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著者情報

カレン・フェラン(年齢不詳)
経営コンサルタント。
マサチューセッツ工科大学(MIT)および同大学院を卒業後、デロイト・ハスキンズ&セルズ(現デロイト・トウシュ・トーマツ)、ジェミニ・コンサルティング等の大手コンサルティングファームで、戦略、オペレーション、組織開発、IT分野の経営コンサルタントとして活躍。
その後、製薬大手ファイザーや、ジョンソン・エンド・ジョンソンでマネージャー職を務めた。オペレーティング・プリンシパルズ社の共同設立者となり、経営コンサルタントとして活動している。
手法・哲学
大手コンサアルティングファームが口実にしている手法・ツールは一切使わず、労働者の人間関係や感情面から問題の本質に迫る手法をとる。彼女自身、過去の多くの失敗からこのような考えに至ったということである。
具体的な手法一例
普段面識のない労働者を対面していく機会を作りながら、現場で起きている問題を語らせていくという手法をとる。これによって、いわゆるプロセスコンサルティングに至る前に、勝手にさまざまな企業問題が解決するケースが、非常にたくさん見られるという。
目次
- Introduction 大手ファームは無意味なことばかりさせている
- 第1章 「戦略計画」は何の役にも立たない
- ―「画期的な戦略」でガタガタになる
- 第2章 「最適化プロセス」は机上の空論
- ―データより「ふせん」のほうが役に立つ
- 第3章 「数値目標」が組織を振り回す
- ―コストも売上もただの「数え方」の問題
- 第4章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち
- ―終わりのない書類作成は何のため?
- 第5章 「マネジメントモデル」なんていらない
- ―マニュアルを捨てればマネージャーになれる
- 第6章 「人材開発プログラム」には絶対に参加するな
- ―こうして会社はコンサルにつぶされる
- 第7章 「リーダーシップ開発」で食べている人たち
- ―リーダーシップを持てる「チェックリスト」なんてない
- 第8章 「ベストプラクティス」は“奇跡”のダイエット食品
- ―「コンサル頼み」から抜け出す方法
ブログ主の勝手なまとめ
コンサル・コーチという悪魔を知る
本書は、著者であり、熟練コンサルタントでもあるカレンが、コンサル界(コーチ業界も含む)で常識だと思われる経営改革手法をどんどん上げて、それによっていかに、アメリカの大企業が血だらけになって自滅したのかを、謝罪しながら紐解いていくという手法をとる。
その内容も辛辣である。笑えそうで笑えない。
単に、外から聞いた話を書くというのではなく、具体的な手法を例示して、それによってどのように悲劇がスパイラルしてきたのかを、的確に書く。具体的な社名や人物名も登場する。
マッキンゼーによってぶっ殺された“元超優良企業”の『エンロン』
アメリカ史上最大のコンサルのしくじりは、エンロン事件であり、本書でまず語られるのが、このエンロン事件の原因となったマッキンゼーカンパニーの悪行についてである。
マッキンゼーカンパニーは、1926年に創業というアメリカで最も古くかつ、著名なコンサルタント会社であり、多くの伝説的なコンサルタントを輩出してきた。日本では、勝間和代、大前研一、瀧本哲史などの人材を育てている。
だが、いつしか、根も葉もないノウハウコレクターとなり、実態はとっくに腐敗してお化け企業となってしまっていたのだ(もしかすると勝間氏や瀧本氏の頃にも崩壊していたかもしれない)。
またひどいのが、このマッキンゼーは、当初はコンサルタントの悪行を、ライバルで同時期にエンロンに参画していたライバルコンサルティングファームのアンダー・アンダーセンのせいにしていたのだ。責任逃れの仕方も巧妙で、この悪事がバレるまでしばらくかかった。
アンダー・アンダーセンは、エンロン事件の発覚後の2002年半ば破産する形で、組織を解散した。

コンサルタント・コーチらによるノルマ主義で崩壊したウェルズファーゴ
また、同等のアメリカの大企業のコンサルティングが関わった不祥事に、ウェルズファーゴの不正営業事件が有名だ。
これは、コンサルティングによって企業再生のために不当に高い営業ノルマを課せられた営業マンたちが暴走し顧客データを悪用して次々と銀行口座を作り、資金操作をするという大問題に発展した。
これによって、ウェルズファーゴの株式は大暴落。
