本作はオーディオブックで読むことができます。
著者紹介
中村 淳彦(1972〜)
東京都目黒区生まれ。専修大学経済学部卒業。大学在学中の1996年より雑誌編集業務に従事し、大学卒業と同時にフリーライターとして活動する。実話誌や男性娯楽誌での執筆が多かった。2008年から高齢者デイサービスセンターを運営したが、2014年に廃業。
デビュー作『名前のない女たち』以降、女性の性風俗やアダルトビデオに関するルポが多かった。近年では、さらに女性の年齢層や職業範囲を広げて、貧困、介護、風俗、超高齢社会などをテーマにノンフィションを執筆している。
東洋経済オンラインMVP賞(2016年)東洋経済オンラインルポルタージュ賞(2017年)
最新刊は「パパ活女子」(幻冬舎新書)
二つの代表作
『名前のない女たち』
2000年からオレンジ通信(東京三世社)での無名のAV女優連載「企画モデルという生き方」が注目されて、2001年「名前のない女たち」(宝島社)として単行本化。宝島社「名前のない女たち」シリーズは継続して発行され、2017年「名前のない女たち〜貧困AV嬢の独白」はシリーズ6冊目。
2009年、佐藤寿保によって映画化され、第33回モスクワ国際映画祭(世界10位以内の大きな映画祭)で正式上映。2018年、ポルノの巨匠であるサトウトシキによって映画化第2作目「名前のない女たち〜うそつき女〜」が劇場公開され、主演の吹越満がノンフィクションライターを演じた。
『東京貧困女子。』
2016年からはじまった東洋経済オンライン連載「貧困に喘ぐ女性たちの現実」が1億2000万PVを超え、注目される。2019年4月、東洋経済新報社から連載の取材をもとにした本作である書籍「東京貧困女子。」が発売され、第2回Yahoo!本屋大賞ノンフィクション大賞にノミネート。
目次
- 第1章 人生にピリオドを打ちたい
- 第2章 母親には一生会いたくない
- 第3章 明日、一緒に死のう。死ねるから…
- 第4章 あと1年半しか仕事ができない
- 第5章 45歳、仕事に応募する資格すらありません
概要(ブログ主の勝手なまとめ)
表紙のイメージで読むとその意外な顛末に衝撃を受ける
本作は、よくある浪費癖のある若い女性の転落劇ではない。全然違う。
東大大学院卒やバイリンガルの女性たちが、いかにして社会から転落していくのかを実にリアルに書いている。その恐ろしさに、男性であっても震えを感じるのは間違いない。
世代ごとに、女性の苦しむ姿を描く:東大院卒や元ハイクラスの女性が転落する
私は本書のようなノンフィクションを定期的に読むことにしており、そこから映画に生かされる情報を抽出することが多い。だが、今回はそれを忘れさせるような衝撃作で、震えた。
もちろん、この本の導入は表紙のイメージにある通り、東京に大学受験などでやってきた若い高学歴女性の転落を描いている。東京の風俗やアダルトビデオでは、常時彼女たちのような20代の女性のネタが絶えない。アクシデントというよりは、もう定番の産業化をしている。
しかし、本書の中盤を超えたところから急に、文章の色が変わってくる。
そこで描かれるのは、最低時給の900〜1000円代はおろか、違法時給の800円代のバイトでさえも落ちて仕事に在り付けない40歳代以降の女性の姿である。
しかも彼女たちのほとんどは、大学受験で上京しており、高学歴だ。
また、ここで描かれるのは、ハローワークや区役所・市役所の彼女たちへの対応の酷さであり、それを救って甘い汁を吸い続ける、メンタル・クリニック系の医師たちの描写だ。
40歳を境に、高学歴・高職歴の女性が地獄に落ちる理由
本書の読みどころは、彼女たちの意識の流れである。
性格には問題がないが、知らないうちに自分達が被差別クラスに振り分けられている状況を、だいぶ後になってから気がつき後悔するという流れが、パターンとしてある。
女性の労働能力は、誰も評価しない
そのパターンが、あまりにも明確で逆に怖いのである。
自分の労働能力に自信があるものの、ひょんなことから住所を無くしたり、職歴にブランクを作ってしまったが故に、高速で転落する。貯金が老後不安を感じないくらい沢山あっても、それらを吸い尽くす要因が、見えないところに山のようにある。
どんなに優れた人間で、経済的余力があっても、パターンにハマれば終わるのである。
介護職の地獄を明確化:人は介護職についたら終わりだ
また、本書ではこれでもかというくらい、介護職が地獄の入り口であることを証明する。
特に、30代以降の女性を雇う介護職は、都内でもかなりの違法性の高い事業であることが暴かれている。ただ、本書を全部鵜呑みにはできないが、それでも本書が発禁になっていないところや、ベストセラーになった経緯を見る限り、介護職が不正の温床化しているのは明白に見える。
たとえ、ケアマネの資格を取っても、介護職をすると終わりなのだ。
養育は払わなくてもいい:が、常識化している現状
また、シングルマザーの実態も顕著に描かれている。
1990年代に書かれた法律系のさまざまな本によって、また、民事訴訟を受けた芸能人やユーチューバー(N国党の立花氏)などの存在によって、民事訴訟は損賠賠償は、口座凍結もなく、実質的な支払い義務がないことも、今では常識化するに至った。
その損害賠償の無意味化もまた、彼女たちを地獄に落とす原因となっている。
本書で出てくる元キャリア官僚の夫婦は、夫と離婚した後、慰謝料や養育をいっさい払ってもらえてはいない。また、最初は養育費を払っていても、次期に夫の方がネットやYouTubeで、養育費の支払い義務というものが、強制はないということを知り、ほとんどが辞めていく。
優しそうでも育ちが良くても養育費を払っていない“男の本性”が、この本には書かれている
民事訴訟が機能不全であることを国が認めていないが故に、女性が圧倒的に不利益を受けている。
女性はマイノリティ:やがて男性のマイノリティ(下層)もこの中にひきづり込まれる
本書を読むと、女性がいかにマイノリティで、日本が男性社会かというのがわかるのと同時に、今後、男性も高学歴・高職歴であってもこの中にひきづり込まれていく未来が予測できる。
それは、落ちていく工程を細かく書いているからである。
本書は、決して女性だけのために書かれた本ではない。
Q:特にどんな人が読むべきか?
A:若い女性の記述が多いが、むしろ若いうちは逆転ができる。
本書の巻末に、取材対象者の追跡が後日談として書かれているが、この本の取材を受けて危機感をもった若い女性登場人物の多くが、実はその後の努力で下層から脱している。
ひどいのは40代以降の女性である。
よって、本書は20代後半から30代後半の女性が、読むべきだと思った。
逆にいうと、40代以降の女性は手遅れだし、やりようがないので読んでも辛いだけだろう。
また、東京在住ではない30代以降の男性も本書の内容はリアルに読み取れるケースが多いのではないかと思う。経済ピラミッドとして、彼女たちの層にあたる男性は地方にいる。
そういう意味で、地方企業で働いている男性も読むべきだと思う。
本作はオーディオブックで読むことができます。