少子高齢化&財政崩壊のオワコン日本の再生に取り組む。経営者を育てる才能に突出した教育者。瀧本哲史の全著作解説

オーディオブック

この記事を書く、私、PIT監督とは?

2000年代前半からライター・ディレクターとして活動。その後、東京芸術大学大学院映像研究科を修了し、映画監督と社会人を平行でこなす。

多くの海外の映画祭で受賞・上映歴あり。助成金を受けた映画製作経験も複数あり。現在は金融系の出版社で編集者をしつつ、世界基準の海外ビジネス系書籍を読み漁る。不動産投資、日本株・米国株式投資も行う。

特集人物紹介

瀧本哲史(1972〜2019)

日本のエンジェル投資家、経営コンサルタント。株式会社オトバンク取締役(オーディオブック)、全国教室ディベート連盟副理事長等を歴任した。

東京大学を卒業後、同大学の助手を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、エレクトロニクス業界のコンサルタントを担当。同社を退社後に2000年より、1000億円超の債務を抱えていた日本交通の経営再建に取り組む。主な著書に『君に友達はいらない』『僕は君たちに武器を配りたい』(2012年ビジネス書大賞受賞)など。

主な投資先:オトバンク(オーディオブック最大手)、レノバ(再生エネルギー大手)、Psychic VR Lab(全米最大の「SVVR」の正式メンバー・急成長)、セフィーヌ(自然化粧品)、ポテトかいつか(カルビーに吸収合併)、atomis(多孔性配位高分子サービス:「EY Innovative Startup 2021」エネルギー部門受賞)など

瀧本哲史氏の著作はオーディオブックの多くは読み放題で読むことができます。

作家としての瀧本哲史の成り立ち

瀧本氏の著書は全て、東日本大震災後に書かれており、震災後の日本の衰退を意識したものだ。

株価の低迷はバブル崩壊後から起きていたが、国力の低下という面では、低成長以外で数字に具体的に現れることなく、ずっと沈黙していた。

だが、東日本大震災によってこれまで持ち堪えていた製造業やメーカーの解体、中国企業への買収などが目立ち、以降さまざまな問題が表出し始めた。

ほぼ全ての著作が、教え子である京都大学の学生たちのリアクションベース

ただ、最初から彼は日本の衰退をフォローするつもりではなかった。興味がなかったし、取り組む必要性を感じていなかっただろう。

彼は、一般的な東大出身者のように、自分もかつてはニヒル側面(自分は特別だという意識)が先行し、逃げられるならこっそり日本から逃げたいと思っていたと著作内で語っている。

だが、彼に転機が訪れる。

エンジェル投資家と並行して勤務していた京都大学准教授時代に、起業家論を受け持っていたが、授業でのアンケートによって、自分の授業の大半が京都大学の医学部生で占められていたことを知った。それにより、医者という安定の最頂上にいるはずの京大医学部生の悲壮感を知る。

この出来事から、起業家教育者としての自分の能力を意識するようになったそうだ。

書籍の特徴

瀧本氏の著作の特徴は以下の通り

  • 海外モデルをあまり採用したがらない
  • 日本人の欠点を利点に変換したいと考えている
  • エンジェル投資家=起業家のメンターだと考えている
  • 英語を最重要言語だと考えていない
  • 全ての書籍は低年齢層の14〜22歳に向けて書かれている
  • ディベート畑出身だが、ディベートを重視しない

彼自身の中でもちろんマッキンゼー時代の経験は大きい。だが、不思議なことに、彼はあまりマッキンゼー式ということを言わない。その辺は大前研一や勝間和代と大きく違う。

また、ディベート畑出身だが、ディベートを重視しない。意外なことに、日本の学生ディベート会を作った苫米地英人などの前の世代をあまり尊敬していない。というか、むしろ嫌っている。

ベストセラーが多いのにもかかわらず、彼の書籍のターゲットは一貫して高校生と大学生だ。この点も多くのビジネス書籍の作家と異なるという点がある。

チャレンジ精神を望んではいるが、出来ないことはすべきでない

彼の最大の特徴は『出来ないことはしない』『やるときは混乱しながら』という思想である。

彼は徹底して理想論を語らない。

かと言って、地道かというそうではない。この辺が彼の本が売れるポイントなのだと思う。読んだ後、なんとなくやる気が出たり、何か出来そうな気配を感じるのだ。

全著作解説(おすすめ順)

『僕は君たちに武器を配りたい』

関連記事:京大医学部生でさえ未来を描けない、日本を襲う“本物の資本主義の正体”。ネットのカリスマ疲れに最適『僕は君たちに武器を配りたい』瀧本哲史

『僕は君たちに武器を配りたい』

瀧本氏の最大のヒットで、最高の本だと思います。この書籍の中で語られるのは、稼げて楽しめる組織づくり。社会的・経済的不安を感じて自分の企業論を聞きにきた、京都大学医学部生に向けた講義ですが、とてもわかりやすい書籍です。

『君に友だちはいらない』

関連記事:一見当たり前に見えることを、意外性や新しさを持って解説。今まで語られなかった組織論『君に友だちはいらない』瀧本哲史

『君に友だちはいらない』
本書では、アイディア、思考力、継続力を使って、成功しようとする人間を邪魔する“友人・親・教師”についての対処法が書かれています。これは、日本人が今まで最も苦手としてきたもの。いわゆるドリームキラーという存在です。また、金を稼ぐ、人生のギャンブル的な感じに見える大きなカケをする人間への優しい視線が描かれています。

