なぜ村西とおるは、映画になって世界流通をしたのか?バブルの浮き沈みを克明に語った本書を分析する『全裸監督 村西とおる伝』

オーディオブック

著者紹介

本橋 信宏(1956年4月4日 – )
日本の著作家・評論家。1980年代に、村西とおるのビニ本資本を注入して経営された新英出版の雑誌の編集長に、若干26歳で就任。倒産まで編集長を続ける。その後、村西とおるのビデオ参入に参画。出演者、プロデューサーとしても活動する。近年は、政治思想からサブカルチャーまで幅広い分野で文筆活動を行う。反体制運動に関する著作や評論でも知られる。

村西とおる紹介

村西 とおる(1948年9月9日 – )

日本のAV監督、実業家。福島県いわき市出身。英語辞書販売、ポルノ雑誌の販売などを手がけたのち、アダルトビデオの制作プロダクションを設立。自らカメラを回しながら男優としても出演するスタイルで注目を集め、バブル期の業界で多数の作品を制作して大きな成功を収めた。その後、50億の借金を背負うも完済。2019年と2021年に本書『全裸監督』はNetflix(ネットフィリックス)で制作され、日本人が配信映画を見る転換期の最重要な作品となった。

この本を読むべき人

  • 映画では語られていない経営者としての村西とおるを知りた人
  • バブル時代の雰囲気をもう一度思い出したい人
  • バブル期の拡大ビジネスの崩壊を経年でしっかり見たい人

2013年、私は映画祭で村西とおるを見た

本書にも知るさている通り2013年に東京・中野で開催された新人監督映画祭で、村西とおる監督が登場した。私もその映画祭で作品を上映したので、彼を見た。

映画祭の開会式の終盤に村西とおる監督が神輿で担がれて、入場してきた。彼の周りには、多くの映画関係者、といっても、ほとんどが50〜60歳代の助監督やスタッフだったと記憶している。

開会式で村西とおる監督が登場した後、多くの観客やスタッフが涙を流していた。

彼を扱ったドキュメンタリー作品が作品がその後、それよりも前の出来事だった。

私はそれを見て、当時の彼が何か危機的な状況から復活したことを知った。当時の彼は、この本にも書かれているが、病で生死の境をさまよい、借金も50億を超えるほど抱えていたのだ。

新人監督映画祭は、東京のテレビ、ビデオ映画の助監督が集まってできた映画祭で、おそらく彼らの中には、村西監督のダイヤモンド映像などから仕事を受注していた人が少なからずいたのだろう。

なぜ、本書は映画化できたか?

私は、この『全裸監督』が映画化された時、意外性を実は感じなかった。

それは、海外の映画祭に行ったり、海外留学をした際に、外国で日本のアダルトビデオが本当によく見られているのを知っていたからだ。

一番驚いたのは、2014年頃いった東南アジアの海外旅行だ。村西とおるとカンパニー松尾の圧倒的な知名度を知ることになった。フィリピンの離島の某観光地でガイドをしていた青年が、みんな「トオル・ムラニシ」「カンパニー・マツオ」を知っていたのだ。私に、スマホ(ブラックベリー)で、そのあらあらの動画を私に見せてくれた。

だが一つ付け加えておくと、高級ビデオでみんなが欲しく手に入らないのがカンパニー松尾で、古くてよく流通していて、ほとんどタダで見れるのが村西とおるという感じだった。

この流れを知っていた私は、『全裸監督』は、おそらく日本だけではなく、中国やフィリピン、マレーシアやインドネシアでも売れるから作ったのだろう、ということを思った。

ビニ本時代の超高速現金取引

私が本書を読んで特に感動的だっったのは、アダルトビデオ時代ではなくむしろビニ本時代だった。

隠れて商売をし、膨大な現金が飛び回るその世界観が、なんとなく懐かしかった。私は、村西監督のリアルタイムの世代ではないが、こういう商売がもう二度と訪れないことを、本書を通じて確認すると共に、なんというか、バブルの狂気の本質を再確認した。

私の出身地である東北にほど近い、北海道や宮城などで彼が商売展開していたのもある。1990年は、関西や九州よりも東北の方がその手の商売が盛んだったのは、彼のせいだったのだ。

借金取りの襲来を何度も目撃。その子育てが名門校に役立った

アダルトビデオ時代の本書の記述は、主に女優との関係やそのスタッフとの裏切り合いなどに主としており、結構、世に知れ渡っている情報が多かった。

その反面、北海道時代の村西とおるの情報は知られてないものが多い。それに、彼が市場を独占したのは、どちらかといえば、北海道時代だ。当然、村西監督の経営センスや商才についてもやはりビニ本時代が興味深い内容が書かれていた。

そして、面白かったのが、村西監督との子供のエピソードだ。

彼は子供を出しに金を稼ぐことに、すごく抵抗があるせいか、世に出ている情報で、子供との関わりを記録したものはほとんどない。

著者が、村西監督とビニ本時代からビデオ時代の末期まで、30年近く知り合いであったこともあり、噂では慶應幼稚園に入学したといわれるその子供の記述が本作は多い。この点は、おそらくだが、ネットフィリックスの映画にも入っていないだろう(見れてないが)。

50億の借金を背負った村西のもとには、朝から多くの借金取りが訪れて、その一部始終をしょっちゅう子供に見られていたという。

私は、おそらくその影響が子供にあって、名門校の入学に至ったのではないかと感じる。

バブルの雰囲気を、この本以上に味わえる作品はない

私は、結構な割合でバブル期の作品や書籍を読んでいる。

しかしながら、いまいち当時の熱狂ぶりを再現できているものに出会ったことはない。それは、浮かれているばかりがバブルではない。ということに、ほとんどの人が気がついていないからだと思う。浮かれるためには、その前提が必要なのだ。

本書にはその全てと言って過言ではないものが緻密に描かれている。

私は映画は見ていないが、どう考えてもこれら全部を映像で再現できたようには思えない。それらは会社の設立から税金に関する考え方までを含めた、バブル期のお金の使い方なのだ。当時は、不必要に友人同士の金銭の貸し借りもあった。

そういう、時代の真意的なものが本にだけかかれているように思う。力作である。

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