アメリカの迷走を解決した名著。ニーズ探索やマーケティング理論を根底から覆す『ジョブ理論』クレイトン・M・クリステンセン

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著者紹介

アマゾン著者ページより引用

プロフィール

クレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen、1952〜2020)

アメリカ合衆国の実業家、経営学者。

初の著作である『イノベーションのジレンマ』(人や企業はなぜ成功を続けることができないのか理論)によって破壊的イノベーションの理論を確立させたことで有名になり、企業におけるイノベーションの研究における第一人者である。

また、ハーバード・ビジネス・スクール (HBS) の教授も務め、低迷していた同スクールを世界で最も優れた人材を輩出する機関に再生した。

関連記事:(一眼でわかる図掲載)流行語「破壊的イノベーション」を生み出した『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン 要約

生い立ち(化学素材企業のCEO経験のある学者として珍しい一面)

1952年4月6日にアメリカ合衆国ユタ州ソルトレイクシティに8人兄弟の第二子として生まれた。ブリガムヤング大学経済学部を首席で卒業後、オックスフォード大学の経済学修士、ハーバード・ビジネス・スクールの経営管理学修士、経営学博士 を取得。学生時代は203cmある身長を生かし、バスケットボールチームに入っていた。

ボストン・コンサルティング・グループではコンサルタントおよびプロジェクトリーダーとして1979年から1984年を過ごし、製造業向けのコンサルティングサービスに貢献した。 その間、ホワイトハウス・フェローとして運輸省長官を2年間補佐した。 その後、1984年にはMITの教授数名と共同で Ceramics Process Systems Corporation(CPSC:化学素材を取り扱う企業)を設立し、CEOを務めた。理論家としては非常に珍しい、実業家としての側面がある。

2020年1月にクリステンセンは患っていたがんの合併症でなくなった。日本国内でもイノベーションと経済成長の思想家としてだけでなく、氏の人生哲学を惜しむ声が多く、ビジネス書とは一線を画す『イノベーション・オブ・ライフ』を名著として挙げる著名人も多い。

スティーブ・ジョブズとその他への影響

クリステンセンの熱心な信望者だった人物にスティーブ・ジョブズがいる。ジョブズが肌身離さず、常時抱えている本の中に『イノベーションのジレンマ』があったと言われる。

関連記事:アップルの共同創業者でiPhoneを生んだスティーブ・ジョブズ氏はクリステンセン氏のファンだった。 2011年10月、ジョブズ氏の死後数カ月に刊行されたウォルター・アイザックソンの伝記によれば、「イノベーターのジレンマ」は「(ジョブズに)極めて深い影響を与えた」という。

ただ、クリステンセンの最後の代表作と言われる本書『ジョブ理論』は、2016年の発行のためにジョブズは読んでいない。しかし、本書の影響はGAFAMを代表とする経営者の書物や企業決算資料、アニュアルレポートで頻繁に引用されるところに見て取れる。

ブログ主の勝手なまとめ

商品開発に、“ジョブ”という最適な言葉を見出した

これまでもマーケティングの名著があったり、市場調査、人口動態学的(コトラーやドラッカー)などの優れた研究があったが、いまいち誰もそれをいかせていなかった。

その理由は、彼らの定義する言葉の“結局は的外れ”な捉え方である。

もっというと、言葉・定義としては正しくても“全く使えない”のである。

クリステンセンは、生涯の通じてその偉人たちが残した“使えない定義”や“使えない言葉”と戦った学者ではないかというのが私の彼の著書を読んできた感想である。

“ジョブ”とは何か? それは「商品」で行うべき、具体的な「アクション」のようなもの

では、そのジョブとは何か?

