久々のクソ本。なぜそんなに焦って偉大に見せる必要があるのか?Amazon高レビューも疑わざるおえない……『豊田章男』片山 修

オーディオブック

本書はオーディオブック読み放題で読むことができます。

アマゾンオーディブルでも読むことができます(1冊目は無料)

豊田章男のプロフィール

豊田 章男(とよだ あきお、1956年〜 )は、日本の実業家。トヨタ自動車の創業者である豊田利三郎の子孫で、豊田章一郎の息子である。

トヨタ自動車株式会社代表取締役執行役員社長兼CEO、東和不動産株式会社代表取締役会長、株式会社デンソー取締役、一般社団法人日本自動車工業会会長、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金理事長。愛知県名古屋市出身。学位は経営学修士(バブソン大学・1982年)。栄典は藍綬褒章、レジオンドヌール勲章オフィシエ章。

『モリゾウ』を名乗り、モータースポーツやマスメディアに登場することでも知られる。

著者プロフィール

片山 修(かたやま おさむ、1940年〜 )は、愛知県名古屋市出身の日本の経済ジャーナリスト、経営評論家。主に経営者を対象とした伝記本を書いている。

明治大学経営学部を卒業し、名古屋タイムズ記者を経て、1970年以降はフリーランスのジャーナリストとして活動。主な書籍に『柳井正の見方・考え方』PHP研究所、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』文春新書、『トヨタはいかにして「最強の社員」をつくったか』祥伝社など。

目次

第Ⅰ部 人間
【第1章】 原質――いかに育ったのか 
【第2章】 居場所――もう1つの顔 
【第3章】 ルーツ――なぜつぶれないのか 
【第4章】 心象――イチローとの対話 
 
第Ⅱ部 経営者
【第5章】 門出――逆風に抗して
【第6章】 試練――リコール事件に鍛えられる
【第7章】 慢心――何を恐れているのか 
【第8章】 転換――何を改革したのか 
【第9章】 発想――上から目線を廃す 
【第10章】 未来――どこに向かうか 

概要

本書は、豊田章男をヒーローとして描いている。

その内容は、あまり個人的な側面が含まれておらず、例えば、父と母の関係や家族、子供のことなどは皆無である。あるのは、名古屋から慶應義塾小学校に入るためのところから、ちょっとした学生時代の武勇伝くらいで、そこからすぐにトヨタへの入社となる。

家系で唯一の文系で入社。車を知るためにテストドライバーとなるという前半

トヨタに入ってからすぐさま、豊田章男の武勇伝が始まる。

御曹司として扱われたことが辛いというのは事実だろうが、それに対して強い態度(業務の実力で跳ね返した等)を示したことや、上長にあたる人物に反抗して単独行動を示した、などあるが、普通に考えたら、創業者の子息がそのような行動をすることがいいことだとは思えない。

だが、経営者としての能力は、あったのかもしれない。

元会長の奥田 碩(元経団連会長)との記述も極端に少ない

28年ぶりに豊田家以外で社長に就任し、徹底した効率化と世界市場に打って出るために組織を立て直したという奥田 碩についての記述の甘さが目立つ。そして、本人のコメントや取材した様子もなく、ただ伝聞形式で「後々、元会長の奥田も章男を評価していたらしい」みたいな記述だけで、かなり中途半端な手打ちも見られる。

豊田章男もリコール問題でアメリカと揉めたのは間違いないが、奥田時代のアメリカBIGスリーとの折衝はそれよりも遥かに壮絶できつかったはずだ。

この辺の記述を、妙にかわしておさめてしまったところが、かえって気持ち悪く怖い。

弱さの記述をゼロにし、ヒーロー像ばかり描く『伝記』を、普通に読むのはムリ

私は豊田章男に別に恨みはないし、むしろ、経営者の中でも、トヨタは社是を守り続け、執行役員をおかないなど、日本流の良さを大事にしていることは評価しいてる。

だが、ここまで戦時中の軍国本みたいなリリしすぎる文体では、リラックスして読むこともできず、身構えてしまう方が普通だと思う。

現場、現場、というものの、彼はエンジンを設計しているわけでもなく、車の整備ができるわけでないのに、現場を行ったり来たりしただけで、現場の人という考え方は、できるはずもない。とにかく、具体的な記述がないのに、悪いイメージばかり覆そうとやっきなのだ。

なぜ、今、このような本が書かれるのか?ということへの違和感

本書には、豊田章男のキャラクター調整という使命があるように思える。文中では、何度も何度も「サラリーマン社長ではない」と書いているが、逆に言えば経営者は全員サラリーマンだと思う。おそらく「御曹司」にたいして「サラリーマン社長」という単語を持ち出しているのだろう。

