本書を読むべき人はこんな人たち
- アメリカのIPO(新規上場)について深く知りたい人
- 中規模企業(ピクサー)が大企業(ディズニー)に買収される工程に興味がある人
- スティーブ・ジョブズのファンで、晩年の大成功の謎を知りたい人
- 不採算企業・不採算職種(特に映画)の財務部長の仕事内容を知りたい人
- 企業人で、借金の考え方、財務の初歩を知りたい人
- 映画業界で働く全ての人
耳学習で土日に簡単読破 世界標準のビジネス・投資知識を短時間で習得 おすすめ書籍6選!
ジョブズの晩年のカリスマ性を引き出したローレンス・ロビー
本書は、ピクサーの財務部門を率いたローレンス・レビーによって書かれた。

Macカンファレンスでのジョブズとローレンス
大ヒット作を連発したピクサーが、ディズニーに買収されるシーンから始まる。
そして時間は遡り、ジョブズからのリクルート電話を受けるシーンとなる。
ロビーは死の直前までジョブズ宅への出入りを許された
本書では、あまり明らかにされてこなかったスティーブ・ジョブズのプライベートにだいぶ踏み込んで話がさかれている。それは家族ぐるみで、ジョブズと付き合ってきた著者の利点であろう。
さらに本書が優れているのは、著者がジョブズに何を伝え、何を伝えなかったかという上司論的な情報が豊富であるということだ。
ジョブズのような独裁者タイプに対する、卓越したコミュニケーション術である。
これは、ワンマンで強力なパワーを持った経営者と渡り合う部下のマインド・メンタリティーの参考資料としては非常に稀で、こんなに役立つものはなかなかない。
IPO主幹事が決まらない。弱小ボンクラ企業、ピクサー
ピクサーは、一番最初の劇場公開作品である『トイストーリー』の劇場公開とIPOを行っている。
つまり、アメリカのグロース株によくある「利益を出していないのに株式公開」をするというパターンである。しかも、ジョブズの知名度を持ってしてもゴールドマンサックス・JPモルガンに無視され、やっとのことで聞いたことがない弱小の投資銀行との主幹事契約をする。
そのため、IPO後の株価の上昇は期待できなかった。
これは致命的で、今なら絶対に失敗するし、上場を止められるレベルだ。
そこで著者とジョブズは、アドバイザーや弁護士など堀を適切な人材で埋めるために時間と労力(ようするに裏工作)を費やす。この工程が書かれている書籍は、日本ではほぼ皆無だ。
映画業界人は叩き込むべき! コンテンツ制作の赤字の考え方
私が一番読んでて感動したのは、著者が入社して初期の方の部分だ。
そこには、赤字まみれの企業を立て直す、敏腕経営陣の金銭への考え方が満ちており、利益を諦めている東宝以外の映画会社・配給会社に非常に役に立つと予想できる部分だ。
もちろん、それは単純な創意工夫ではない。
悪意に満ちた判断もあれば、妥協もあり、アーティストに対する偏見もある。
しかしながら、優秀な人材と最終的な目標があればここまでやれてしまうのだ。
日本は「財務に詳しいエンタメ人間」がいない
自分を守るために、映画学部の学生などは、絶対に本書を読んでほしいと思う。
日本には、東宝や松竹といった大会社はあるが、実際は不動産会社である。
映画で会社を成り立たせているのは、日活くらいである。しかも、日活の給料は派遣社員の事務員レベルの低さ(年収300万〜500万(課長クラスでも))だ。
そんなかではどうもがいても、夢はない。
であるならば、どうするか。財務を学ぶしかないのだ。
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