予測を的中し続ける人がなぜいるのか?人間の未来は暗いのか?『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』(上下巻)ダニエル・カーネマン

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著者情報

ダニエル・カーネマン(1934〜 写真はウィキペディアより引用)

イスラエル・アメリカ合衆国の心理学者、行動経済学者。経済学と認知科学を統合した行動ファイナンス理論及びプロスペクト理論で著名。共同研究者は、エイモス・トベルスキーが最も多く、その次にねっじ理論のチリャード・セイラーなどがいる。

近作は直感と熟考を理論化した『ファスト&スロー』(上下巻)などがある。

オリヴィエ・シボニー(年齢非公表)

フランスHEC経営大学院教授。近作は『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』(日経BP)などがあり、専門はバイアス学。判断の誤りの根源や規則性を研究している(らしい)。

キャス・R・サンスティーン(1954〜 写真はウィキペディアより引用)

ハーバード大学ロースクールで法務博士号取得。合衆国最高裁判所やマサチューセッツ州最高裁判所、アメリカ司法省で働いた。2020年よりバイデン政権にて国土安全保障省の上級参事官に任命。現役バリバリのアメリカ国防人員である。

特徴的なのは、他の二人とは違い専門が法学であるということ。だが、近年は行動経済学の研究がメインで、主にリチャード・セイラーとの共同研究が多い。市場予測に関しての研究が主要業績だが、その他にも動物の権利、軍事法案に関することなどもある。

サンスティーンの知名度は、むしろカーネマンより著名かもしれない。

目次

上巻

二種類のエラー
第1部 ノイズを探せ(犯罪と刑罰;システムノイズ ほか)
第2部 ノイズを測るものさしは?(判断を要する問題;エラーの計測 ほか)
第3部 予測的判断のノイズ(人間の判断とモデル;ルールとノイズ ほか)
第4部 ノイズはなぜ起きるのか(ヒューリスティクス、バイアス、ノイズ;レベル合わせ ほか)

下巻

第4部 ノイズはなぜ起きるのか(承前)(パターン;ノイズの原因)
第5部 よりよい判断のために(よい判断はよい人材から;バイアスの排除と判断ハイジーン ほか)
第6部 ノイズの最適水準(ノイズ削減のコスト;尊厳 ほか)
まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める
ノイズの少ない世界へ

ブログ主の勝手なまとめ

ノイズとバイアスの定義

本書を読む上で、最も大事なのは、意思決定に間違った選択をさせている二つの大きな因子を知ることである。それが「バイアス」と「ノイズ」である。その違いを以下にまとめる。

バイアス
知識や経験による失敗・誤解因子
例:歴史的にみて、黒人は勉強ができない
→アメリカの白人が黒人に勉強しやすい環境を用意できていなかった

ノイズ
統計的に明らかになる失敗・誤解因子
例:癌の専門医は、午後の診断をミスしやすい
→癌の専門医は、午前中に難しい診断を集中させ、午後は疲弊していることが多い

バイアスの改善より、ノイズの改善は難しい

SDGsの台頭によって、今、社会変革が起きている。

確かに、日本や欧米先進諸国以外は浸透が遅い面もないとは言えない。だが、確実にこのSDGsによる理想論を標榜した改善活動(リチャード・セイラーの『ナッジ理論』)は、たとえば中国やロシアといった荒くれ諸国でさえも、脳みそをぎゅーぎゅー締め付けている。

これは、なぜかというと、SDGsがバイアスの改善に大きな成果を上げているからだ。もっというと、いわゆるバイアスというのは、歴史的、社会的な枠組みを使えば、改善しやすいことを示す。

関連記事:理性を否定する。本能を人間が操るための学問『行動経済学の逆襲(上・下)』リチャード・セイラー

それに対して、ダニエル・カーネマンが指摘しているのは、ノイズの発見しにくさと、以上なほどの改善しにくさである。気づかない、直せないという怖さが、ノイズには存在している。

ノイズの発見、ノイズの修正とは、どんなことを言うのか?

