著者紹介
佐藤 優(さとう まさる、1960〜)
日本の作家、外交官。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。
外務省勤務時代は、ロシア問題関連で鈴木宗男のもとで働いていたイメージが強いが、実際はイギリス、ロシア、チェコなどでの活動歴もあり、さまざまな国でのインテリジェンス活動に携わってきた。
副島隆彦(そえじま たかひこ、1953〜)
福岡市生まれ。本籍・佐賀市。早稲田大学法学部卒業。大学卒業後、銀行員(インタビューなどで英国:ロイズ系の金融機関勤務だと答えている)として英国に勤務するも3年ほどで退職し、帰国する。その後、代々木ゼミナール講師(受験英語)、常葉学園大学教授を歴任。
専門はアメリカ政治思想と政治史。選挙や米国政治人材に詳しく、オバマ当選(2008)、トランプ当選(2016)の予測を的中させたが、バイデン当選(2020)を外す。リーマンショックを予測した『連鎖する大暴落』、『逃がせ隠せ個人資産』、『世界権力者シリーズ』はベストセラーに。
目次
- 第1章 安倍元首相を殺したのは同盟国アメリカである
- 第2章 日本では絶対に報じられないあの戦争の過去・現在・未来
- 第3章 「必勝の信念」から始まる戦争分析の大きな過ち
- 第4章 アメリカとイギリスによる戦争犯罪の恐るべき真実
- 第5章 あの戦争を乗り越え復活するロシア帝国
主要メディアから身を隠し続けた佐藤優の真骨頂対談
テレビ・新聞・週刊誌の依頼を断り続けた佐藤氏
佐藤優氏は、元ロシア専門の分析官であり、役にであったためにロシアが侵攻した時から、自分の元に取材依頼が殺到し、しかもそれらのメディアは自分の話すことを、都合よくアメリカ寄りに変節して報道するというのを事前に予測していた。
そのため、ノーカットで自分の発言を届けるメディア(鈴木宗男氏の勉強会YouTubeチャンネル)や一部の専門雑誌以外の取材は全て断っていたという。
そんな佐藤優氏が満を辞して、盟友の副島隆彦氏との対談本を出した。メインテーマは、もちろんロシアについてである。
小泉悠・兵頭慎治・高橋杉雄ら、全てが外した戦況の内実を語る
当初からプーチンが間違っているものの、ロシアが目標を達成するだろうと主張をし続けた佐藤優に対し、アメリカの提供する情報をただ右から左へ、そしてわかりづらく解説した東京大学の小泉悠、防衛省防衛研究所の兵頭慎治、防衛政策研究室長の高橋杉雄らに対して、佐藤氏は「信じてはいけない日本のロシア専門家」と断定した。
最近では、彼らはメディアに登場する回数も減っており、予想を外し、コロコロと主張を変えているのはウェブでもよく知られるようになってきている。
では、佐藤氏はなぜ予想をはずなかったかというと、そこにはサーシャという佐藤優氏のロシア滞在時の大学時代の親友の存在があるということが本書に書かれている。

デビュー作となった『国家の罠』に続いて書かれた『自壊する帝国』では、ロシア特有の政治風土や情報網に関してをサーシャー(アレクサンドル・カザコフ)から丁寧に教えてもらうシーンが多くある。佐藤氏のこの基盤がなければ、特に戦時のロシア政府やプーチンの対応について、正しい判断ができないのだろう。単にロシア語を話せるだけでは、今回の戦争の真意は見誤ることになるのだ。
ウェブ上から消された豊富な画像・資料で対談が進む
ウェブ上から消えた画像や映像資料などを用いての対談
ジェイク・サリバンやキッシンジャー、アゾフ連隊、ロバート・ケーガンとビクトリア・ヌーランド夫妻、キンバリー・ケーガンなど、アメリカの重要人物を軸に、論を進めていく副島隆彦氏。
