目次
- 第1章 「安倍処分」の真相
- 第2章 ウクライナ戦争の真実
- 第3章 崩れた世界のパワーバランス
- 第4章 日米外交の正体
- 第5章 スパイと日本外交のリアルな話
- 第6章 戦争しない国 日本の戦略
著者について
孫崎享
元外交官。東アジア共同体研究所所長。1943年、満州生まれ。東京大学法学部在学中、外交官採用試験に合格、1966年外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。2012年『戦後史の正体』(創元社)は22万部を超えるベストセラーに。『日本の国境問題』(ちくま新書)、『日米開戦の正体』(祥伝社)、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)など著書多数。日刊ゲンダイで「日本外交と政治の正体」を連載するほか、ツイッター、ニコニコ動画など、ソーシャル・メディアにも注力。
副島隆彦
1953年、福岡市生まれ。早稲田大学法学部卒業。外資系銀行員、予備校講師、常葉学園大学教授などを歴任。副島国家戦略研究所(SNSI)を主宰し、日本人初の「民間人国家戦略家」として、講演・執筆活動を続けている。日米の政界・シンクタンクに独自の情報源を持ち、金融経済からアメリカ政治思想、法制度論、英語学、歴史など幅広いジャンルで、鋭い洞察と緻密な分析に基づいた論評を展開している。主な著書に、『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』(ビジネス社)、『裏切られたトランプ革命』(秀和システム)、『コロナ対策経済で大不況に突入する世界』(祥伝社)、『人類の月面着陸は無かったろう論』『ドル覇権の崩壊』『目の前に迫り来る大暴落』『有事の金。そして世界は大恐慌へ』(徳間書店)など多数がある。
ブログ主の勝手なまとめ
孫崎氏が副島氏に腹を割って話すまでが長いが、そこからは凄い
本書は前半部では、副島氏がずっと喋り続ける。孫崎氏は、話を聞き続けるだけで、ほとんど自身の話をしない。だが、後半の第5章の「スパイと日本外交のリアルな話」から、孫崎氏が自身が突如として国際的なスパイとして活動ていた時との話をし始めると、そこからは凄い。
読みどころは、第5章と第6章
通常、この手の対談本の収録は複数日に分けて収録される。
おそらく、この副島氏と孫崎氏の対談もそのような収録方法だったのだろう。
前半で孫崎氏は、明らかに副島氏の出方を伺っており、その点で副島氏を信用していない。ところが、第4章の「日本外交の正体」で、副島氏の口から歴代の日本外交の重要人物の名前がで始めたところから、孫崎氏の態度が急変していく。
収録が時間順に行われていたとすると、本としてそれなりの内容にしないといけないだろうという、孫崎氏のサービス精神も出てきたのかもしれないが、大きくは、時間をかけて副島隆彦氏が自分が本音で話すに相応しい人物であるのか、を判別する時間が必要で、それが済んだという印象が強い。
バブル崩壊は、外務省の崩壊によって引き起こされた
孫崎氏の口から語られた、驚くべき対米外交政策の本質
バブル崩壊の決定打となった出来事が1985年のプラザ合意であり、その時の大蔵大臣は竹下登であった。この竹下登の衝撃的な秘密が、孫崎氏の口から語られた。
その秘密とは何か、それは竹下登は、当時の自民党の政治家の中で最も反米的な意識が強く、親米的な中曽根康弘をその後追い落として、総理大臣に就任するが、その流れでアメリカの外交官(CIAなどのスパイ人員を含む)らによって、暴力的な思想転向されて、新米的な政治家になったという経緯だ。
バブル期の国力をバックに、米国との優勢な交渉を期待された竹下登は、なぜ朽ちたのか

