著者紹介
ダニエル・J・シーゲル(1957〜)

UCLA医学部の精神医学の臨床教授。ハーバード大学医学大学院卒業。『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)、『脳をみる心、心をみる脳』(星和書店)、『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)など、育児と子どもの発達に関する多数の著書があり、世界中で講演やワークショップを実施している。妻とともにロサンゼルス在住。著書は全世界40カ国で出版され、多くの国でベストセラーとして売れ続けている。
目次
- 序章 子どもに「自己肯定感」が必要な理由
- 第1章 自己肯定感を高める1
- 「キレない力」―「かんしゃく」を起こす子の脳のなかで起こっていること
- 第2章 自己肯定感を高める2
- 「立ち直る力」―転んでもすぐに起き上がる子がやっている習慣
- 第3章 自己肯定感を高める3
- 「自分の心を見る力」―子どもに教えたい「自分を客観的に見る」トレーニング
- 第4章 自己肯定感を高める4
- 「共感する力」―「わがまま」な子に「思いやり」を身につけさせる親の声かけ
- 終章 「成功」とは何か―
- 「自己肯定感」に支えられた人生
概要
子供の脳は“二階建て”で、できている。
一階は、適当で無頓着。だが二階は、敏感で崩れやすい。
親はこの脳の構造を理解しながら、二階部分にある子供の“本質をしつけていく”慎重さと辛抱強さが、どんな時も要求される。
だが、無理はしなくていい。
余裕がある時だけ二階部分にいくのでも、充分、理想的な子育てを実現できる。
これは、ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』のシステム1(直感)とシステム2(熟考)と同じ考え方とほぼ同じものだが、それを初等教育用に置き換えて、再構築したものだと言っていい。
大人と子供の情報取得・反応のメカニズムは、形が一緒ではあっても、そもそもの下地や前提知識、これから取得する知識に対する姿勢などが全く違うため、実質別ものだ。
だが、似ていることは似ている。似ているが故に、大人は頻繁に間違いを起こしてしまうと言っていい。だから、このような本の必要性があると言える。
関連記事:人間の誤読・誤反応を徹底研究。直感(ファスト)と思考(スロー)の切り替えメカニズムを発見した悪魔の書籍『ファスト&スロー』(上・下)ダニエル・カーネマン
子供の発達の中で親が準備してやれること
本書で書かれている内容の要点をざっくり書いていこう。
- 子供は感情の制御が一人ではできない
- 最初は全ての子供が自分中心主義で行動する(他者が無い)
- ゆえに親のフォローがなければ、他人との関係が作れない
- 感情のグリーンゾーン(平穏域)とレットゾーン(興奮域)、ブルーゾーン(閉し域)を認識させ、そのつど読み解くのが重要。グリーンゾーンになるまで、親は教えるのはやめるべき
- グリーンゾーンを広げる手助けを親がする
- グリーンゾーンでの親の共感誘導によって“しつけ”が成立しやすい環境が整う
上記の一覧を見て、親の教育に何が必要かわかるだろうか? カンが良ければ、もしかするとこの箇条書きだけで、この本の凄さがわかるかもしれない。
“しつけ”は、できる「タイミング」が実は限られている
子育てに一番大事なことは、内容ではなく、タイミングだというのが本書のスタンスだ。その次に大事なことは、グリーンゾーンを広げて安定させる“共感誘導”である。
しつけの本質は、確かに“教えること”に集約する。そして、親が教えたいと思っていることは、大概において正しい。当然だろう。社会生活を現役で送っているのは、親の方なのだ。
だが、それらがほとんどうまく行かないのは、やるべきタイミングを親が取れていないからだ。そこに気づかせてくれる様々な内容が、本書の前半部で書かれている。
グリーン・レッド・ブルーのゾーンタイミングをいかにして知るか?
本書には、さまざまなケーススタディを提示しながら、この子育てでモノを教えるためのタイミングを学習していく。このタイミングに関してだけは、どうしても定式化できないらしい。
また、親が知らないうちに子供が一方的に親から情報を受け取ってしまう、いわゆる“反面教師”というタイミングもある。それらは、レッドゾーン、ブルーゾーンの時に発動される。
これらの悲劇も、グリーンゾーンの面積を増やすことで回避していくことが可能なのだ。
グリーンゾーンの中で“酷い思い”も“辛い体験”も経験してもらう
しかし、ここまでの話だと、「まるで子供を甘やかすだけの、親が一方的にフォローするだけの無責任な本では無いのか?」という疑念も湧いてくる。当然だろう。
それに対しても、本書はきちんと答えを用意している。
個人的には、今まで読んだ子育て本の中でダントツにおすすめできるものだ。
Q:どんな人が読むべきか?
A:とにかく、内容的にはほとんどの親におすすめできる。
子供の感情を三原色(赤・青・緑)に区分けしただけではなく、子供との共感の仕方を詳しく書いた、その距離の縮め方のノウハウは目を見張るものがある。
これは、一度でも親という役割を経験したことがある人ならわかると思うが、例えば保育士で優れた先生というのは、よく考えるとこの本で書かれているアクションを子供にしている。
これまで様々な本を読んだ限り、欧米と日本の子育ては、社会システム上かなり違うせいか、その内容を行かせないものが多かった。その独特の目の付け所のせいか、本書のノウハウは日本の子育てでも大いに使えるものだと思う。
Q:共感の仕方、とは例えばどんなことが書かれているか?
A:例えば、他人からものを奪われるのを気にして、クラスメートとものを共有できない子供が、いじめられたとする。そのとき、本書では瞬時に親に対して「できることの仕分け」を要求する。
その仕分けは以下の通りだ。
- はじめに、子供の辛さを共有し、グリーンゾーンになるのを待つ
- グリーンゾーンになったら、相手の境遇(遊びたいのに遊べない)をイメージする
- イメージできたら、共有したい立場に子供を立たせ、親がものを所有する
- 親が、最終的に共有したい子供を憤慨させ、外側にいる人間の感情を理解させる
この仮のアクション仕分けを瞬時にできるように、日常的に親に訓練することを本書では促す。そして、今日は子供に時間を取れる、という時だけ、この「できることを実行する」というやり方で、子供と接するのを勧めるのである。
本書は、こうやって子育ての難しさであり面白さの本質を伝えるのである。
このような、他の書籍ではなかなかできない高度な解説を、この本の後半部に渡って何パターンも掲載しており、この部分は相当評価できるものだと思う。