早川書房サイトより引用

上記の図は『NOISE』の冒頭で登場する図だが、重要なのはチームBである。

チームBの問題は、個人の能力で的中率がバラけているCやD、もしくは能力が高いAと違って大きな問題がある。それは何かというと、集団で丸ごと何かを間違えている、という点だ。

  • 銃口が左側に曲がっている
  • 射的を真ん中に当てるゲームだと理解していない
  • 本当は能力が高いのに、右から左に強風が吹いていた

などの、誤認識・トラブルが想定される。これらは、射的をある程度やってもらわないとわからない。つまりこの統計的な心配要因が“ノイズ”ということになる。

ここを改善すれば、要するに『予想を当て続ける』といった偉業も可能だ。ここに対するアプローチが『NOISE』(上下巻)の全てということになる。

医療ガイドラインで防ぐ、医者の診断・手術ミス

このノイズの概要を知るまでに、本書は多くのページ数を費やす。上巻では足りなく、このノイズの本質的な側面に触れるまでは、下巻の中間部分までかかるのだから大変だ。

だが、カーネマンがそこまでしてノイズの事例や定義にこだわるのは、その改善方法に関係している。

ただ、私が思うにこれを短く解説するのも可能だと思う。先にも書いたが、本書に登場する癌専門医の例は、日本人にとって非常にわかりやすい。

癌専門医のノイズ

  • 午前中に難しい診断・手術などの仕事を集中させる
  • しかし、午後にも深刻な診断は少なくない
  • 職業上の特性で、時間のゆとりのある癌専門医にはさせてもらえない

癌専門医のノイズ解消方法

  • 医療ガイドラインで診断・手術の手順を決める
  • 癌専門医の人数を増やす
  • 診断数の上限を決める(倫理的にそぐわなくても断る)

本書『NOISE』は、この『癌専門医のノイズ解消方法』における『医療ガイドラインで診断・手術の手順を決める』に該当している本だといえる。

ガイドラインというのは、不特定多数の専門家がパブリックコメントという形で公募で意見募集を行い、さまざまな経験値を統計学的に集積して分析しながら構築していくものである。

しかも一旦ガイドラインという形を取れると、2022年度版とか、第三版、第四版と改訂を重ねて時代の変化に合わせた柔軟な変更を、効率よく作り上げることができる。

カーネマンの『NOISE』は、このガイドラン形式が、人間が作り出した数少ない「ノイズ」の改善手法であること発見できたことに端を発して研究が始まっている側面が強い。

まとめ

これまでカーネマンは、単著で自身の学術論文の書籍化を行い、一般の人々に自分の理論を頒布してきた。だが、この『NOISE』は、3人の共著という異例のスタイルで書かれている。

それぞれが、専門を持ち、特にバイアスの専門家であるシボニー、法律と軍事行動、ファイナンスに詳しいサンスティーンの力量が本書で遺憾無く発揮されている。

だが、最も重要なのは、ガイドライン形式とノイズ削減の繋がりを解くことにある。そのためには、この二人の力が重要だったのだろう。また、読みやすさを担保するにも役立っている。

Q:どんな人が読むべきか?

A:本書を読むと、20世紀の世界は『バイアスを減らす』ことを、世界的な第一目標として動いてきたことがわかる。たとえば、黒人の差別であったり、社会主義の間違った理想の一面などがそれに当たる。しかしながら、バイアスの改善がある程度されて以降も、黒人の差別と社会主義の暴走は、決してゼロにはならない。

その点で、本書の『NOISE』は、一度できてしまった社会構造の問題を、ゼロにするのではなく、それらを認めながらも、ある程度の改善を絶えずやっていこう、という書籍だと思う。先にも述べたが、これはいわゆる『永続するガイドライン事業』ともいえる。

また、専門家や強烈なリーダージップを持つスター人材による『間違った選択の歴史』も本書『NOISE』のサブテーマだ。カーネマンが、自戒も込めて本書でその問題と向き合いつつ、珍しい3人共著スタイルで本書を上梓しているのも、そこに大義を見出している証拠だと思う。

その意味で、本書を読むべき人というのは、ある意味「自虐が許せる人」ということになる。

『NOISE』が示す未来は、たとえばロボットやAIからの自虐的な指示を、自ら創出して従える人統計的な強さだ。せっかく苦労して稼いだ金で、ロボットやAIを導入して、それらにご自身が否定され、馬鹿にされるでもそんな人々が有利になっていく世の中というストーリーだ。

ますますAI化、ロボット化され、人間が不要になる未来。そこでもあえて、恥を選択できる冷静な人間になるために、本書は存在ているのは、たぶん間違いない。

本書は量的にも内容のレベル的にも、紙の書籍や電子書籍だと非常に読みにくい。その点で、疲れていても耳さえ聞こえていればぐいぐい内容を脳に押し込んでくれるオーディオブックは適している。

よかったら、無料で本書(上下巻!)を読めるアマゾンオーディブルをお勧めしたい。オーディブルのサイト構造はめんどくさいし、ググって見つかるサイトはいろいろややこしいので下記よりズバッと登録するとやりやすいのではないかと思うので、よかったらチラ見してほしいです。

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