著者紹介

橘 玲
早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。経済書籍での脅威のベストセラー出版率を誇る。
目次
- 1 無意識と「ビッグファイブ」理論を最速で説明する
- 2 心理プロファイルを使った史上最大の「陰謀」
- 3 外向的/内向的
- 4 楽観的/悲観的
- 5 同調性
- 6 共感力
- 7 堅実性
- 8 経験への開放性
- 9 成功するパーソナリティ/失敗するパーソナリティ
- 附録 ビッグファイブの検査
概要(私が読んでまとめたもの)
Facebookのいいねボタンからデータを読み取ることで、その人の行動特性から学歴、麻薬の使用履歴、タバコや嗜好品の好み、女性の好みまであらゆることが読めるアルゴリズムが開発された。
このアルゴリズムは、スタンフォード大学のマイケル・コジンスキーという学者が開発したもので、これを2016年にトランプ元大統領が利用して、選挙で逆転勝利に至ったと言われている。
これは、トランプとバイデンが競った2020年のコロナ禍の選挙戦でリークされ、日本では報道されなかったがアメリカではかなり話題になった。これらの情報操作に関連したフェイスブック(現社名:メタバース)のリークは、その後、退社した社員たちによって続いた。

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同書は、橘玲氏が、この時の報道された情報をベースに、自身で最新の行動心理学の体系を、独自にまとめたものである。ほとんどが英語の文献からの引用で知られていない情報が多い。
実際、リークされた情報がどのように利用されたのかは、秘密のベールに覆われている。あくまで、情報管理責任者の暴露に留まり、それらを行動心理学の側面から、実際の活動につなげる分析はなされていない。そんな中で、著者・橘玲は、自らその行動心理学の仮説を経て、過去の理論を応用して新しい理論を作る方向に行った。当然、それら行動心理学の理論には、名前をつけられていない。
そんなまだ名前のついていない心理学は、8つの要素からできていると著者は語る。
そしてそのベースとなっているのは、「外向性/内向性」「楽観性/悲観性」「協調性」「堅実性」「経験への解放性」という人間の性質特性を扱ったビックファイブ理論と呼ばれるものだ。とはいえ、本書で書かれている理論は、ここからかなりアレンジがなされている。
本来なら、学者ではない著者は、このテーマで、本を書くことはできない。
だが、あえて著者はそれを本に書こうとした。
著者はそれを『スピリチュアルズ』と銘打った。
自分自身の存在を神と捉え直し、この世を構成している要素だと考える、言ってみれば宗教を否定した、五感学・感覚学のようなものとして本を構成した。
本書は、これまでの著者の本当は大きく違い、タブーへの過剰な意識が書く、事実を淡々と書くというよりは、近年起きたことや科学論文を注意深く分析していく手法が取られている。
もしかすると著者の代表作になるかもしれないと思う。
Q:どんな人が読むべきか?
A:読むべき対象は多いが、あえていうなら私のような去年末のトランプとバイデンの選挙で、トランプを応援し、バイデン陣営を非難したような人間だろう。
本書は、パラダイムシフトを書いた本だ。
トランプの選挙活動中や敗戦後に起きた様々な現象を考えるにつき、従来の知識人(右翼系知識人など)が唱えたディープステイト的な陰の支配者論よりもこちらの方が信用度が高い。そして、ディープステートよりもこちらのビックデータを操る人間の方が数倍、恐ろしいのがわかる。
本書の知識は、政治だけではなく、日々の生活や就活、スーパーでのお買い物や子育てなど、ありとあらゆる人間活動の全てに関係している。
Q:本書は引用文献を全部掲載し、論文形式で書かれたかなり難易度の高い書籍だ。それに関して。
A:確かに、一度で内容を読み込める人はほとんどいないくらいの難しい書籍である。橘玲氏の書籍は、難しい内容をわかりやすく記述すると言うのが特徴だったが、本作はその傾向とはだいぶ違う。だが、一読することで脳裏に残るものはある。インパクトがあるのだ。
石原慎太郎が流行させた「属国」という流行語を生み出した、副島隆彦の『属国日本論』レベルの10〜20年に一度出るか出ないかの本だと思う。
これくらいの情報ニーズがあれば、内容の難しさは関係なく、職業的にこの情報が必要な人も多いので、今時珍しいクチコミ的な形で売れるのだろう。
Q:デメリットはあるか?
A:この本の知識は、普段の生活には多少支障が出てくるかもしれないレベルのものがある。だが、これは一般的な経済・思想の書籍には、どうしてもあることだと思う。
例えば、2020年のアメリカ大統領選挙で多くの人がディープステートに関連したさまざまな情報を信じて流布してしまった。それ伴うYouTubeやTwitterの情報統制もあった。
その時に大騒ぎをしたり、そういうインフルエンサーを信じた人(私を含む)は、人々は、選挙が終わったあと、社会が変わって見えただろう。本書が目指しているのは、そういう情報にどうしても踊らされる大衆への予防線である。
そのため、人間行動学に関する知見が本書には多く含まれており、またそのいずれも最新知見であるため、一般的な常識には合致しないところがどうしても出てくる。ある意味、ディープステート的なものや陰謀論に比べても、インパクト的には本書の方がさらに強い傾向がある。
それでも、本書の方がまだ現実を肯定して、実社会に即した内容なので、それほど気持ちの悪い感じにはならないと思う。英語の文献の引用を全部に細かくつけているのも、後々本書の立ち位置が正統であり、その強さを高めるはずだ。
あまり内容に踏みこんではかけないが、まとめると、最初は抵抗があったり、読んでることを気持ち悪がられるかもしれないが、私的には、デメリットはそんなにはないと思う。
Q:著者はなぜこの本を書いたのか?
A:トランプを支持して、思想的に軸を失った『自分は頭がいい』と思っている私のような人間が、日本にかなり多かったことが発端だろう。著者は、危機感を持ったいたのだと思う。
日本のトランプ支持者の多さは、他の国を圧倒していたのが多くのメディアでもニュースになっていた。もちろん、インフルエンサーはバイデンよりもトランプを支援した方が、再生数が上がったと言うのもあるとは思う。
もちろん、ディープステイト的なやり方で、アメリカはこれまでの100年で世界的な覇権を納めてきたのは否定できない。だが、本書を読むと、実に地道なやり方でGAFAMの力をどうにか借りながら、アメリカは次の展開に移行したのがわかる。こちらの方が信憑性がある。
もっと大きいのは、宗教や神を否定した内容に『スピリチュアルズ』というタイトルを付けたのも良い。様々な著者の仕掛けが本書には散りばめられていて興味深い。