著者紹介
高橋ダン(1985〜)
コーネル大学を卒業後、21歳の時にモルガン・スタンレーに入社。
リーマン・ショックを機にヘッジファンドに転職し、裁定取引などを専門に行うトレーダーとして従事。26歳の時には、友人らと共にヘッジファンドを設立。30歳で自分の持ち株を売却し、シンガポールへ移住した。その後、東南アジアにおいて鉱山や貴金属に投資する会社を経営。約60カ国を旅した後、2019年秋に日本に帰国。2020年初頭にグローバルの金融や経済を解説するYouTubeチャンネルを開設し、現在に至る。
目次
- Chapter 1 マインド
- Chapter2 投資の基本
- Chapter3 ポートフォリオ
- Chapter4 短期投資
- Chapter5 コモディティ
- Chapter6 不動産
- Chapter7 経済
- Chapter8 習慣
- 巻末付録:お金持ちになるための「投資ロードマップ」
本書を読んだ私の評価(総じて低評価)
- 高配当株は詳しくないのに根拠なく否定(後述・リベ大の両学長が原因だろう)
- ゆっくり資金投入することやコモディティに関する知識はある
- MACD、RSI、ストキャスティクスなどをあまり使えない指数を重視しすぎ
- ヘッジファンド時代のキャリアが不明
- 裁定取引以外は、トレーダーとしての手腕は低そう
- 広瀬隆雄氏のようなIPO専門のプロアドバイザーよりは数段格下
Chapter2の資金投入まではよい・以後は残念だった
高橋ダンは、今となっては経済系では誰もが知るユーチューバーとなった。
私が彼を知ったのは、コロナショック後の二番底来る来ない論争が起きたときである。多くのエセ投資家ユーチューバーが「二番底が来るのでまだ買うな」と、2020年3月頃に主張していたが、高橋ダンは、チャート分析から「二番底はこないだろう」と予測し、的中させた。
本書の前半では、その時の高橋ダン氏の良い頃のイメージが蘇った。
だが、、、それも、資金投入の分散配分のところまではだった。
それ以外は、正直だめだった。特にそのあとで、高配当株を理由もなく否定し続けるのだが、彼特有の「全然関係のない理由を喋ったあとに『君たちはマインドブロックがある』的パワーワードをぶちまけるパターン」が本書でも登場した。
Chapter3「高配当株の罠」は低レベル・間違いだらけ
高橋ダン氏が、YouTubeに投資する前から、株系ユーチューバーは多く存在しており、リベ大の両学長などのその多くは高配当株・インデックス投資を推奨する人たちだった。
そのせいもあってか、あるいはそもそも高配当株やインデックス投資を職業上否定しなければならない元トレーダーだったせいか、彼はエビデンスも全くないまま、ごく一部のダメな高配当株投資をいつも棚に上げて、このジャンル全体を否定する。それが本書でも露見した。
インデックス投資により米国ではトレーダーがほぼ失業
下記、ニュースを引用する
AIに仕事を奪われた元ゴールドマンの株トレーダー、いまは何をしている?=矢口新
かつて米証券会社大手ゴールドマン・サックスには500名のトレーダーが在籍していたが、AIトレードの普及で今では3名になっている。彼らはどこに流れたのか…。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
引用終わり
上記のニュースのように、リーマンショック直後の2010年代から2018年にかけて、アメリカのウォール街ではトレーダーの大規模リストラがあった。上記のようにAIトレードを導入ももちろん大きいが、それ以上に相場を読むトレーダーやヘッジファンドの重要性が低下したからだ。そして、今、公式にトレーダーと呼ばれる人種は、アメリカにはほぼ存在していない。
高橋ダンがモルガン・スタンレーをやめた時期、またヘッジファンドを設立して売却したという時期とも重なる。つまり、ウォール街から雇用が激しく失われた時期に、彼も職を退いたのだ。タイミングからして、リストラされた可能性も高いし、ヘッジファンドも上手くいったかどうか怪しい。
