さ」と「馬鹿さ」の日々 (10〜20代)
- 第3章 転機――「どうも、コンドーム屋でございます」 (20代)
- 第4章 高度経済成長の波に乗れ (40代)
- 第5章 よく稼ぎ、よく遊ぶ (50代〜)
- 第6章 心を読めばナンパも仕事も上手くいく (50代〜現在形74歳)
- 第7章 人生、山もあれば谷もあるさ (50代〜現在形74歳)
- 第8章 老け込んでなんて、いられない (現在形74歳)
上記を見ると一目瞭然だがこの著書には、野崎氏の20代後半から30代、40代前半の記述はない。なぜ記述がないのかは実際には不明だが、最後に離婚歴が2度あるということを話しているので、この20年間に結婚していた可能性が高い。
晩年の女性関係は、すべて「交際クラブ」の紹介の理由
本書の後半部では、野崎氏の風俗通いが強調されて綴られているが、前半部分ではまったくその逆の主張がなされている。野崎氏は、実は風俗の女性は好きではなく、素人の普通の女性にしか興味がない、と書いているのだ。ただし、ここにはそれなりの理由がある。
バブル崩壊以降の風俗産業の劣化
野崎氏が、風俗の女性が嫌いな理由は明白だ。
それは、風俗業界の劣化である。
2015年当時の風俗業界はウソが横行しており、店先の写真で好みの女性を指名しても、不細工や太った女性が出てくることが頻発しているのだと言う。プロフィール写真の加工が容易になり、極度に加工されていたり、年齢詐称だったりするのはむしろ常識。つまりまともな女性が出てこない、という理由があるのだ。
本書で書かれるような彼が風俗に通っていたころは、そのような写真技術もなく、女性の方も稼ぐバリエーションがなかったのだろう。ある意味正直な時期だったのかもしれない。
また、デリヘルなどに関しても著者は酷評をしている。何度か頼んだが、好みの女性が一度も来たことがなく、頼むことは自然と無くなったそうだ。
このように、野崎氏の行動に関しては、バブル崩壊後の経済の冷え込みとIT技術(後で説明する『交際クラブ』)のによって、女性の劣化を招いてしまった風俗産業の実情があるようだ。
交際クラブでの手法:デートしてくれたら40万円払う
本書を読むまで、私は『交際クラブ』というものが存在しているのは知らなかった。
交際クラブは、Googleで検索(ググってもデリヘルが出てくる)しても出てこず、どうやらQRコードやメールのリンクなどによって、ダイレクトにそのサイトに行くようである。
つまりこれが何を意味するかというと、顧客を限定するスタイルであり、また、女性の方も経歴や個人情報にガードをかけやすい、ということになる。
これは、野崎氏が知らず知らずのうちに、現代的な最先端のものにたどり着いたという感じだろう。単なるエロジジイは嘘だけついていることが多いが、彼は本物の欲があり、アクションをし続けたが故に、この『交際クラブ』に行き着いたのだろう。
投資手法に関する情報
米国株とイギリス株をメインに株式投資
本の中には、わずかであるが彼の投資に関する情報が載っていた。その中でも数少ない具体的なものが、米国株・イギリス株だという。
野崎氏は、毎朝3:00〜4:00に起床し、この二カ国(イギリス・アメリカ)の国のおそらくバリュー株を購入していた。なぜそう思うかというと、彼はもともと金貸業の人間であり、金利の福利効果(金利が倍々に膨らむこと)を熟知していて、本書でもよく触れる。
また、具体的に配当金という言葉も本書に登場するし、年齢的にも成長株に投資するようなことはしないのが明白だからだ。
ポイントはイギリス株を扱っているところだろう。これはかなり株の運用の上級者であるのは間違いない。私の周りでもイギリス株を扱っている人間はほとんどいない。どんな銘柄を買っているのか、どんな戦略を持っているのか、興味深い。だが、残念ながらそれ以上の詳しい内容は書かれていなかった。
貸金業以外では、南高梅の梅酒の販売・不動産業を行う
デヴィ夫人の動画でも、毎年定期的に野崎氏が梅を贈答することに触れていた。デヴィ夫人は酒を飲まなかったので梅酒を送ることはしなかったが、その素材の最高級梅をその代わりに送ったのだろう。ちなみに酒造業は、彼の死後に会社は倒産してしまったようだ。
