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著者紹介
ジョセフ・L. バダラッコ(ジョセフ・バダラッコ 1948〜)
セイント・ルイス大学、オックスフォード大学卒業。
ハーバードビジネススクールにて、MBAと DBA(Database Administrator)を取得。元ハーバードビジネススクール教授。専門は、ビジネス倫理。 MBAと経営プログラムで、戦略、一般経営、ビジネス倫理のコースを教えており、同大学の株主責任に関する諮問委員会の議長も務めている。
日本とは親交があり、野村総研ビジネススクール(the Nomura School of Advanced Management)の校長をしている。
目次
- 序章
アルバート・シュバイツァーの見解
厄介な日常問題
驚くべきアプローチ
些細なことなどない - 第一章 現実を直視する
リチャード・ミラーへの対処
ガイドラインとなる四原則
現実主義と冷笑主義 - 第二章 行動はさまざまな動機に基づく
良くて強い動機
十首の蛇
歪んだ人間性 - 第三章 時間を稼ぐ
だれをクビにするのか
策略ゲームをする
その場での時間稼ぎ
戦略的な時間稼ぎ
気をつけること - 第四章 賢く影響力を活用する
満点
自分にどのくらいの影響力があるのか
どのくらいの影響力をリスクにさらしているのか
見返りは何か
ベンチャー・キャピタルの倫理
静かなリーダーの矛盾 - 第五章 具体的に考える
新しい「ニュー・サービス」
複雑な問題
四つのガイドライン
保証はない - 第六章 規則を曲げる
ヘルズ・キッチンでの一晩
回顧と悔恨
規則を真剣に考える
解釈の余地を探す
起業家精神の倫理
リーダーシップの狡稽さ - 第七章 少しずつ徐々に行動範囲を広げる
パートナー間の力関係
探りながら、少しずつ実行する
社内の風向き
パートナー会議
徐々に拡大していく
静かなリーダーシップのフラストレーション - 第八章 妥協策を考える
新年の赤ん坊
ハードワークのリーダーシップ
ソロモンの決定を再考する - 第九章 三つの静かな特徴
自制
謙遜
粘り強さ - 付録:出典に関する注記
静かなリーダーシップの発想を育成
事例研究 - 解説
二つのタイプの読者層
静かなリーダーシップを日常でいかに使うか
リーダーシップ論における静かなリーダーシップの意義
静かなリーダーシップが注目される理由
まとめ
ブログ主のまとめ
ひさびさに素晴らしいほんと巡り会えて、とても感動している。なぜ素晴らしいかと言うと、この本は実に日本人にマッチしているリーダー像を描いているからだ。
中国の漢詩や古典から、アンチヒーロー型のリーダーを理論化
著者のジョセフ・バダラッコは、英語版のウィキペディアで中国の古典を読んだことで、アンチヒーロー型のリーダーに関する書籍を書きたいと思うようになったと言う。
日本では、実にヒーロー型のリーダー本で溢れており、本当にアメリカ型のリーダー論に毒されてしまっている。実際、出元はアンチリーダー気質の人間(ユニクロ柳井氏など)でも、時間が経つと勝手に、ヒーロー型のリーダー像に仕立て上げられており、そのせいが何が本当かわからない。
そのような中で、この書籍を手にする機会に恵まれたことは非常に有意義だった。
アンチヒーロー型リーダーに求められる資質
- 困ったら時間を稼ぐ
- ストレスに耐えながら悪環境で過ごす
- スッキリしたことを言わない(結論づけない)
- 汚い手法も周囲を懐柔させて、的確に使いこなす
- 人間関係からゴールを導き出す
- 法律の拡大解釈からゴールを導き出す
- 一度トップに立つと地位を継続する
具体例の一例:カリスマを首にする “嫌われ者の刺客”
著者は本書を、論文でもなく、理論本でもなく、エッセイ本だと言う。
これが意味するところは、限りなく理論化しつつも、取材したその具体例に重きが置かれ、かつ、それらが“圧倒的な強さ”を持つ事例であることに対する“謙遜”だと言える。
圧倒的な強さを持っている理由というのは何かというと、実際周囲で頻繁に起きていることであるし、歴史の教科書や史実にも多数出る“身近すぎる内容”であると言える。
知識・願望としてのヒーロー的リーダーは多数派だが
しかし、このように実社会を動かしているのは本書で語られる“静かなリーダー”であるのに対し、多くのビジネスパーソンはヒーロー的なリーダーを目指す。
そのせいで、ちまたに出回っているリーダー本は、ほぼ全てが“熱いリーダー”“周囲を熱狂させるリーダー”に関する書籍ばかりだ。どうしてこのような事態が起こるのか?
