京大医学部生でさえ、未来を描けない。日本を襲う“本物の資本主義の正体”『僕は君たちに武器を配りたい』瀧本哲史

オーディオブック

本書を含め瀧本哲史氏の著作はオーディオブックの読み放題で読むことができます。

著者紹介

瀧本哲史(1972〜2019)

日本のエンジェル投資家、経営コンサルタント。株式会社オトバンク取締役(オーディオブック)全国教室ディベート連盟副理事長等を歴任した。東京大学を卒業後、同大学の助手を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、エレクトロニクス業界のコンサルタントを担当。2000年より、多額の債務を抱えていた日本交通の経営再建に取り組む。主な著書に『君に友達はいらない』『僕は君たちに武器を配りたい』(2012年ビジネス書大賞受賞)など。

目次

  • はじめに
  • 第一章 勉強できてもコモディティ
  • 第二章 「本物の資本主義」が日本にやってきた
  • 第三章 学校では教えてくれない資本主義の現在
  • 第四章 日本人で生き残る4つのタイプと、生き残れない2つのタイプ
  • 第五章 企業の浮沈の鍵を握る「マーケター」という働き方
  • 第六章 イノベーター=起業家を目指せ
  • 第七章 本当はクレイジーなリーダーたち
  • 第八章 投資家として生きる本当の意味
  • 第九章 ゲリラ戦のはじまり

概要(ブログ主によるまとめ)

京大医学部卒の医者でさえも生き残れない “本物の資本主義の正体”

近年の日本は、やたら“起業・独立”をすすめる両学長、ホリエモンのようなユーチューバーや有名人が増加し、その対局に正社員主義をあおるひろゆきなどの論客が控えている構造ができた。

彼らは大きいか、大雑多なことしか言わない。この両極端の意見を、多くの日本人が懸命にかつ強引に“腹落ち”させようとしているのが、今の労働若年層の特徴だ。

これらの後ろには搾取の悪魔扱いされる竹中平蔵がいて、税金で国政を操ろうとする税金官僚などの高級国民的な官僚がいて、それを攻撃する副島隆彦などの論客が迎え撃つ、みたいな変な構造が結果的にできてしまった。

彼らのいうことは権威に支えられているのに、彼ら自身が権威を否定するふりをするのでめんどくさい。いずれもはっきりとした証拠がないもので、論理的な強さや納得度に比べて、信憑性は低い。

瀧本氏は対面の相手を説得し続けていた

現代はゆえに “人による” とか、“タイミングによる”“世代による” という真に現実的な側面が見えにくくなっている。暴論や時代は繰り返す論が以前よりも浸透しやすい。

瀧本哲史は、そういうYouTubeなどの大衆メディアのカウンターとしての存在だと、私は思っている。そんな彼の特徴を最も表しているのが本書『僕は君たちに武器を配りたい』だと思う。

彼は自身が教鞭を取ってきた京都大学の学生の反応をベースに、いずれの本も書いている。再生回数や広告収入ではなく、相手ありきの受給にしか興味がない人間だと思う。

彼の元には、そのほかにも、大企業の正社員、京大OBの医師、成功した起業家などの相談が日々舞い込む。一般的には勝ち組と括られがちな人々の案件が多いという。

本書は、そんな“本物の資本主義”を乗り切る数々のヒントがこめられた書籍だ。書かれたのは東日本大震災直後と新しくはないが、今でも十分に読むに値する書籍であると思う。

数々の就職・起業・独立を、投資家として追い続けた人間にしか語れない事

瀧本氏の予測スタンスは以下の通り

  • 医師、会計士などのエキスパートは低賃金ブラック労働化が進む
  • 従業員を経ずに行う起業はいい結果をもたらさない(特に安易な学生ベンチャーを嫌う)
  • 労働目的・個性から逆算しない英語学習・海外志向は無意味
  • アイディア重視の企業は失敗しやすい
  • 新卒者は最初は逆張りの就職先を探すべき
  • 会社経営は“最重要課題”の激しい入れ替えで成り立つ“ホラ吹き経営”が正しい

これらは、失敗者・成功者を長年にわたって追跡してきた彼の経験が込められた指針だともいいっていい。精度も高く、私の実感としても当たっているものも多し、なによりリアルだ。

本書内では、これ以外にも様々な現実に即した“本物の資本主義”の解剖学とも呼べる内容が語られている。ユーチューバーや論客などのカリスマ疲れをした人には、オススメしたい実学書籍である。

Q:どんな人が読むべきか?

A:ネットを中心の “エセ最新情報中毒になった人” にオススメだと思う。

何もネット情報を否定する意味ではない。

ただ、ネットにはネットの裏事情があり、それらは全ては“アクセス集中”という特権に浸りたいエゴに支えられている。これは良心的なユーチューバーの代表である両学長などでもそうだと思う。

本書を読むと、そういうネットエゴが、実は人間教育にいかに不向きであるかがわかる。新鮮な知識を取るのと、行動うながし、思考をさせる、“教育行為”は、全く違うものなのだ。

Q:瀧本氏はなぜ、教育者としての評価が高いのか?

A:彼の特性は“自分の関わった事業は最後まで追跡する”というところだと思う。対象も絞られており、それゆえに具体的な情報が多い。

これは必然的に、本業がエンジェル投資家であるというところに帰結する。

エンジェル投資家は、起業家に初期投資を行い、成功すれば膨大な利益を享受するわけだが、実際は投資した企業先の先駆者・メンター、マルチなコンサルタントとして存在することも多い。

たとえば、出資先が若い出版社であれば、外部から優秀な営業マンや編集者、デザイナーを呼んできて経営者のサポートをするのもエンジェル投資家の大きな役目である。

こう言った人事だけはなく、経営や企業買収などの側面でも、その出資先を誘導していくことも現実には多い。そのような特性があるゆえに、例えば、ホリエモン、両学長、副島隆彦などの論客よりも優れた使える知見を読者に与えることができると思う。

Q:瀧本氏は2019年に逝去したため、ほとんどの書籍が2012〜2016年ごろのものだが、情報の鮮度は大丈夫か?

A:確かにその点の心配はあるが、それを考慮しても彼の書籍は独特のものがある。

ただ、例えばコロナショックのような技術的進歩を促す大事件が、何度か起きた上で、一種のパラダイムシフトとして機能した場合は、もちろん、廃れる可能性は十分にある。

それでも彼の書籍の基礎的な知識は、大事である。日本ではあまり流布していないものも多い。

それ以前に彼の著作は分厚くないので、全部読んでも対して時間がかからない。それに本書のような代表作に絞って読めば、その時間もさらに減る。

いちいち役に立つか立たないかを考える前に、大体が読み終えてしまえる。

それでももし、彼の情報の鮮度を事前にリサーチしておきたいのなら、しょっちゅうTwitterなどで語られることが多い人物なので、検索してから読むのでもいいかなと思う。

本書を含め瀧本哲史氏の著作はオーディオブックの読み放題で読むことができます。

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