試しに「野崎幸助・梅酒」で検索すると、「紀州美人」といういかにもな銘柄がヒットした。パッケージも本格的で、クオリティも高そうだ。だが、どのリンク先もリンク切れになっており、購入はできない。アマゾンや楽天でも見当たらなかった。

『紀州のドンファン』と調査報告(ブログ主の勝手な見解)
実業家としての側面
実業家としては、幸運であったが、能力があったのかは疑わしいと思った。
自伝を読んで感じたことは、彼の多くの富は“グッチー先輩”という鉄屑屋時代の先輩のアドバイスによってもたらされたもので、彼のアイディアというのは「コンドームの訪問販売」しかない。つまり、貸金屋、不動産などのノウハウはメンターがいただけなのだ。
本書で登場するグッチー先輩は、かなりの凄腕の実業家だったのがわかる。
この辺は、野崎氏に対して結構拍子抜けした部分だった。
投資・起業は、いい時代に、いいタイミングで始めるとそれだけで他人の数十倍の差をつけるということがある。野崎幸助の人生とは、はっきりと言ってこの中に収まっている。
会社員として生きることを拒否したことは偉いのかもしれないが、それよりもグッチー先輩の存在が、彼の富をもたらしていただけだった。グッチーがえらい。
男性としての側面

次に、同姓として男としての彼の生き方について考えてみたいと思う。
結論としては、典型的な金持ち子なし老人の結末だったと感じる。
不幸ではないが、幸せでもなかっただろう。殺されたのをどう解釈するかにもよるが、考えように寄っては不幸とも言える。ただ、貧乏にならなかったのは救いだろう。
エロジジイキャラには、老人特有の寂しさ・辛さ隠しの意味がある
例えば、ドラゴンボールの亀仙人だったり、日本のアニメやマンガには、愛されるべきエロジジイの典型モデルが結構存在していると思う。
彼らに共通しているのは、育てるべき子供・孫の不在、人間関係の欠便だと思う。
簡単にいうと、身寄りのない辛い老人男性の手っ取り早いポジティブ印象操作としての「エロジジイ像」が、この世にはあると思う。
実際にエッチ大好きといいつつ、立たないとしても誰にもバレない。その場で誰もそれを証明したりできないし、たとえ捨てられた女性であっても「あの人は立たない」と吹聴する必要もないし、意味もないし、77歳だから当然といえば当然のことだ。
エッチ大好きを宣言することで、いっときは気持ち悪がられるかもしれないが、それだけだ。陰湿であったり、怒りっぽいと思われるよりは、断然幸せな老後を過ごせる可能性が高い。
私は、野崎氏は実際はこっちの方だと思っている。
野崎幸助氏の人生全般に関して思うこと
最後に、映画監督として野崎氏の人生を考えてみる。
意外に、彼は日本人男性の多くを象徴できる魅力があると思っている。それ故に、うまくやれば彼の人生を映像化して、多くの人たちを感動させることさえできると感じている。
ギャグとかスキャンダルとか暴露としてではなく、彼の物語を普通にシリアスに描けるのではないかと思っていて、それができれば、かなりいい作品になる気がしている。
ただし『紀州のドンファン』という本は、正直、ウソだらけで隠し事まみれの本だと思う。だが、老人の悲しみを限りなく描いた「ハリボテ本」だと思えば、非常に味がある。
これは冗談でもなんでもない。本当に思っている。
私だったら、次のように話を構成する。
- 77歳(殺害された歳)
- 14歳(童貞喪失)
- 40歳(2度の離婚)
- 7歳(女性に目覚めた年齢)
この構成なら、面白い脚本が書けると思う。
Q:どんな人が『紀州のドンファン』を読むべきか?
A:40歳以上の既婚者。
正直、若い人に分かる内容ではない。
体に痛みがあったり、慢性的な不具合があったり、太っていて、失業のリスクを恐れていたり、ナンパがしにくかったり、禿げていたりしないと、女性に相手にされないなどの困難を抱えていないと、この本をウラ読みすることは不可能だ。
もしかすると、80歳くらいで読めば、癒し系の本になるのかもしれない。
だが、40歳代以降にお薦めしたい。
読んでおけば、自分の不幸を減らせると思う。
それがどんな不幸なのかは、ここでは書かない。以上である。
本書はオーディオブックで読むこともできます。