そこに絡めて、現在はウェブ上から消えてしまった多くの画像・動画を用いながら、佐藤優氏との対談が進んでいく。重要なのは、戦況ではなく、利害関係であり、副島氏と佐藤氏の意見は概ね噛み合っていく。
戦争を7年前に予言していた副島隆彦氏
最大のキーパーソンはビクトリア・ヌーランド
本書では、このビクトリア・ヌーランドについて本全体の4分の1くらいが割かれている。彼女が、今回の戦争の準備を8年前から現地で行っていたという証拠を、次々に出す副島隆彦氏。
それに早くから気がついており、途中までは見てぬふりをしていたのが大統領時代のドナルド・トランプだが、大統領選挙に絡めてこのことを表に出そうとしたのが2019年の選挙だという。それ以前にも、トランプはロシアサイドの援助を受けたと言われるロシアゲート事件があった。
つまり、トランプがバイデン親子に仕掛けたスキャンダルと、ロシアゲート事件などは全て繋がっており、今回の戦争の不戦となっていたというのが見えてくる。それを網羅し、かなり早い段階から佐藤優氏に何度も問いかけていたのが、副島隆彦氏だったとも言える。
佐藤優は、副島隆彦氏の警鐘にようやく気がついた
選挙予想や経済予想を的中させて名を馳せてきた副島隆彦氏に対し、私個人の意見だがこれまで予想が全く当たらなかったのが佐藤優氏だ。7年前の対談でもビクトリア・ヌーランドの件で、ワーワー騒ぐ副島氏に対して、佐藤氏はほぼ無反応だったと言える。
そんな佐藤優氏だが、本書中盤で10年近くビクトリア・ヌーランドの動向をウォッチし続け、そのことで継承を鳴らしてきたことに敬意を示しつつ、自らの選球眼がなかったことを副島隆彦氏に詫びるというというか、それに似た態度に出た。
そして、彼の本格的な分析が本書の中盤から後半にかけて進む。
なぜプーチンが「ナチ」と言ったのかを、完全解説した佐藤優
当初日本のメディアでも、なぜプーチンがナチと名指ししたのかは隠され続けた。そのことに関しては、前に述べた東京大学の小泉悠、防衛省防衛研究所の兵頭慎治、防衛政策研究室長の高橋杉雄らは、全て否定する側にも回っていたのを記憶している。
その中で、佐藤氏の存在は大きかったと言える。彼が鈴木宗男との配信などで地道に解説し続けた功績がある。世界標準の知識だった。
今では、アゾフ連隊などの詳しい情報などはシェアされており、戦争の発端はネオナチ人脈だというのが、広く知れ渡っている。これを書くと、当初はGoogleがWebページを検索でヒットさせないという設定していた。現在は、それも解除されている。
本書ではその戦況の複雑さを、改めて佐藤優氏が解説している。ここの部分は、今後、戦況を見誤らないためには、かなり重要となる知識だろう。
Q:どんな人が読むべきか?
A:予想・予言の的中の源を知りたい人
本書は、二人の対談の中でもとりわけ佐藤優氏が目立つ回となっており、いっつも副島隆彦氏が目立ってばかりいる中では珍しい回となっている。
だが、重要なのは、そもそもこの盛り上がりを作った、副島隆彦氏のビクトリア・ヌーランドへの分析が10年以上前からなされていたことであり、その結果8年前に戦争が起きると予測したその予言の的中である。
政治・経済の予言は、重要人物を特定すること
この二人の対談から導かれるのは、
人物を特定して話す:副島隆彦氏
人物を特定して話せない:佐藤優
という、やや佐藤氏にとって残酷な結論だろう。副島隆彦氏の、特定の人物を名指しで分析して裁判覚悟で書くというスタンスは『世界権力者図鑑』などの同氏の人気シリーズにも顕著に表れている。2018年の『世界権力者図鑑』でも、ビクトリア・ヌーランドにスポットが当たっている。
このことが私は本書の対談本を通して初めてわかった。
おそらく、勘のいい人はこの予言には重要人物特定が必須ということを本書を通して知ることになるのではないかと思っている。