移民を拒否した内容。極右思想も。変な本『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司

オーディオブック

著者について

河合雅司(1963年〜)

名古屋市生まれ。中央大学を卒業後、産経新聞社入社。政治部、論説委員。人口政策や社会保障政策を専門としており、内閣官房有識者会議、厚生労働省検討会、農林水産省第三者委員会の各委員、日本医師会「赤ひげ大賞」の選考委員を務める。大正大学客員教授。

日本人は移民に関して単一民族思想が強い、と仮定しがちな産経新聞

本書は、著者が産経新聞で連載したものを書籍化したものであると言う前提の注意をしなければいけない。産経新聞は、言わずと知れた極右新聞である。2000年代前半まではそうではなかったが、売り上げ部数の激しい落ち込みにより、極右化思想を打ち出した。

人口減少のデータは正確。移民の社会補償関連データは怪しい

本書で触れられている人口減少に関するデータは、的確である。著者自身は極端な未来予想をしているが、その点の記述は本書にはない。オーソドックスである。しかしながら、移民に関する社会保障データは、一体どこからきたのかよくわからない。アメリカを参照しているのならば、福祉の浸透具合が違うので、一部を極端に切り抜きすぎている印象があるし、そもそも移民の福祉問題は国によって違うだろうから、データを参照するのは間違いなような気がする。

著者は政治家としては結果を出せなかった

結果的に、安倍晋三は在任時に右翼的な発言やスタンス、人事採用をしてきたが、外交としては中国・ロシア寄りで極めてバランス感覚が高かったというのが私の印象である。つまり、百田さんや本書の著者でもある河合氏は、安倍晋三が選挙対策で、日本人に潜む右翼性に配慮して採用した人員である可能性を私は感じる。また、安倍政権は近年、日本に留学してきた若い中国人やアジア人に陰で日本国籍を年間で100万人くらい与えてきたのではないのか、と言われている。人口の増減の計算が合わない部分が、年間で大体100万人くらいあるらしいのだ。

話を戻すと、安倍晋三が採用した極文化人(産経人脈)は、あまり結果を残していなかった。その結果を見ると、やはり選挙対策として使われただけのように見える。私自身は、安倍晋三を実は結構評価しており、戦後の首相でかなり優れた首相(対面で相手の力量を判別したがるプーチンと関係でわかる)だと思っている。彼は、国内問題を割り切って選挙の人気取りに使い、外交政策で本領発揮した総理大臣だというのが、私の具体的な評価だ。

筆者の政策も外れた。本書の未来予想もたぶん外す。日本人は積極的な人口減少対策をとることはないだろう

私は安倍晋三政権を振り返るつもりで本書を再読した。本書が出た当初は、評判が良かったが、今読むと虚しさが漂う。1億2000万人の人口を、本書を結論づける「積極的な政策で豊かさを維持しながら人口を減らしていく政策」も、今となってはどれも実現しそうもないし、地方への回帰は、コロナ騒動によって著者の全く意図しない形で、他の方向で実現してしまった。

アメリカは移民の『数で勝たなければ』という意識を利用し、人口増加を続ける。そのメリットは福祉費より大きい。移民は右翼国家で成功しやすい

私は、アメリカに映画祭で何度か滞在し、時間のある時になるべく外出し、知らない人と話して過ごした。また、都市部ではない映画祭では、積極的に共和党支持者とも話をした。その結果分かったのは、移民に寛容である国よりは、移民に対して冷たい人間がいる方が、マイノリティが人口を増やして対抗すべきだと言う意識が働くということである。アメリカは、白人が黒人を銃で撃ち殺すから、移民が人口を増やすのだろうとつくづく思ったのだ。アメリカはああいう揺動報道をわざとやっていると思う。

それらを見ながら、私は日本の移民政策がうまくいかず、揉め事が増えれば増えるほど、移民は子供を産んで人口を増やす方向にいくのではないかと感じた。これは、本書で語られていることとは全く逆だ。そんな私が、本書を読んで、言説はおかしなところがないものの、虚しさしか感じなった。

ただし、それでも人口予想は各種指標の中でも抜群の的中率

最後に、本書を再読して意味があったのか、なかったのかを考えてみた。

確かに、人口減を自分の問題のように深刻に考えているのは、右翼的な人が多いし、そもそもリベラルの人はあまり考えないし、所得も低いし、子育ての興味があまりない人が多い。安倍政権になって、貧しすぎる人が、あまりの貧乏さに右翼化したのは、私にとってとても身につまされることだったなあ、というのを、本書を読んで思い出した。

また、株や不動産投資をするようになってこの10年で、経済関連指標をほんとにたくさん、しかもしっかりと見るようになった。その中で、最も的中率が高いのはこの人口予想指標である。

おそらく、人口減少は政府の人口減少予想通りに進む(安倍政権は中国人の移民で100万人単位で誤魔化し続けたが)。私が評価したいのは、本当は打つ手立てがないのに、この右翼言論人はそれでもなんとか、安倍晋三の期待に答えるべく、10も人口減時代の対策を考えて、ヒット本まで出したことだ。彼らも頑張ったのだ。そういう、消えたロマンを本書では楽しめる。

タイトルとURLをコピーしました