ドラッカー童貞に向けて。難読書を超シンプルに解説。ピーター・ドラッカー『マネジメント』 要約

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著者紹介

ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、ドイツ語名:ペーター・フェルディナント・ドルッカー 、1909年11月19日 – 2005年11月11日)は、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系オーストリア人経営学者。「現代経営学」あるいは「マネジメント」(management) の発明者。父はフリーメイソンのグランドマスター。

初めに。

 経営者にとって、神として崇められているフシがあるピーター・ドラッカー。そんな彼の代表作であり、大著でもある本を、私、一塊の弱小映画監督を読んでみたいと思う。少しだけ批判的に。

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既存大企業や公務員、公共組織のために書かれた、経験談の集約書籍

 いきなりだが、結論を書きたいと思う。本書は、あくまでドラッカーがその中でも書いているように、大学の役員や大企業のコンサルタントとして仕事をした彼の経験がまとめられているものであり、経営の大きな体系を論じたものではない。あくまで経験論の本である。しかし、本書を読むにあたって、まるでこの本は経営者マストの書籍、体型や理論を書いた書籍だという誤解がまかり通っている。それは何故なのか?そのことにまず触れていきたい。

ドラッカー「実務家と理論家のクレームに怯えながら書いた」

 普通の暮らしをしていると、学術論文を目の当たりにすることなどないと思う。技術者ならともかく、経営者なら尚更である。そして、例えばそれなりの大学の大学院を卒業しても、『学術論文はなぜあのような暗号的な書き方をするのか』を知らない人が多い。ましてや日本の学術論文には、理系でない限り、ヘッド(抄録)、ボディ(本文)など結論先行型の国際的な論文ルールが存在しない。逆にいうと、国際ルールがあるからゆえに『批判に怯えた論』は、批判を考慮した遠回しかつ分かりにくい記述となりやすい。そして、ドラッカーの本は全てこの手法で書かれている。

短文としては簡素。全体としては不明瞭で頭に残らない

 元々、この文章スタイルは学者が『権威を築く』ために採用した。学術論文の寄せ集め切り貼り集なので当然のことである。オーストリアからの移民である彼には当然、まず実績が必要だった。効果よりも名声である。学者の世界はスタイルの不統一問題はあるが、やっていることは世界も日本も変わらない。では、この点を前提に同書を読み解いていこう。

企業の腐敗・伸び悩みを『臨時マネージャー(人事権を持つイノベーター)』が解決:優先順位 1位 人格主義(信用) 2位 自然な需給を知る 3位 非効率の撤廃

 本書の概論はこれである。そして、その具体的な方法が例の分かりにくい文章で散りばめられている。よって、腐敗が進んだり、行き先が不明瞭な企業で設置されることの多い、仕切職である「臨時マネージャー」職の人間が、この書籍から悩みを解決したり、アイディアを探すための文章を探す。そういう散文集的な作りとなっている。

マネージャーがトラブルに合わせて辞書がわりに引く

  • まえがき - なぜ組織が必要なのか
  •  序 - 新たな挑戦
  •  Part1 マネジメントの使命
         1.マネジメントの役割  
  •   第1章 企業の成果
         2.企業とは何か
         3.事業は何か
         4.事業の目標
         5.戦略計画
  •   第2章 公的機関の成果
         6.多元社会の到来
         7.公的機関不振の原因
         8.公的機関成功の条件
  •   第3章 仕事と人間
         9.新しい現実
         10.仕事と労働
         11.仕事の生産性
         12.人と労働のマネジメント
         13.責任と保障
         14.「人は最大の資産である」
  •   第4章 社会的責任
         15.マネジメントと社会
         16.社会的影響と社会の問題
         17.社会的責任の限界
         18.企業と政府
         19.プロフェッショナルの倫理 - 知りながら害をなすな
  •  Part2 マネジメントの方法
         20.マネジメントの必要性
  •   第5章 マネジャー
         21.マネジャーとは何か
         22.マネジャーの仕事
         23.マネジメント開発
         24.自己管理による目標管理
         25.ミドルマネジメント
         26.組織の精神
  •   第6章 マネジメントの技能
         27.意思決定
         28.コミュニケーション
         29.管理
         30.経営科学
  •   第7章 マネジメントの組織
         31.新しいニーズ
         32.組織の基本単位
         33.組織の条件
         34.五つの組織構造
         35.組織構造についての結論
  •  Part3 マネジメントの戦略
         36.ドイツ銀行物語
  •   第8章 トップマネジメント
         37.トップマネジメントの役割
         38.トップマネジメントの構造
         39.取締役会
  •   第9章 マネジメントの戦略
         40.規模のマネジメント
         41.多角化のマネジメント
         42.グローバル化のマネジメント
         43.成長のマネジメント
         44.イノベーション
         45.マネジメントの正統性
  •   結 論 
  • 付 章 マネジメントのパラダイムが変わった

※この『付章 マネジメントのパラダイムが変わった』もひどい。不安で不安で仕方がなく、この書籍が未来永劫、うまくいくように、時代遅れにならないように手を打ちたい、そんな悲しいやましさを感じてしまう。

 いかがだろう。読むと気が遠くなる目次だが、辞書だと思って見るとまた違った意味に見えてくるのではないだろうか。むしろ、とても使いやすい辞書に思えてきませんか?

 文章のまどろっこしさと相反して、『マネジメント』の目次は端的でシンプル。そして、意味も全方向に飛んでいるので、逆算した調べ物に最適である。ただし、一度それなりの理解力を持って通読していなければいかない。

そもそもが把握する書籍でない。が、ただしこれ程網羅的にビジネスを取り扱った書籍は現在でも存在しない

 多くの人がブラックホールに貼っているのは、結局何を行っているのか?を把握しようとするからだと思う。その点では、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』も非常に悪書だと言える。この本には、みんなが思っているような芯はないのだ。

 しかしながら、この本のすごさはこの網羅性である。現在でも、特定の条件(スタートアップではないことなど)を満たせば、この書籍には大体の企業の問題を可決する答えやヒントに該当する「散文」を見つけることができる。これが、どうしても他の人間が書けないのである。そんなこんなでもう半世紀が過ぎてしまったのだ。

IT化・自動化により、高度効率化が進む中、前提条件が崩れてきている

 2000年代までは中規模以上の企業での花形は、人事・採用・経理職であった。売り上げに貢献するなどの目立った功績はないが、それらの職務からの出世組が最終的に、企業の執行役員・監査役などをしめてきたからだ。それゆえ、現場出身の役員は珍しがられたのだ。

 ドラッカーの『マネジメント』はどちらかといえばそのような人事・予算裏方に向けて書かれている。しかし、現在、人事・採用・経理の職務上の煩雑さは極度に減少している。新規企業は、最初からそんな問題に悩まないことが多くなっているのだ。その時には、おそらく企業家精神を、平社員も共有することが望まれる。元に、日本の下々の平社員でさえ、その職務を兼任し始めている。そして毎日が辛過ぎて、その辺が放置されている。分散化して、形骸化している。このような現在が、たった10年前の企業文化と大きく異なってしまったのも『マネジメント』を読みにくくする原因だと思う。

反共主義が色濃い。中国・ロシアの共産型資本主義を知らずに世を去った

 本書では、時々、ドラッカー自身の激しい反共産主義的文面にもぶち当たる。彼は2000年代に亡くなっており、本書にはインターネットの初期段階の記述しかない。この点も彼の限界を示している。

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