クラウド・IT対応がほぼゼロだが、過去の知識を網羅。権威的だが実用的。「捨てる前提の常識」は獲得しておいて損はない『子育てベスト100』

オーディオブック

著者紹介

加藤紀子(かとう・のりこ) 教育ジャーナリスト。1973年京都市生まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心にさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。

現在、彼女はさまざまなメディアでの連載があるが、プレジデントオンラインでの受験産業と学歴にスポット当てた赤裸々な子育てを分析する連載に定評がある。

目次

  • 1 コミュニケーション力をつけるには?―早くから「言葉のシャワー」を浴びせてあげる
  • 2 思考力をつけるには?―「考えるチャンス」を最大限に増やす
  • 3 自己肯定感をつけるには?―変化に強い「折れない心」をつくる
  • 4 創造力をつけるには?―柔軟な脳にたくさんの「刺激」を与える
  • 5 学力をつけるには?―効果的なフィードバックで「やる気」を引き出す
  • 6 体力をつけるには?―「栄養と運動」で脳と体を強くする

概要(ブログ主のまとめ)

子育て分野において、近年、類をみないほどの大ヒット書籍

本書のキャッチは以下の通り

ハーバード大、スタンフォード大、シカゴ大…一流研究者の200以上の資料×膨大な取材から厳選!今スグにでもやってあげたい「創造力」「自己肯定感」「コミュ力」「批判的思考力」「一番いいメソッド」。すぐできる超!具体策421全収録。

現在、20万部近く売れていると言う本書。本が売れず、ましてや教育論のようにジャンルのばらけがある分野では驚異的だとも言える。

英語論文も読める著者による“まとも”な『全部のせ』

以前、船津徹氏の書籍でも書いたが、初等教育出版の業界は腐敗と陰湿な足の引っ張り合いで成り立っている。子育ての不安をあおってさらに確証のない嘘か本当かわからないような知識を広め、利益を上げまくるメソッドで溢れており、業界全体が「わざと正解がわからない」仕組みになっている。

アマゾンレビューでも本書は多く批判にさらされ、いちいち権威付けをするのがうざい(本なので引用や権威づけは義務)などの言われようがない批判レビューを書かれている。

関連記事:学歴主義が前提だが、子育ての基本を学べる。網羅性が高く、使い勝手に優れた本『世界標準の子育て』船津徹

とは言え、これが教育出版業の現場である。要は足の引っ張り合いを、出版社同士が学生バイトなどを雇いレビューアーを装ってやっているのがこの業界である。

そんな中に、3〜15歳という教育の全期間とも言える広い年齢幅で、全てを網羅するというコンセプトを掲げ、勇猛果敢に加藤紀子さんは切り込んでいったのが、本著だ。

一冊で全部賄えるというのは、なかなか言えない。その心意気はいいと思う。

過去の教育知識は網羅。だが、未来は完全無視か?

ところは本書は大きな欠点を抱えている。というか、そこをフォローできる教育業界の人間は、日本にはまだ登場していないというのが、厳密な言い方かもしれない。

現在、コロナの影響もあり、デジタル初等教育ツールの開発が飛躍的に進んだ。

その中で、クラウドやメタバース(仮想空間活動の延伸性)の技術を使った教育システムが2021年に、ある程度確立され、将来の初等教育のベースが固まってきたとみる向きが世界的にある。

その代表としてよく言われるのが「ロブロックス」「デュオリンゴ」などのツールだ。

ゲームを作り金銭を稼ぐことができることで当初注目を集めた「ロブロックス」。本サービスは、子どもたちが他人が楽しめるゲームを作ったり、その改善を援助し合うことで、報酬を与え合うという仕組みを作った。現在、メタバースの思想を最も反映したツールだと言われる。
他言語取得ツールとして、市民権をえつつある『デュオリンゴ』。無料でゲームをするように、複数の言語を手軽に取得できるため、年齢を問わない使い勝手が評判だ。このようなゲーム感覚で従来の数十倍の効率を叩き出す教育ツールがコロナ後に隆盛した。

これらのITツールは本書には登場しない。そしておそらくこの『子育てベスト100』で語られるような、昭和・平成的な教育システムを大きく変革してしまうのは間違いない。

少なくとも、子供同士の連携はこれらのツールによって共有度が高まるので、友人の選び方や家庭間のルール、教育格差など、周囲との差異に起因する従来の教育論の多くは無意味化するだろう。

しかしそれでも、子育ての本質は過去の知識に依存し続ける

だが、新しいツールが登場したからといって、初等教育がすぐ変わるわけではない。

変化は激しくなっていっても、今の時代、人間がそれについていくのに時間がかかるのだ。

本書で語られるような教育論としての親の会話法(子供の力を伸ばすために、親はどのような受け答えやしつけ、甘やかしを認めるのか)や部屋の間取りの使い方だったり、お手伝いのさせ方、習い事の選び方などは、これまでのしきたりと殆ど乖離することなく、継続していくとは思う。

本書で書かれているそういう泥臭い教育論は、まだまだ消えることはないだろう。

Q:どのような人が読むべきか?

A:教育本を読みすぎた人や逆に全く読んでいない人。

この本に書かれている初等教育の基本を全く知らないと、子育ては苦行になると思う。

例えば、保育園の保育士との書面でのやりとり、小学校の教師との面談などで、適切なコミュニケーションができず、教育産業に携わる人々の力をうまく生かすことができない。

つまり、本書で書かれている情報は、古いが共通言語としてはまだ機能すると思う

Q:全部のせは、果たしてできているのか?

A:その辺は私も教育系の本を3〜4冊しか読んでいないので、なんとも言えない。

だが〜が決定的に足りない、というような印象は確かになかった。

本書は3〜15歳までと言う年齢での仕切りをしている。

むしろ、その分類の仕方に問題はあるかもしれない。

例えば、情報の分け方を「食事」「運動」「感情」「友人関係」「親子関係」「社会とのつながり」みたいな横軸ジャンル分類にしたら、欠落しているものがあるかもしれない。

だが、私も専門家ではないのでなんとも言えない。

Q:なぜこう言う本が求められたのか?

A:教育本の市場は、出版文化が廃れた今でも部数が減っていない。

例えば、どんなにIT化が進んでも、大学受験用の参考書は「書き込む」という行為が残る限り、紙の本は売れ続ける。

また、この分野は親と子、教師と生徒が、本を共有しなければ意味がない

一冊の実物の紙の本を回し読みするか、電子版なら人数分のダウンロードが必要となり、むしろ予算が膨らむ傾向がある。

だからと言って、子供は減り続けているので、その中で緩やかに減少はしている。

その中で、陰湿なつぶしあいや足の引っ張り合いの文化だけが先鋭化しているジャンルだ。そういう状況が進めば、必然的に細分化が進み、小さな専門家が自己主張しやすい状態ができる。

だが、そうなると本を買う方は何がいいのかわからないという感じになってくる。

結果、このような本があるのが一番助かるとというのは当然だろう。

著者は東大出身だし、下手に教育界に浸っていないところがあるので、利益相反的にも妥当なポジションだったと思う。権威の活かしどころで、その力量を発揮したいい例だと思う。

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