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著者紹介
高橋 昌一郎(1959年2月 – )は、日本の哲学者・論理学者。國學院大學文学部教授。
ウエスタンミシガン大学数学科および哲学科卒業、ミシガン大学大学院哲学研究科修士課程修了。論理学、科学哲学、ディベート論、コミュニケーション論、限界論の専攻を持ち、クルト・ゲーデル、フォン・ノイマン、アラン・チューリングなど人物史について著書・論文がある。
ノイマンの事前情報

ジョン・フォン・ノイマン(1903-57)
ハンガリー出身のアメリカ合衆国の学者で、主にプリンストン大学での業績で知られる。
幼少期からIQが250を超える超天才として知られ、数学や歴史学のみならず、多数の言語を操るという学業に関しては異次元の結果を残した。
学者になってからの業績も以上であり、数学・物理学・工学・計算機科学・経済学・気象学・心理学・政治学に影響を与えた20世紀科学史における最重要人物の一人とされる。
特に原子爆弾やコンピュータの開発への関与でも知られる。
また、現在の証券・株・FX取引でのオプション取引、信用取引などの多角化金融商品のベースとなったゲーム理論の開祖としても知られ、その影響力は現代でも比類なき存在である。
本書の概要
本書は、高橋 昌一郎という日本人の学者によって書かれている、いわゆる米国人によるベリ黒人のための自伝本ではない。
ただし、それはノイマンという癖のある偉人の特徴を考えると至極まっとうなことで、その“悪”の側面を公平性と自由を重んじるアメリカ人でも、どこまで正直に扱えるか不明だ。その点で、留学経験が豊富である日本人の高橋氏が、このような本を書いたことに大きな意味があると思う。
ノイマンの悪魔性は、人脈である
ノイマンの生い立ちから、学者のつながりをほぼ完全に網羅しつつも、かなり簡素にまとまっており、かつ、重要人物のバックボーンも詳細に書かれている。秀逸な本である。
特に、ノイマンの人生に強い影響を与えるヒルベルト、チューリング、ゲーテルとの絡みを詳しく書き、彼ののちにマッドサイエンス化していく心の動きを書いた。ノイマンとこの3人の科学者なくしては、ノイマンの躍進とアメリカの覇権国化はあり得なかった。



科学者という特殊な生き物が形成する“悪魔の団体”
科学者というのは、自ら資金を生み出すことができない。特に、理系の学者は企業からの献金や助成金を目当てとしており、それに関しては日本も海外も同一だ。
その中で、ノイマンのような学者は、米国の軍という世界最強のパトロンを持っていた。
だが、その世界最強のパトロンも一筋縄ではいかない。当たり前である。戦争をするのは彼らで学者ではない。そのため、学者たちは学業的な意味でも、責任やストレス的な意味でも集団で動いた。
簡単にいうと、危険度の高い研究ほど、学者の横の連携は強い。一般的な業績の奪いあいというよりは、それぞれの役柄分担が明確化して、ストレスやリスクを拡散する傾向がある。
なぜ、こんなことを私が言えるかというと、私の父が科学者だったからだ。
軍事開発における“人脈を読む本”
以上のことから、本書の書かれた目的は明らかだ。
それは「ノイマン自身の自伝」を読むという側面は、あまり意味がなく、あくまでその人脈を読み解くのが大事ということである。
よって、本書を読む時に少しでも、登場人物に疑念・不明点を感じたら、都度細かくネットで情報収集することを薦める。以上が、本書のざっとした解説だ。
Q:本書を読むべき人はどんな人か?
A:まずは、学者だろう。次に、大学院生や研修生、ポスドクなどの学者候補者だと思う。その後に、この分野に興味がある人……、ということになる。
学者の人脈と金脈
戦時下に最先端の学者の運命は激しく動く。
逆に言えば、戦争がなければ、ノイマンという人物の元にこれほどの人脈と資金は集まらなかった。そう考えると、彼の業績のほとんどは、戦争が作ってくれたものだと言っていい。
本書では、新しい技術とそこに集まる資金の流れと人脈の動きが、実に的確に書かれており、その緊迫した一瞬一瞬が、非常に手にとるようにわかる。ただし、著者は文章家ではなくあくまで学者のため、多少、文体が重く、硬い印象がある。本を読み慣れている方がいい。
加えて、彼の性格や家庭環境、個人的な情報もかなりの記述がある。
これは、ノイマンの生涯を知りたい人よりも、これから何か大きなことをしたいと考える人間に適しているだろう。一般人にもとてもいい内容だと思う。
Q:彼はなぜ、悪魔的な学者だったのか?
A:ノイマンの性格は、戦時中から戦後にかけて大きく変わる。あまり詳しく書けないが、その変化には人間関係が関係している。彼自身は、育ちも良く、礼儀・礼節もかなり厳しく仕込まれた人生を送ってきており、リーダーとして非常に優れた存在であった。
スタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情; Dr. Strangelove』の主人公であるマッド・サイエンティストのモデルは確かにノイマンだと言われている。だが、その先入観をことごとく破壊する真実が本書には書かれている。東西冷戦とは、キューブリックの映画のような単純なものではない。そんへんは本書のほうがよく書かれているし、信用もできる。


Q:本書から得られる教訓的なものはあるか?
A:ないと思う。あくまで本書は第二次世界大戦と世紀の天才という偶然が重なった、その日々の記録であり、読者の日常生活に跳ね返ってくるような物語は存在していない。それに、もう世界は第二次世界大戦のような戦争はしないだろう。
それは大きな戦争はないという意味ではなく、第三次世界大戦があるとしたら、実際の軍事作戦と並行して、ネットや金融決済ネットワーク、経済制裁を含んだ複雑化した戦争になり、それはもはや第二次世界大戦のようなエンタメ化したイメージとは異なるということだ。
そういう点で、かなりのエンタメとして読める。
スパイダーマンやアイアンマンを見るような感じで読める。
ただ、それなりに教養が必要だと思う。本書には、いちいち注釈はない。でもウィキペディアクラスでいいので、たまに調べながら読むと、すごく面白い本である。
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