私は当然映画監督なので生涯で映画を3000作品くらい見ています。
古くはフランスのルミエール兄弟、エドワード・マイブリッジなどから京都アニメなども含めて。
それでも、2回目に見た映画となるとその本数は極端に減ります。恐らく20本くらい。映画自体は大体2時間くらいかかりますので、そう何度も見れるものではありません。そんな中、突如として何度も見たいという映画が現れます。その筆頭が2015年の作品『マネーショート』です。
この映画は、リベ大の両学長もおすすめしている映画なので、少しは知っている方はいらっしゃるかもしれません。ただ、アカデミー賞を競って、脚本賞を受賞したり、ゴールデングローブ賞では、主要部門完全制覇を成し遂げている割には、日本ではあまり見られずに、劇場公開も低調に終わっています。つまり、あまりいいネタではない。しかし、ほんとに凄い作品です。今回は、PVを稼げないと思いますがこの作品とたくさん見る理由について考えていきたいと思います。
作品情報
『マネーショート』2015年 アカデミー賞主要部門 ゴールデングローブ賞主要部門 多数受賞
出演:クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットなど
監督:アダム・マッケイ 原作:マイケル・ルイス『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(英題:Big short)

公式サイトより引用
以下、回数を見る理由(心地よさ)を挙げていきます。
- アメリカの超エリートが全員バカとして登場
- 富裕層がお金に苦しみ、もがく
- ザッピング(イメージ混ぜこぜ)で心地よい
- 悪意に満ちた映像編集で終始笑える
- 結末がわかっている(リーマンショック)作品、サスペンス性ゼロで気楽
- アメリカ史上最恐の悲劇をコメディで描く
- 難しい内容を無理やりわかりやすく演出する強引さが新しい
- 撮影方法がホームビデオ的かつ盗撮的で無駄なテクニックを網羅
順々に解説していきます。。。。。
アメリカの超エリートが全員バカとして登場
本作は2007年に起きた「リーマンショック」を予見し、その株価の大大大暴落でクソぼろ儲けをした4人の山師たちを描いています。その中でも筆頭の山師は義眼の医大生トレーダーを演じるクリスチャン・ベール演じるマイケル・バーリ(↑トップ画像でサンダル短パン)。
↓2021年のマイケル・バーリご本人 ブルームバーグから引用

見てください。この舐めた面構えと、大富豪なのに適当すぎるシャツの着方。
この彼を筆頭に、真面目すぎて周囲を終始ドン引きさせるトレーダーのマーク・バウム(スティーヴ・カレル)、狂言回しでヤケにフィットネス狂のドイツ銀行営業マンのジャレド・ベネット (ライアン・ゴズリング)、腸洗浄が趣味の引退したトレーダーのベン・リカート(ブラッド・ピット)など4主役制度で登場します。
で、第一の見所は彼らが劇中で対面するモルガン・スタンレー、ゴールド・マンサックスなどの年収1億を軽々と超えるエリートたち。彼らは全員最初エリート的な演技をするものの、リーマンショックに突入すると泣き顔、ビビリ顔を連発し、私の虚栄心をくすぐります。

富裕層がお金に苦しみ、もがく
中盤から後半にかけて、物語は市場の地獄化を見て見ぬフリをする金持ち&金融エリートたちの描写に終始します。毎日毎日プレッシャーが苦しすぎて、銃を撃ちまくったり、ストリップ劇場に行って呑みまくって忘れようとしたり、セミナーで揉め事に変な対応をしてダサい姿を見せまくったり。日本もアメリカもこの辺は変わんないんだなー、とその描写を本当に楽しめます。
ザッピング(イメージ混ぜこぜ)で心地よい
映像に関して、無意味なストップモーション、お前誰だよ的な一般人の盗撮写真から、滑稽さしかない熱弁しているエリートのスローモーション(声付き)など、通常2時間で多い時でも500カットくらいだとされている映像・写真が本作では恐らく2000カットほど使われています。そのため、単純に見ていて飽きません。もう気持ちいいのです。パッパッパ映像が切り替わります。綺麗な映像なんかどうでもいい。そんなスタイリッシュな作りが、見ている人の気持ちをリラックスさせていきます。
悪意に満ちた映像編集・演出で終始笑える(会話の最中のブツ切りなど)
劇中で「ファッ◯」「シッ◯」「マザーファッ◯ー」なども500回くらい発せられます。また、熱弁している最中に映像をぶつ切りしたり、これは日本映画でやってはいけないことですが俳優の顔に平気で韻部の図解などをのせてきたりします。結構真面目な部分で、非常にひどい映像演出をする。俳優もいきなり、演技を置き去りにして画面の観客に語りかけ、司会者みたいな演技をします。
結末がわかっている(リーマンショック)作品、サスペンス性ゼロで気楽(神経を使いません)
結末を考える必要はないのです。ディテールを追う必要も実はない。なぜなら、ラストはみんなが知っている「リーマンショック」だから。私たちは登場する人物の誰が最後に悶絶して苦しい顔するのかを予想して、待つだけです。
難しい内容を無理やりわかりやすく演出する強引さが新しい
とは言っても、リーマンショックの原因となったCDS(クレジットスワップ)やCDOなどは難しい金融商品です。なんとなく、本作を嫌煙する人はそれらの単語や現象を理解していないとダメかと思っているようです。しかし、わかる必要があるのはそんな「誰もがわからない難しいこと」を使って金を稼ごうとした滑稽さだけ。この映画ではCDSやCDOなどの高度金融商品を、料理人などの全く別の分野の素人たちが面白おかしく強引に解説します。つまりわかる必要なし。滑稽さだけが重要なのです。
撮影方法がホームビデオ的かつ盗撮的で無駄なテクニックを網羅
最後に、映画的なことを説明しておきましょう。本作は、その非映画的な作りな割りに、相当サウンドデザインが秀逸です。歩く音や会話、周囲の背景音、BGMなども凄い。しかしそれに反して撮影手法は極度にチープさを強調しています。ピントもボケまくり、ズームアップ&アウトもめちゃくちゃ。時々挿入される回想映像はボケボケのホームビデオで、画面にはとてもハリウッドの大作とは思えません。
まとめ
何よりもアメリカ最恐の悲劇をこんなにリラックスして気楽に見られる。しかも適度に「難しそう」なので、時間を無駄にした感が全くなし。人類史を操ってきた白人エリートたちが、ここまで体を張ってクソを演じてくれる。これが、妙な『映像スナック』感を醸しているのが私のリピートの原因です。
難しい映画だと思わないでください。こういう変な作品、あるんですくらいでいいのです。後からじわじわくるのを待つだけでいい。自然と見ている人のマニア的な一面に語りかけてくる、そんな映画です。
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