こういう文体で本書を書き綴った著者の片山修は、大企業のお抱えのライターで、日本の大企業を肯定的に書いたを本を生涯にかけて出版し続けた人物だ。だが、私はこの片山氏の対しても、ここまで徹底して持ち上げるのは、実は本人も躊躇したのではないかすらと思っている。

つまりはそれだけ、やりすぎな本なのだ。

テスラとの交渉決裂、水素自動車の先行き不安からトヨタへの投資家視線が変わった

ここで、私が最近トヨタに対して思っていることをまとめてみる

  • 水素自動車にこだわり、EV車の開発が遅れている
  • 今まで主軸だったプリウスが下火になったがヒットが生まれていない
  • 終身雇用の無理さを率先して発信している
  • 脱酸素批判も率先して行なっている
  • テスラに時価総額を抜かれた
  • テスラとの交渉決裂したあたりから、なんだか怪しい行動が増えている

現在、EV車の開発でトヨタは遅れをとっているらしい。

関連リンク:欧州で加速するEV化、トヨタが遅れを取る最大の理由と残された「2つの道」

その裏には、水素自動車の開発の遅れと、そもそも水素ステーションを設置するにはコストがかかりすぎて、マーケティングが大間違いであったかもしれない、という憶測が投資家たちの中で広まっていることが挙げられる。つまり、水素自動車の失敗関連の憶測である。

国内メディアでは、仕切りにトヨタの水素自動車を推進をポジティブに考えている。

関連記事:EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執するこれだけの訳

そんな世界の自動車覇権闘争で、トヨタが圧倒的に後塵を喫している中で、本書は生まれた。

2020年にコロナ感染症によって、脱炭素シフトに拍車がかかった時に、GMやフォードも泣く泣くEVシフトに賛同した。まだまだ課題は残るものの、この流れは世界的なものだ。

まずはこの流れを理解して欲しい。日本企業で応援すべきだというのはわかるが、この前提で、おかしなヒーロー本を書いて、それをかさあげ評価している

『車に興味がないが“豊田章男”に興味がある“かもしれない”人向け』に書かれている内容

通常の企業本に登場するような、業務的な内容は本書にはほとんどない。

あるのは、忙しい社長業の中で24時間レースに出たり、イチローに給料は30億円(社長報酬は3億円)でも安いと罵られたりしながら、日々頑張る、豊田章男のわかりやすいストイックさだ

豊田章男のファンは、既に車好きの中にはある程度いる。

そして、車好きは、また、トヨタのリスクを十分知っている。

そこから逆算すると、本書は、車に興味がない人に向けた、トヨタの社長を好きにさせるための本である可能性が高い。知っている人に向けては、かけないことが多いのだろう。

アマゾンで驚異の高レビューだが、出版からのレビュー増え方が早すぎるという面も

本書は実に丁寧に書かれている本ではある。

御曹司としての彼の苦しい立場は、読み応えがある。また、トヨタの社内人事もよくわかるし、理系ではないが故に現場主義を貫いてきた豊田章男のスタンスもわかりやすい。何よりも社長に就任してすぐのアメリカでのリコール問題もドラマチックによく書かれている。

だが、と思う。

まるで力道山の自伝かと思うような、あまりにもヒロイックに書かれたその文体や内容からは、今時の人間として、むしろトヨタの焦りの方が感じられてしまうのは、おかしなことでしょうか?

以上が、私の本を読んだまとめ情報である。

Q:どのような人が本書を読むべきか?

A:読むべき人は少ない。トヨタを批判的に読みたい人は読むべきだ。

だが、私のようにトヨタを応援し、豊田章男を知りたい、と思った人間には、明らかに逆効果の酷い本であることは間違いない。私は、彼が嫌いになってしまった。

トヨタに嫌いになりたくない人は読むべきではない。

これは、極端なへそ曲がり的なものではない。残念ながら。

読んだ多くの人は、今時こんな本を書かせて、一体どうしたんだろうか?と思うはずだ。

Q:それでもいいところはないか?

A:あることはある。

それは、リーマンショック後に社長就任して、EVの全盛になるコロナ前までの、非常に優れた経営者の物語としては、面白い。御曹司が社長になる難しさもよくわかる。

何度も言うが、ここに書かれているアメリカでの大規模リコールの件は、非常に優れた判断と豊田章男の人間味が溢れたものだった。だが、それでも、だ。

読んだあと、多くの人が疑問に思うはずだ。Amazonのレビューにもそういうことを書いているレビューアーが少なくない。だが、それでもあの圧倒的な高評価だ。多くがアマゾンで本を買っていない。それ以上は言わない。

それらを見て、トヨタを応援したいとは、思えない。

私のように、意気消沈する人はたぶん少なくはいはずだ。

本書はオーディオブック読み放題で読むことができます。

アマゾンオーディブルでも読むことができます(1冊目は無料)

タイトルとURLをコピーしました