『ミライの授業』

関連記事:未来とは、大人が世界を変えることを妨害する社会のことだ。成功者の人生から逆算して現実の残酷さを、楽しく学ぶ『ミライの授業』瀧本哲史

『ミライの授業』
瀧本氏は、おそらく本書を一番、世に出したかったのではないかと思います。なぜなら、大学生は進路が決まりすぎて遅すぎる。高校生も、能力差や学校のレベルなどで開きがあるため、正当な努力を出来ない環境に身を置いている人間が少なくない。

だとしたら、日本の起業家教育は中学生まで遡ってやる必要がある。
本書では、歴史に残る人物の評伝を使いながら、マインドフルネスを構築しつつ、独力で道を切り開く方法が描かれています。

『武器としての決断思考』

関連記事:京大医学部生に口コミで人気化した文系講義を書籍化。日本人にベストな意思決定プロセスとは何か?が異常なほど分かりやすい『武器としての決断思考』瀧本哲史

『武器としての決断思考』
この本は、単なる意思決定の本ではありません。そういう本は駄作が多い。まず踏まえるべきは、日本人の独特の意思決定プロセス。本書では、自分の存在をむやみに誇張したり、組織に反旗を翻したりせずに、いかにして物事を実行に移すかに主題が絞られています。瀧本氏は、単にアメリカや外国の学問を導入するだけではなく、こういう日本時向けに噛み砕く作業が得意な作家だったと言えます。

『武器としての交渉思考』

関連記事:日本人が苦手とする交渉術を、京大生に教える。給与交渉や値切りにも抜群の即効性『武器としての交渉思考』瀧本哲史

『武器としての交渉思考』
本書は、日本人が外国人に比べて最も苦手にしている交渉術について書かれています。しかも、日本人相手に使える交渉法など、具体的で使いやすいメソッドも多い。瀧本氏の本の中ではかなり即効性の高い本だといえます。

『2020年6月30日にまたここで会おう』

関連記事:アイディア重視の起業は成功しない。オワコン日本に逆張りする起業家を支援する『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』

『2020年6月30日にまたここで会おう』
こちらは、2012年に東京大学で行われた講演を収録したもので、今まで京都大学をメインに起業論を教えてきた瀧本氏が、全国展開をするきっかけとなった講演です。
たった一回の講演だが、そこで話されるオトバンクやレノバなどのエンジェル投資先との関係などは、書籍で語られてこなかった内容。

また、起業家になりたい、やる気が起きるような内容で、彼の人間性が一番でている。本書を一番初めに読んでおくのもおすすめ。

『読書は格闘技』瀧本哲史

関連記事:読後の一手間で、記憶が定着し、行動が変わる。99%忘却するための読書はすぐに止めよう『読書は格闘技』瀧本哲史

『読書は格闘技』
この本、タイトルは少々大袈裟ですが、結構しみじみとした内容です。2016年の亡くなる最後に出た書籍だったんですね。
本の読み方は、実は、準備をした人としない人では、大きな差があることをこの本は証明してくれています。

また、瀧本氏が大学に入学する前にどんな本を読んでいたのかを知り知多人にもおすすめ。予想以上に、高度な本です。

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』

関連記事:瀧本哲史推薦。イーロン・マスクの最大の敵・盟友の独占市場の作り方を学ぶ:『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール 要約

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』

こちらは、ペイパル創業者でアメリカのネット企業、グロース企業のドンでもあるピーター・ティールの著作だ。これを瀧本氏は、権利を取得して日本で翻訳・出版をしている。

ここで語られる内容は非常に濃密で、成長企業を見分ける秘訣が9つの短い項目で述べられている。当時、これに該当するグロース企業は、テスラが該当しており、ティールのその預言者ぶりが評判となっています。起業家を目指す以外にも、グロース株投資をしている人にもおすすめの書籍できる書籍です。

『戦略がすべて』

関連記事:駄作。ベスト・オブ・ダメ本候補。戦略と知りたくて買うと確実に損する。新潮社の編集者が何もしていない『戦略がすべて』瀧本 哲史

『戦略がすべて』

最後に、数少ない瀧本氏の駄作を掲載しておきます。こちらは基本的に読む必要のない書籍だ。この本から学べるのは、たとえ瀧本氏でも編集者がダメだと駄作を作ることがあるという点でしょう。ここまで彼は大手出版社というよりは、中堅やマイナーな出版社と多く仕事をしてきた。本書は、日本最大級の出版社から出ています。ある意味で、彼の人の良さを出してしまった書籍かもしれません。

以上です。基本的に上から順に読んでおくことをおすすめしたい。

が、場合によっては、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』や入門的な意味で『2020年6月30日にまたここで会おう』を読むのもいいかもしれない。

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』は、米国株やマザーズ上場の日本株を購入したりして資産づくりをしている人には、非常に役に立つ、グロース株に関する目利きが書かれている。著者のピーター・ティールは、初期のFacebookに巨額の投資をした新興IT企業の世界的なエンジェル投資家として名高いだけではなく、経営者としてもPayPal(ペイパル)を創業するなど、経営者としての実績も高い。

『2020年6月30日にまたここで会おう』は、東大で臨時に開催された企業家向けセミナーで、1日で瀧本の全容がわかるという作りになっており、文字数が少なく簡潔で読む手間も少ない。

いずれにしても、起業論の大家として今後も彼の著作は生き残る可能性が高いので、読んでおいて損をすることはないと思う。

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