それはヒーロー的なリーダーは最終的にはどの組織に馴染まずに、半ば追いやられる形でそのような手記の公開をする傾向が強いのに対し、静かなリーダーは組織をそのまま長期間に渡って強化し続け、外敵から守る傾向があるからだという。もちろん、悪事を働くが故に、表に出られないというのも“静かなリーダー”の特徴の一つであり、それも関わっている。
要するに、ノウハウが流出しにくかったのがこの“静かなリーダー像”なのだ。
日本人のリーダーは“静かなリーダー”出身のヒーローが多い
本書を読んでみて、これは日本人に向いていると思った理由は、この内向的な素養を分析しつつ、結果的にその“静かなリーダー”たちが周囲から認められて、ヒーローになる過程が、日本のリーダーにとても似ている感じがしたからだ。
簡単にいうと、信長タイプではなく、若い頃の秀吉や家康タイプの人間を分析した本だと本書は言える。そして最後までその人物を追い続けているので、結果的に“静かなリーダー”は、ヒーロー的なリーダーに扱われていく、周囲の人間がそのように持ち上げる工程も見て取れる。
著者が、日本に親和性を感じてキャリアの終わりに野村総研に席置くのも理解できる。
中間管理職を励まし、スキルアップを提示する稀有な書籍
私は、通常はサラリーマン(書籍編集者)をしつつ、週末は映画監督をするという、人生を今のところ歩んでいるが、サラリーマンのところだけではなく、映画監督やプロデューサーにも本書はお薦めできる、珍しい良書だと感じている。
映画監督やプロデューサーは、権利や意思決定プロセスとしては、経営者や政治家に近いところがあり、人事権や作品をコントロールする力を有している。とはいえ、撮影時には、誰よりも周囲に気を使い、予算を心配し、パワハラ認定されないように、自分の行動をわきまえる。
簡単にいうと、監督とプロデューサーの仕事の60%は謝罪・低姿勢な根回しである。
自分でカメラを持つわけでもなく、演技をするわけでもなく、映画制作の実質で何をしたんですか?と聞かれてしまうと「実は何もしていません」というしかないのだ。
本書『静かなリーダーシップ』に横たわる陰湿な悲しさや虚しさは、その点、多くの監督・プロデューサーにも共有できる事柄だと思った。
そしてさらにすごいのは、さまざまな事例から“傷だらけの理想像”を提唱しながら、“本物の静かなリーダー”は、こうやってさらに上を目指すべき、という戒めが本書にはふんだんに書かれている。
こういうのも含めて、おそらく多くの中間管理職に驚きを与える書籍だと思う。
Q:どんな人が読むべきか?
A:基本的には、中間管理職なら全ての人が対象なのだが、あえていうなら、感情が表に出やすい地位の高い人、に読んでもらいたいと思う。
一般的に、感情が表に出やすい人は、ヒーロー的な扱いを求めていると思われてしまうことが多いが、実はそれは違う。ヒーロー的な能力がない人も多く、むしろ、ヒーロー的なものに憧れていない人が少なくないと思う。
そういう人は、本書によって、自分に存在している世間や周囲とのギャップを、冷静に見極めることができるのではないかと思う。そしてその最たるものが、映画監督なのではないかと思ったりする。
映画監督は、職人たち(カメラマン・照明・録音技師)からヒーロー的振る舞いを要求される
映画監督で、浅い経験値の人間はほぼ全て、周囲の技師たちからいじめられる。だが、たまに全くいじめられない人間がいる。黒澤明とか大島渚のような、ど迫力で無理を良い、半ばその無茶な仕事ぶりが神格化される人だ。だが、今はそんな監督、実は少ない。
そういう人がこの本を読むと、自分が切り開くべき道を、冷静に見極めることができると思う。また、こういうのは映画業界以外でも、ビジネスパーソンにも多くいるはずだ。
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