またこの時期には、2000年代の株ジャンル最大ヒット書籍『ウォール街のランダムウォーカー』も多くの一般人に認知され、トレーダー排除ブームに大きく貢献した。同書は、トレーダーがインデックス指数にほとんど勝てないことを証明した書籍である。
私の知る限り、この時期にウォール街を追われたトレーダーはほぼ100%、高配当投資やインデックス投資を悪者にする。たぶん、高橋ダンもこの中に含まれる。
そして、おそらくだが、日本ではリベ大の両学長などの先行するブロックバスター型ユーチューバーが高配当株とインデックス投資を広めたのも、大きいと思う。妙なライバル心を持ったのだろうし、かつてのウォール街魂に、変な火がついてしまったのだろう。
日本人が高配当株を好む理由=税制 を彼は知らない
また、日本人をかなり甘く見ているのだろうか、高橋ダンはなぜ日本人が高配当株を好むのかを全くもって知らないような気配が、本書でも引き続きあった。
日本人が高配当株を好きな理由は、正直、表立っては言えない。なぜなら、それはほぼ脱税と呼べるスキームが配当金に存在しているからだ。それが上記の配当控除という制度である。これを日本の金持ち層はみんなこっそり、ほぼ全員利用している。
高橋ダンは、このようなことを全く知らず、また、アメリカで起きていたトレーダー業界の崩壊も知られていないとたかをくくってか、持ち前のアメリカン・トレーダー魂で、全然関係ない金融商品を無意味に説明して、最後だけ日本人のマインドはおかしいと高配当投資をバッシングしている。
確かに、日本人は金融教育にうといが、私はこういうことをする人がいるのももっと悲しい。
指数=大衆心理 を無視した指数信仰
また、彼が紹介した指数に関しても触れておきたい。
彼がこの本で紹介したMACDやストキャとティクス、RSIなどは去年、そのことがきっかけになって一部ではブームにもなったようだ。だが、近年、これらの指標はあくまでそれを見ている人が共通のシグナルと受け取ることで、一斉にアクションにつながる、というだけのことがわかっている。
つまり、株の売買慣れした人々が、一緒に動きやすい。それだけなのだ。
そして、これらの指数は「業績相場」ではある程度の的中率はあるが、コロナショック後など政府から資金が注入される「金融相場」では、ほとんど当たらない。
当たり前だ。政府の投入資金が、群集心理なんかよりはるかに強いパワーを持つのだから。
現に、高橋ダンはコロナショック後の、公的資金が投入されることが決定した以後の相場は、ほとんど外しに外しまくった。たまに、落ちすぎた株価がデットキャットバウンス(死んだ猫が跳ね上がるくらい明らかな相場)するのを言い当てるのはあったくらいだ。
日本を代表する株式アドバイザーの広瀬隆雄氏もアメリカの著名投資家のジム・クレイマーやレイ・ダリオ、ジョージ・ソロスやそれに準じる人も、これらの指数をほとんど使わなくなっている。彼らが使うのは、今や移動平均線くらいなものである。
Chapter5は良かったが、不動産は無知すぎて辛かった
Chapter5のコモディティの見通しは、まあまあさすがだなと思った。だが、この分野に関しても彼よりは副島隆彦氏など、早期からコモディティの本を大量に書いている評論家は存在し、それよりも彼の認識は甘いように見えた。
酷かったのは、不動産投資である。
彼は、日本で不動産投資を一切したこともないのに、堂々と不動産投資の指南を書き続けた。そしてバブルの1991年以後、不動産の値段が戻っていないから、日本の不動産はアジアでも屈指のお買い得である、と語った。私はこの辺で一度胸が苦しくなった。
本書は買いか? 答えはNO
ここまで読んだ人はわかるが、私はこの本を推奨していない。
ブログを書くのは結構しんどい作業だ。私も訴えられるリスクを負いながらなぜこんな書評を書いているのかよくわからない。だが、いいところはある。所々、さすが投資の国、アメリカから来た人が書いた本だ、というところはなくはない(僅かだが)。だが、この本を読むのであれば、上記の『ウォール街のランダムウォーカー』やジェレミー・シーゲル『株式投資の未来』を、ちょっとまあ難しいけどなんとか無理にでも読んでもらいたいなと、思う。以上