副島隆彦氏は、竹下登をずっと、対米追従の国賊と書き続けてきた
この二人の対談で、大きく流れが変わる(孫崎氏が副島氏に秘密を話し始める)きっかけとなったのは、この竹下登とノーパンしゃぶしゃぶ事件の兼ね合いを話し始めた第4章あたりだ。
副島氏は、例の如く、竹下登は国賊で、対米追従の酷い流れを作ってしまった日本史上最低の総理大臣だと語った。だが、それに対して、孫崎氏は反論した。
「当時、竹下登が自民党で最も反米的なスタンスを期待された政治家だったんです。だから、狙われ、猛烈な総攻撃を受けて、思想転向してしまったんですよ」
実は、今でこそ日本はアメリカの属国的なスタンスで塗れているが、バブル全盛期は『「NO」と言える日本』の石原慎太郎や盛田昭夫などに加え、外務官僚や財務官僚にも、アメリカはいつかは勝つべき相手である、という認識が芽生え始めていた。
軍事力の低さや諜報機関の無さが、対米追従路線の呼び水に
経済を基盤とした国力としては、十分であった日本だが、孫崎氏の後半部の語りを聞く限り、やはり軍事力や諜報活動人材の必要性は、重いというのがわかる。
そこから考えると、日本のバブル崩壊は起こるべくして起きたことも、納得できてしまう。

この流れで、政治家や著名人だけではなく、いわゆる影武者で日本の政策に関与してきた大蔵省が大量に追い落とされたスキャンダルが「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」であり、このことを今までも多くの作家に言われてきたことだが、本筋の孫崎氏が受け答えを具体的にした内容が本書に収められている。
防衛大学でもインテリジェンス専門の教官であり、長く日本の外交の最前に携わってきた孫崎氏の口から、控えめだが真実味のある話がされたことは、非常に大きいと思う。
1992年の天皇の中国訪問が、国内は隠され、中国では重視される理由

関連リンク:中華人民共和国ご訪問に際し(平成4年)
1992年の日本は、大きな転換期を迎えていた
最後に、本書で語られる大きなトピックにもう一つ触れておきたい。
それは、1992年の天皇の中国訪問について、孫崎氏が触れた部分だ。
この話も「第4章 日米外交の正体」の後半部で語られるが、この頃になると孫崎氏もだいぶ副島氏に打ち解けており、日本外交の秘密を話すようになってくる。
1989年に中国で天安門事件を起きる。その後、中国は1991年にかけて、西側との外交が断然つ状態になり、国内での騒乱に加え、物資面や技術面でも外交が途絶えたことで、危機に陥る。
その最大の局面が訪れていたのが、1992年だという。
中国の外交が絶望的な時に、平成天皇が中国を訪問
その中国の危機的な時に、中国への天皇派遣を企画したのが、当時、孫崎享氏の上司でもあった谷野作太郎アジア局長だった。
この天皇の中国訪問は、後々の中国と日本の外交に大きく影響し、周辺国が中国との交渉が困難化していくに対して、日本がそれなりに交渉しやすい立場を維持できたという。
当時の世界第二位の国力だった日本がこのような外交ルートを確立したことで、アメリカからの干渉を受けていたものの、中国は徐々に国力を回復し、アジアで大きな存在となっていった。
このリアルなストーリーなどを含む、世の中では語られていない秘密が、本書後半にはかなり分量出てくる。それは今知るのでも充分、投資や交渉ごとに役立つ内容で、読み応えもある。
非常に有意義で評価が高い対談本だと私は思っている。
Q:どのような人が読むべきか?
A:昔は、仕事や生活に影響がある形で、外交のことを知るべき人は少なかったが、今は日本人ならば多くの人が、知るべき知識が本書には含まれていると思う。
しかも、本書で語られる内容は、一般メディアでは絶対に触れられないもので、この古風な書籍というスタイルならではの情報だと言える。
方や陰謀論とも片付けられがちな内容も多いが、この二人が語り合うことで、その情報制度は高まって、陰謀論の範疇から、かなり事実に近いものだとも受け取れるようになる。
そういう意味で、仕事をしている人なら多くの人が読むべき本だとも言える。