人脈の選定次第。違法送金のコツが書かれており、現代でも使える可能性大。ただし基本はエロティック小説『マネーロンダリング』橘玲

投資

著者紹介

橘 玲

早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。経済書籍での脅威のベストセラー出版率を誇る。

目次

第一章 夏、香港(資金移動:少額編)
第二章 秋、東京(資金移動:高額編前編・個人情報取得方法)
第三章 ハッピークリスマス(資金移動:高額編後半・個人情報取得方法)

概要(ブログ主の勝手なまとめ)

本書の要点を先に書いておく。

  • マネーロンダリングの具体的な方法を書いた本でない
  • 小説は、村上春樹のスタイル(エロ美女と世界系)をパクっているので読みやすい
  • マネーロンダリングの成功の秘訣は、人選である
  • マネロンの基本は、妥当な人選模索の覚悟
  • 国内の資金監視について、重要な情報が暴露されている
  • 日本での個人情報の取得のコツが書かれている

エンタメで学べる資金移動・香港編(マネロンとは、現地で“模索”することである)

同書は、2001年ごろから2002年のマネーロンダリングを想定して書かれている。初版が書かれたのが2002年4月なので、当然そうなる。ただ、それで単に古い本と判定するのにはもったいない。

なぜなら、マネーロンダリングの道は、固定したルートではなく、現地で的確な人選をし、模索して切り開くことが常識である、ということを本書は示しているからである。

つまりは「最初から資金洗浄やマネーロンダリングを確約する」というのは、あり得ない話で、それを言ってくる業者があるとしたら、詐欺師の可能性がある、ということを本書は書いているのだ。

本書を読むことで、いざとなったときの騙されにくさは格段に上がるのは間違いない。

マネロンの素材は常に“既存の手法”。それに金で動く人脈を組み合わせる

ここからは少し内容のネタバレを書いていく

主人公である工藤秋生(20代前半・偽名)は、ウォール・ストリートの某大手金融会社に入れたものの、そこで落ちぶれて海外を放浪しているうちに、香港に辿り着き、そこでマネーロンダリングの仕事をするようになった。

秋生は、香港に着いた時、人脈はゼロ。

広東語も北京語も話せず、ノウハウは全く持ち合わせていなかった。だが、部屋を借りるときにひょんなことから、現地のいい人脈とつながり、やすく借りることができ、そのときに香港特有の人脈主義社会に気が付く。

この人脈主義がなければ、秋生は実はマネーロンダリングをすることがなかった。そういう現地の些細なものの中で、マネーロンダリングが成立していくことを、著者の橘玲は示す。

バブル崩壊直後、円高の中で、マネーロンダリング文化が開花

本作で気がつくのは、マネーロンダリングで重要なのは、その国の信用度通貨の強さだということだ。本書が書かれた2000年代前半は、円が強く、まだ日本の信用度が高かった。

それによって、マネーロンダリング希望者がだいぶ楽をしていたことがわかる。

マネーロンダリングには、自国の個人や法人の情報操作の緩さも関係してくる

読み進めるとわかることだが、マネーロンダリングでその難易度を上げているのは現地の法規制加えて、資金送金元の国の情勢もあるということだ。

その点、2000年代の日本は個人情報も緩く、法人に関してはザル状態だったことが本書を読むとわかってくる。現地の法規制はともかく、この頃から大きく変わっているのはむしろ日本の法制度だというのは、マイナンバー制度の成立面でもわかる。

結論:現代の日本はマネロンがまだやり易い

これらを踏まえて、本書から読み取れることを最後に書いておきたい。

マネーロンダリングは、現地で模索するというのは、おそらく現代も続いているだろう。そして、日本の法制度は、2000年ごろに比べればだいぶ進んだので、難易度もアップしたのは間違いない。

だが、現行のマイナンバーは依然として完成にはほど遠い。

そして、コロナ禍でむしろ日本のお役所の動きがまだまだアナログで動きが鈍く、管理も人の目を頼ってより、かなり甘さがあるいい加減な物だというのが世に知れた。

この点を加味するに、日本は、世界的にまだまだマネーロンダリングがやり易い。

そういうことが、この謎の巨乳美女(30代)と年下青年(20代)の世界系小説で読み取ることができる。しかも、あくまで現地で模索することが前提なので、クマなく読み込む必要はない。

個人的に、大変お得でありがたい小説だと思った。だが、一球入魂の純文学や高度なストーリー展開を期待した人には向いていない。つまり芸術作品として読む物ではない。

Q:どんな人が読むべきか?

A:資金管理や遺産相続的に、大金を動かす気配を感じている人は、特にマネーロンダリングをしたいと思わない人でも読んでおいた方がいいと思う。

というか、マネーロンダリングの必要性はこの小説で扱われる大(5億〜)・中(5000万〜)・小(2000万程度)の各レベルにおいて、いずれも突然出現するケースが多いからだ。

ある日突然「マネロンしないとやべえ」と、思うわけだ。

そういう意味で、こういう具体性の少ない(それでも普通に暮らしている分にはかなり具体的要素が多い)読み易い書籍に触れておくのは、損はないと思う。

Q:注意すべき点はあるか?

A:この小説では多くの具体例(銀行名・政府機関名・施設名(マネロンが行われ易い場所))などが書かれているが、これらはおそらく当時においても、幾分少し外して書かれていることが想定される。私だったら、取材した現地の情報はそのまんまは書かないからだ。そもそも小説という形式なのだから、人々の偏見に合致している場所・状況を選ばないと本が売れない。

あくまで:どういう人にどういうルートでどういう手筈で:という面に着目して読むべきだと思う。ここは、今も昔も変わらないところだろうというのが容易に想像できる。そして実際のマネロンは地味で、あっさりしているのだとも思う。

また、間に受けすぎないことも大事だと思う。

本書で登場する日本の上場企業の財務部部門の部長のキャラクターや、不動産会社の社長などは、カモとして描かれる。

準主人公の巨乳美女は、例外的に利口で、人生に薄暗いバックボーンがあるから、騙されそうな橋を通っても騙されないという設定だ。だが、これは現実的にあり得ない人物設計だ。

大抵はカモにされるのだろう。それは、著者の橘玲自身もカモ扱いされるのだと思う。というか、節々にそういう記述がちりばめられている。

本や情報から得られるものは微々たるものなのだろう。むしろ、マネーロンダリングがこの世にあることすら疑っているくらいの人の方が、ちょうどいいスタンスだと思う。

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