扱われているトピック
- 更新料
- 価格交渉
- 契約の誘引
- 1Rマンション投資
- 買取保証
- 原作者のスペシャルエッセイ(更新料・価格交渉・宅建業者のタブー行為)
- 原作者の取材こぼれ話
著者情報
夏原武(漫画原作者 1959〜)
19歳の時に桜美林大学文学部中国文学科を1年生の途中で中退し、東京の下町にある的屋系の暴力団に加入して約10年間ノミ屋、債権回収、地上げなどを行う。
バブル経済時代の月収は600万円から700万円。のちにビデオ専門雑誌編集者を経てフリーライターとなり、裏社会やアウトローに関した題材を得意として『別冊宝島』などで執筆した。
2003年から『週刊ヤングサンデー』で、詐欺を主題とする漫画『クロサギ』の原案を担当。2007年に小学館漫画賞一般向け部門を受賞。詐欺や闇ビジネスに関する単著も多く執筆している。
大谷アキラ(1982〜)
日本の漫画家。山梨県出身。2004年、22歳の時にまんがカレッジ入選。以後、週間少年サンデーやビックコミックを中心に、作品を発表している。『LOST+BRAIN』『ツール!』『機動戦士ガンダム FAR EAST JAPAN』『ニッペン!』『正直不動産』。
ブログ主の勝手なまとめ
不動産賃貸の変なルール「更新料」、そして悪魔が潜む「価格交渉」
まず最初に、全巻から引きついだ内容である『更新料』について本書ではストーリーが進む。敷金・礼金という謎めいた日本の賃貸契約制度に、深く踏み込む内容だ。
また、今回最も注目べきトピックである『価格交渉』に関しては、売り手と買い手の間に存在している不動産仲介業者の立ち位置の微妙さを、実に緻密に描いている。
日本人の不動産購入率(自宅など)は、65%以上だと言われ、つまり結果的に不動産の売却は本人でなくても、ほぼ過半数の人間が今後経験するものとなる。是非ともこの『価格交渉』のマジックを知っておくべきだと思う。この内容は、久々の必見項目であり、実生活に非常に役に立つ。
不正や大損が横行しているのに、一向になくなる気配のないワンルーム投資
最後に、ついに来たかワンルーム投資!
不動産投資の中でも最大の伏魔殿であるワンルーム投資。その実態に切り込むのが本巻のメインとなる。現在も、公務員女性を中心にワンルーム投資で大損トラブルを増加させているこの注目トピックを、正直不動産がどのように扱ったのか、興味深く読めると思う。
根強く残る「更新料」を取り巻くもの
正直不動産の良さは、丹念な取材によって、物件オーナーの心情も描かれるところだろう。この漫画は基本的には弱者のために作られているが、とはいえ一方的に、ユーザーの目線に立って偽善を振る舞うといったこともしない。
そのため、実際現実的なユーザーの行動にも反映しやすい。つまりは、裏手にいる裕福層と貧乏人の落とし所も見つけやすくなるのが、本シリーズの最大の魅力と言っていい。
一見、ユーザーにとって悪である「更新料」を取り扱った例を詳しく見ていく。そこから、私なりの読み解きをしたいと思う。
支払い後、短期間で退去となった借主が、果たして「更新料」を取り戻せるのか?
不動産賃貸契約の「更新料」とは、 2年ごとに設定されている場合が一般的だ。この2年は、火災保険の契約期間に合わせているところが大きく、通常はこの火災保険の更新とともに「更新料」を支払う。
そもそも「更新料」とは、敷金・礼金とともに、戦後の物件が少ない時期に設定された日本特有のオーナー有利な契約条項である。これが、バブル崩壊後の地方の衰退により、現在では敷金・礼金制度が崩壊していった(都内でも敷金なし物件が増えているが敷金ゼロ悪徳契約も増加中)。
その中でも、なぜかこの「更新料」は生き残っており、全国的に存続している。おそらくその影には火災保険との並行契約という制度的な側面があったはずだ。
で『正直不動産』(15)のケースを見ていこう。
更新料支払い後、2週間で退去となった借主が、果たして「更新料」を取り戻せるのか? というのが今回のストーリーの全容である。この問いに対し、正直不動産は『取り戻せる』という答えを出した。
もちろんその影には、仲介業者が同席して2度の話し合いが行われている。制度としては、絶対的に払い戻しの必要がない。だが、本書では『更新料』が成立する危うい側面も浮き彫りになっている。
今後、この『危うい側面』が多くの人間に知れ渡ると、この正直不動産で描かれたように、返金をせざる終えない場面も出てくるかもしれない。とはいえ、やはりそこには仲介業者のある種の思い入れが必要で、そんなすぐに払い戻しが成立するものではないことも、本書を読むとわかる。
その他にも、今回は読み応えのある『ワンルーム投資』『価格交渉(マンション売買)』があるので、是非とも気になる人は読んで欲しい。
Q:どんな人が読むべきか?
A:繰り返す通り『更新料』『ワンルーム投資』『価格交渉』が気になる人、となるが、それだと自分がそれらを読んでどのくらい役に立つのか分かりにくい、ということもあるだろう。
なので、もう少し詳しく限定していくと『賃貸契約でトラブったことがない人』と『これから不動産の投資・購入をしようとしている人』の二種類の人種が特に役立つと言えると思う。
『賃貸契約でトラブったことがない人』におすすめの理由
本書で触れる「更新料」は、不動産賃貸契約ではかなり初歩的な項目だと言える。敷金・礼金とならび、その存在をうざく思った人も少なくないだろう。
そんな「更新料」だが、交渉次第ではどうにでもなるものであることが、本書を読むとわかる。というか、不動産の賃貸契約に付随する多くのもが、一応法律としては保護をされているかのような扱いだが、最悪なんでも交渉でどうにかなるというのを、本トピックを通して読者は知ることになる。
つまり少しでも「払いたくない」と感じた項目は、なんでも交渉できるのが不動産の世界である。それを実感するのに最適なトピックではないかと思う。
『これから不動産の投資・購入をしようとしている人』にとって、本巻は必読
「価格交渉」や「ワンルーム投資」では、売主の事情や不動産価値の算出について学ぶことができる。
通常、私たちは自分の欲しい物件が、他の物件より高いか安いかで、品定めをする。だが、この二つの項目を読むことで、不動産市場ではそれは大間違いだということ知る。
ここを知るとの知らないとでは騙されやすさが、全く違うとも言える。
今回の『正直不動産』(15)は、このような初心者に保護線をはれる内容が充実した印象で、それこそ初期の『正直不動産』良さが返ってきた印象があった。