商品の価値や購入動機に関しては、潜在価値ニーズ困りごと、逆に見栄などといった形で、商品価値の代わりの表現としてさまざまな表現がこれまでずっと使用されてきた。

それらの総称を“ジョブ”と言ってしまうことだと言えるが、これだと芸がない。

第一に、それだとなぜ、従来のマーケティングやリサーチが的を外してきて、なぜ“ジョブ理論”が的を外さないのかを説明することができないのだ。

つまり“ジョブ理論”とは、定式化を拒むほど超絶複雑な、もしかすると理論ですらないもので、だけども、周囲の労働者を動かすには「尋常じゃないわかりやすさ」を伴うものだと言える。

つまり、要約が本来不可能なもので、それは分厚い本書を何度か読み切らなければなかなかわからないものだと言える。学者の考えた理論でありながら、現場主義的な体感則なのだ。

“ジョブ”の具体的な例

おむつの売れ行きを決定づけた「赤ちゃんの睡眠の質」と「脳発達」:中国

本書で私が一番関心したのが、中国進出を目指したP&G(プロクター&ギャンブル)のおむつシリーズであるパンパースの例だった。これは“ジョブ理論”が“安さ”をうちのめした例だと言える。

P&Gは、中国進出に際して、どれだけ安い商品を提供できるかというリサーチをしていた。だが、いくら激安のオムツを販売しても中国での売上は芳しくなく、しかも値下げ競争が始まる。

そこで、P&Gはコストと時間を費やし、徹底的なリサーチを行った。その結果導き出したのは子供が寝てくれないことで「夫婦間のセックスが減る」ということから導かれた「赤ちゃんの睡眠の長時間化」が、おむつに求められているという事実だった。

そして、この商品は更なる“ジョブの解決”をももたらした。

睡眠の短い赤ちゃんの脳は、発達が遅く、問題も生じやすいという研究結果である。

これが、本来、世界一の教育熱心だと言われる中国人女性への最大の売り文句となり、この性能によってパンパースは高額にもかかわらず、市場を独占することとなった。

これに関しては、2013年ごろから日本でも起きた中国人のおむつの買い占め現象についても同様の説明がつく。つまり、日本人は実はこの最重要ジョブを一番初めに知るべきだったのだ。

健康食や「旨さ」に打ち勝ったMサイズのミルクセーキ:アメリカ

ミルクセーキの例は本書の一番初めに登場する。

こちらは、逆算する形でミルクセーキメーカーが「本来、重視していなかった朝食のゾーンで、どの競合よりもなぜ売れるのか奇妙に思った」というのが、ことの発端だった。

その答えは、シンプルだった。

他のライバルは、朝食に求められるのものを「ヘルシーさ(野菜ジュース・サラダ)」とか「手軽さ(シリアル・ファーストフード)」などという完全に間違った“ジョブ”を設定していたのだった。

では、車社会のアメリカ人の間で朝食に求められていたものとは、以下の三つだった。

  • 片手で運転しながら飲める(ストロー、サイズ感、適度な飲みにくさ)
  • 眠くなりにくいのに腹持ちがいい
  • 栄養が適度にある(お菓子ではない程度)

これらを完全に内包したのがたまたまミルクセーキだったという例である。

これは、ミルクセーキが持つ本来の「甘い飲み物」という特質には全く想定されてなかった“ジョブ”であり、これによって“ジョブ”というものは、違うものを使用者が勝手にアレンジする、といことでも発生し得るケースもある、いうことが、明らかになった。

商品開発において“ジョブ理論”は、最も「正解に近い」

このような複雑な“ジョブ理論”ではあるが、それは発見されると途端にシンプルになり、商品やサービスをつくりやすくなるという特性を持っている。

実質的に、今の世界で企画・開発の最も正解に近い理論ということになる。

Q:どんな人が読むべきか?

A:難しい本であるが、クリステンセンの本の中ではまだかなり「やさしい」方である。

ただ、前提として『イノベーションのジレンマ』に含まれる知識が必要であり、中でも流行語にすらなった『破壊的イノベーション(規模の小さな企業や部門がいきなり追いつくこと)』の理解が必要である。よって、クリステンセンの過去の著作を読んでいた方がいいのは間違いない。

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