筆頭株主のウォーレンバフェットが、持株を全売するなど、市場は大混乱に見舞われ、ウェルズファーゴは、3年間という厳しい業務規制をSEC(米国証券取引委員会)から課せられるという罪に課せられた。
関連記事:米銀行ウェルズ・ファーゴ、不正営業で制裁金3300億円米司法省・SECと支払い合意
ノルマで数字は増えても利益率は激減、元々あったその他利益は、さらに吹き飛ぶ
コンサルの主な仕事として、外部からの第三者的な業務というのが基本である。
その文脈として、目標設定、プロセスコンサルティング、経費節減、生産性向上、リストラ、外部からの人材の招聘、M&Aによる事業再編などがあり、どの分野にも小難しい専門用語で煙を巻く、膨大な資料のオンパレードということになる。
本書で語られる衝撃的事実として、通常ノルマという目標設定の手法がやりだまにあがる。
だが、カレンはノウハウの設定は「確かに数字の向上に役立つ」としつつも、その数字は安売りや妥協によってもたらされ、極度の薄利多売に繋がり、さらにはそのハッスルによって、それまでじんわり入ってきていた他の有効利益を、全部吹き飛ばすのが常だという。
つまり、コンサルやコーチの悪行の一つに、帳簿に乗る数字以外は、爆破し、また帳簿に載った数値もスケルトン化するという、死神の側面があるという。
“プロセス” をコンサルする前に “勝手に終わる問題” が山ほどある
コンサルタントの名著と言われる書籍には、600ページくらいの分厚い本が多いらしい(ドラッカーもそうだ)。そして、読み終えた時には、まず持って1ページ目を覚えている人は皆無だ。
そして、最も滑稽なのは、その600ページ分のプロセスを実行使用して、あーだこーだやっているうちに、多くの企業の問題は知らないうちに解決している、もしくは企業がとっくに崩壊していることが多いという点だろう。
ここでは恐ろしすぎて書けないが、本書にはこの例示が多くあり、具体名や著名な学者の名前も飛び出してかなり痛々しい。だが、それらを知っても、経営者はむしろコンサルタントがいないと不安、という思考に落ちいる場合が少なくないという。
経営者が考えることを放棄するために、コンサルタント・コーチシステムが存在
本書では、カレンがさんざんコンサルタントを毒づくが、その解決案として彼女が提示するものもいわばコンサル的なものだと言える。なぜなら、コンサルは本当は悪ではない、と彼女はいうのだ。
では何かというと、それはコンサルタントが投入される場面とその手法の問題だという。
最初は自分達で考えてもダメだから、経営者はコンサルタントに頼り始める。だが、そういう経営者たちは、最終的に自分達が考えて経営をするのがめんどくさいので、自動化を願っている。
2000年代のアメリカでエンロンの大爆発が起きるまで、アメリカの経営者たちは、めんどくさい経営の自動化システムをコンサルに任せて、それが今日まで根強く残っているのだという。
感情面と人間関係を軽視するコンサルは、コンサルではない
その流れで生み出されたカレンの結論は、この見出しの通りである。
経営の中でも最も面倒なのが、社員や人材の感情や人間関係であり、そこが会社の思考の能力の根幹だというふうに彼女は結論づけている。
私は経営者ではないので、この結論がどのくらい支持されているのかは不明だ。
だが、船井総研の船井和雄や一兆ドルコーチのビル・キャンベルの書籍を読むと、これに似た感覚があるのは間違いない。この両者は、最終的な拠り所がいずれも感情だった。
そんな感慨にふけさせる妙な余韻を持った著作だった。
関連記事:グーグルCEOが直々に語る伝説的人物。日本人が誤解しているコーチングの前提を解説し、凄さをレビュー『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』
Q:どんな人が読むべき書籍か?
A:コンサルタントに苦しめられているすべたの人に有効だろう。また、これからコンサルを雇いたいと考えている経営者や人事部などの管理部門責任者、役員クラスの人間にも非常に役に立つ。
この本で書かれていることは、しっかりと訴訟対策がなされているので、実名も数字も可能な限り公開されており、本としての精度がかなり高い。
つまり、この本は、反論・検証・議論にしっかり使える本である。
そういう意味で、紙書籍で一冊は所有しておくことをお勧めしたいレベルだ。
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