デール・カーネギーとナポレオン・ヒルを比較しながら考える名著『道は開ける』

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著者情報

デール・カーネギー(1888〜1955)

ミズーリ州の貧しい農家に生まれる。

様々な本を読む限りでは、大学はどうやら出ていない。職を転々とし、大恐慌(1924)ごろを境に、いわゆるコンサルト、自己啓発セミナー業を行うようになったという。

自己啓発セミナー業は、本人曰く最初から自信があったものの、なかなか同期のライバルたちよりも優れた成績を残せずに、昇給もしなかったという。そんな中で、病院の医師(精神科)により人の話をひたすら聞き続けるように勧められたことがきっかけとなり、頭角を表す。

これをきっかけに、深層心理を引き出して、願望を紙に書き出す、という現代の自己啓発手法のベースとなるような手法を武器に、生徒たちのモデルケースを羅列する書籍スタイルを作り上げる。

ベストセラーとなった『人を動かす』『道は開ける』に関しては、この手法で書かれている。

また、『知られざるリンカーン』(原題:Lincoln the Unknown)(1932年)など、人物評伝・研究書も著している。カーネギーの著書では、他者に対する自己の行動を変えることにより、他者の行動を変えることができる、という考えが柱のひとつとなっている。

カーネギーの自己啓発手法について

デール・カーネギーと並び、アメリカで伝説化している自己啓発の偉人といえば、ナポレオン・ヒルがいる。この二人はいずれも、世界大恐慌(1924)前後に登場し、落ち込み切ったアメリカ人の一般大衆に活力を与えると同時に、労働の効率化を解いて回ったという類似点がある。

この二人は紛れもなく、自己啓発書の第一人者で世界でも最も有名な二人だ。

ということで、二人の違いを以下に併記していこうと思う。

デール・カーネギーの特色

  • 効率性を妨げる“不安”を取り除く
  • とにかく、相談者の悩みを聞く
  • 宗教に頼ってもいいので、自分の外に防波堤を作る
  • 本質を時には無視する
  • 忙しくしてひたすら働く

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ナポレオン・ヒルの特色

  • お金を稼ぐ、強欲である自分を認める
  • 世の中の裏事情、悪を認める
  • 金銭が自分を守り、不安を取り除くことを知る
  • 人生の目的を決める
  • 真実を暴露する
  • マスターマインド(信用できる第三者の相談者)を作る
  • 潜在意識に働きかける

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D・カーネギーは、ひたすら癒しに徹した

こららのリスト化によってわかるのは、デール・カーネギーはいわゆるベビーフェイスで礼儀正しく、不安と向き合い、地道に功徳を重ねるタイプであるということ。

その逆に、ナポレオン・ヒルは、まるで悪魔との対話を好むような攻撃的だが、異常な陽気さと強欲さを持った、拝金思想で、組織を好むという特色を持つ。

また、デール・カーネギーはキリスト教信者で、かなり入れ込んでいる。ところがそのスタンスは、神による奇跡はあまり信じていない。つまり、耐え忍ぶ現実主義者なのだ。

それに対して、ナポレオン・ヒルは明確なエイシスト(反宗教主義)だ。ところが、根底で人間の潜在意識を最大限利用するというスタンスを保つため、目に見えないものを語るという点で、かなりのスピリチュアリズム性を有している。

日本人に合うのは、デール・カーネギー

以上のことから、おそらく容易に判別できるかと思うが、日本人にはデール・カーネギーが適している。そして、その最初の本として最適なのが『道は開ける』だと私は思う。

GMO創業者の熊谷正寿氏など、日本の経営者で本書を人生で一番影響を受けた本と掲げる有名人は非常に多い。ちなみに、熊谷正寿氏はナポレオン・ヒル『悪魔を出し抜け』の前書きに文章を提供するなど、両者に傾倒している人でもある。

目次

  • 訳者まえがき
    序――本書の生いたち
    本書から最大の成果を得るための九カ条
    ◇PART1 悩みに関する基本事項
    1 今日、一日の区切りで生きよ
    2 悩みを解決するための魔術的公式
    3 悩みがもたらす副作用
  • ◇PART2 悩みを分析する基礎技術
    4 悩みの分析と解消法
    5 仕事の悩みを半減させる方法
  • ◇PART3 悩みの習慣を早期に断つ方法
    6 心の中から悩みを追い出すには
    7 カブトムシに打ち倒されるな
    8 多くの悩みを閉め出すには
    9 避けられない運命には調子を合わせる
    10 悩みに歯止めをかける
    11 おがくずを挽こうとするな
  • ◇PART4 平和と幸福をもたらす精神状態を養う方法
    12 生活を転換させる指針
    13 仕返しは高くつく
    14 恩知らずを気にしない方法
    15 百万ドルか、手持ちの財産か
    16 自己を知り、自己に徹する
    17 レモンを手に入れたらレモネードをつくれ
    18 二週間でうつを治すには
  • ◇PART5 悩みを完全に克服する方法
    19 私の両親はいかにして悩みを克服したか
  • ◇PART6 批判を気にしない方法
    20 死んだ犬を蹴飛ばす者はいない
    21 非難に傷つかないためには
    22 私の犯した愚かな行為
  • ◇PART7 疲労と悩みを予防し心身を充実させる方法
    23 活動時間を一時間増やすには
    24 疲れの原因とその対策
    25 疲労を忘れ、若さを保つ方法
    26 疲労と悩みを予防する四つの習慣
    27 疲労や悩みの原因となる倦怠を追い払うには
    28 不眠症で悩まないために
  • ◇PART8 私はいかにして悩みを克服したか

ブログ主の勝手なまとめ

大恐慌後のアメリカの価値観が垣間見れる

本書は、1936年に発刊された。

1928年から発生した世界大恐慌(グレートリセッション)により、アメリカは世界最大の金融危機に見舞われ、その回復までに約25年を費やすこととなる。

その中で1930年代は、アメリカの最も悲惨で長い暗黒時代と言われている。

アメリカは、グレートリセッション前の株価を回復するのに25年の時間を費やした。

労働市場の混乱と技術革新で、失業者が町に溢れる

そんな状況の中で発刊された『道は開ける』であるが、現在ではビジネスコミュニケーションの名著と言われている。だが、読んでみると実際はかなり違った印象を受ける。

失業の“不安”との闘い方に大半を割く、前半部について

以下、目次を見てもらうとわかる。

  • ◇PART1 悩みに関する基本事項
  • 1 今日、一日の区切りで生きよ
  • 2 悩みを解決するための魔術的公式
  • 3 悩みがもたらす副作用
  • ◇PART2 悩みを分析する基礎技術
  • 4 悩みの分析と解消法
  • 5 仕事の悩みを半減させる方法
  • ◇PART3 悩みの習慣を早期に断つ方法
  • 6 心の中から悩みを追い出すには
  • 7 カブトムシに打ち倒されるな
  • 8 多くの悩みを閉め出すには
  • 9 避けられない運命には調子を合わせる
  • 10 悩みに歯止めをかける
  • 11 おがくずを挽こうとするな

『道は開ける』の冒頭から中盤にかけて、もうひたすら“不安”との闘い方を問う

よく、日本人はマイナス思考でネクラだと言われ、アメリカ人は陽気でポジティブだと言われる。だが、本書を読むとそれが“間違い”だというのがわかる。

要するにアメリカ人は国民全体で決心して「陽気でポジティブ」な人種に生まれ変わったのだ。

失われた世代(ヘミングウェイ・スタインベックら)のネクラなマインド

アメリカのノーベル文学賞を受賞したスタインベックやヘミングウェイを中心に、1930年代に活躍した文豪たちを『失われた世代』という。日本のロスジェネ世代というのはここからきている。

彼らの小説を読むと、元来、アメリカ人が“いかに暗くマイナス思考の民族”だったのかがわかる。それはもう、失敗に次ぐ失敗、失業に次ぐ失業で、借金まみれの人間集団だったのだ。

このように同時期の代表的な小説は、ドラマチックさが求められ、そのドラマの語源が悲劇を意味するごとく、当時の書籍は全般的に、ひどいことをネタにしたものが大半だった。

そこに登場したのが、いわゆる自己啓発書の第一世代のカーネギーやヒル博士などだ。

実体験しか信じない人に向けられた『道は開ける』

いくら暗い1930年代とはいえ、大恐慌から10年近く経つと、成功者も少しづつ現れる。

そんな成功者のインタビューをベースにしつつ、デール・カーネギーのセミナーに訪れる生徒への教材として情報を集約したのが『道は開ける』となる。

そこには、幾分、デール・カーネギーの考える成功法則はまざっているものの、基本的には鉄鋼王のカーネギーや自動車王のフォードなどの成功哲学がベースとなった内容が続く。

本書で語られる成功哲学は、ほぼ全て実話として語られると言っていい。

それは、当時のアメリカ人の極度の不信感主義に対する数少ない処方箋として役割がある。

悩む時間を減らし、手を動かし続ける

後半につれて、カーネギーは徐々に“ビジネスの本質は何か?”を語っていく

しかしその内容はシンプルで、いかに悩む無駄な時間を減らし、手を動かし続けるのか、に終始している。細かなノウハウには触れないが、そのいずれも技術的・時事的な内容とはかけ離れた、半ば原始的なものなので、それゆえに現代に通じる内容となっている。

自分の実力を知るために、底辺を知る、地獄をイメージする

本書に書かれたケースとして有名なのは、戦争で両足を失った男性が、陽気に暮らしているだけではなく、周囲の人間たちを励ましているエピソードだろう。

しかも彼は自力で暮らし、労働者でもあった。現代では考えられないことだ。

しかも彼の本名はこの書籍できちんと公開されており、おそらく本書を読んだ人の中には彼に会いに行った人もいたりするのではないだろうか?

過剰労働を推奨する側面も

だが、現代人は本書を読むことで当時の異常さにも気が付く。

それは睡眠時間を削ってでも働き続けることで、不安を解消せよ、という本書の思想である。

これは後半部分にいくにつれて拍車がかかってくる。

日本が過労死の国になってしまったのも、おそらく本書が一役買っている笑。

だが、富を得ることを優先するこの考えは、私は基本的には間違っていない。なぜなら、不況や経済的な失敗の結果として、当時のアメリカ(戦後の日本も)、まだ名付けられていなかったうつ病による自殺、暴力などがあったはずなのだ。

この本を読むことで、同時に、なぜ団塊世代が根性論的な思想を辛抱したかさえまでわかる。

自らの“課題”を探すために読む本

だが、本書にそれを補っても余る多大な魅力がある。

それが、自分の課題を選別し、的確な人生目標を設定するために必要な安定した知識だ。しかもその知識は多くの実体験に支えられているために、現在でも有効度が非常に高い。

Q:どんな人が読むべきか?

A:自己啓発書を読み慣れていない人におすすめ。

自己啓発書は、独特のきな臭さがある。

しかも、自己啓発書に書かれている大半のことは実現しないし、むしろ害悪があるケースも少なくない。

こういうことは、自己啓発書を読み慣れている人は自然とわかっている。

そういう人は、ナポレオン・ヒルの書籍を読んだ方がいいだろう。

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