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目次
上巻
- 第1部 二つのシステム
- (登場するキャラクター―システム1(速い思考)とシステム2(遅い思考))
- 注意と努力―衝動的で直感的なシステム1
- (怠け者のコントローラー―論理思考能力を備えたシステム2 ほか)
- 第2部 ヒューリスティクスとバイアス
- (少数の法則―統計に関する直感を疑え アンカー―数字による暗示 利用可能性ヒューリスティック―手近な例には要注意 ほか)
- 第3部 自信過剰
- (わかったつもり―後知恵とハロー効果 妥当性の錯覚―自信は当てにならない 直感対アルゴリズム―専門家の判断は統計より劣る ほか)
下巻
- 第3部 自信過剰(承前)
- (エキスパートの直感は信用できるか―直感とスキル 外部情報に基づくアプローチ―なぜ予想ははずれるのか 資本主義の原動力―楽観的な起業家)
- 第4部 選択
- (ベルヌーイの誤り―効用は「参照点」からの変化に左右される プロスペクト理論―「参照点」と「損失回避」という二つのツール 保有効果―使用目的の財と交換目的の財 ほか)
- 第5部 二つの自己
- (二つの自己―「経験する自己」と「記憶する自己」 人生は物語―エンディングがすべてを決める 「経験する自己」の幸福感―しあわせはお金で買えますか? ほか)
著者紹介
ダニエル・カーネマン(1934〜)
イスラエル出身の心理学者。行動経済学の開祖としてリチャード・セイラーとともに著名である。2002年にノーベル経済学賞。なお、心理学者が経済学賞を受賞したのは史上初めてであった。現在は、プリンストン大学名誉教授。
主な功績は『プロスペクト理論』(得より損を怖がる理論)『ヒューリスティック&バイアス』(本書でも撮り上げられる「フレーミング理論」)『ピーク・エンドの法則』(激しく終わると記憶と脳が傷つく理論)。これらは、保険、金融から医療システム、広告メディアまで幅広く利用される。
概要(ブログ主の勝手なまとめ)
個人的に、ダニエル・カーマンはずっと好きな学者であり、おそらく同世代ではかなり詳しい部類に入ると思う。彼はリーマンショック後のアメリカの経済界での最大のスターとなった。
現在、両学長や高橋ダンなどが、彼のことをよく動画で語っているが、そういうユーチューバーが語っていることは、彼の研究の表面上の話だけである。本来ならもっと注意深く読みこむべき人物だ。
ファスト&スローの意味 直感(ファスト)熟考(スロー)
本書のメイン事項である人間の機能上のファスト&スローは以下の通りの定義だ
システム1(ファスト)
直感や第一印象に近い、脳機能よりはむしろ体験や経験に基づく思考や動作反応。並列して多くのタスクをこなすことができる(運転中に話しながら、ラジオを聞く)
システム2(スロー)
システム1で対応ができなかった時に登場するのがシステム2だ。
自動的にできないこと全般をさすが、わかりやすい例えは『熟考』だろう。しかしながら、システム1の影響を受けやすく、動作が鈍い。システム2が起動すると平行作業が難しくなる。
この定義はとても鋭く、目が覚めるような思いを多くの人が感じるだろう。だがしかし、これを知るだけでは役に立たない。むしろ、システム1・2を深く知るものに操られるだけで終わったしまう。
こんなシンプルな定義に対し、なぜ著者は分厚い2冊の本を出したのか?
『ファスト&スロー』を別の切り口で書いた書籍がある。それはロベルト・チャルディーニのベストセラー『影響力の武器』である。
関連記事:「言いなり」の仕組みを簡単解説『影響力の武器:なぜ、人は動かされるのか』ロバート・B・チャルディーニ 要約
『ファスト&スロー』が「定義」を恐ろしいほど端的に表現しているのに対し『影響力の武器』は、世にある現象を総まとめしたような側面を持つ。故に、実用的である。
カーネマンの定義した「システム1・2」は簡潔すぎる。それゆえに、それらを利用したものを多く記述し、世間の実用化需要に近づける必要があった。本書は上巻で軽く定義がされ、上巻の中盤から下巻にかけては、ケースメソッドに文字数が割かれている。
『ファスト&スロー』が『影響力の武器』より遥かに優れる理由
だが、上記に関してはあくまで「わかりやすさ」という括りの話である。
読み物として優れていてコスパが高いのは完全に『ファスト&スロー』である。『影響力の武器』は、根無草なのだ。汎用性が低く、これから生まれる新たな現象には対処できないのである。
『ファスト&スロー』一例
フレーミング効果と合わせると意思決定が逆転する(全体数1000人場合)
- Aを使えば、80%の確率で300人助かるが、20%の確率で500人助かる。(選択率上位)
Bを使えば、50%の確率で400人助かるが、50%の確率で500人助かる。 - Aを使えば、80%の確率で700人死ぬが、20%の確率で500人死ぬ。
Bを使えば、50%の確率で600人死ぬが、50%の確率で死ぬのは500人だ。(選択率上位)
フレーミング効果によって「助かる」→「死ぬ」に判定基準を変えると、印象が全く変わってしまう。この恐怖感の操作によって、実は多くの保険や金融商品が誕生している。
その他、ハロー効果(第一印象を引きずる)、ヒューリスティッスとバイアス効果(過去の判断や経験に影響される)、アンカリング効果(付箋を貼る)など、さまざまな効果とファスト&スローがかけ合わさった結果の研究結果が本書には書かれている。
Q:どのような人が読むべきか?
A:読んでから判断するしかない。事前には不要か必要かは言い表せない。
ただし、保険の営業マンやコピーライターは、既にこの本の応用的なことを実生活で行なっている可能性がある。そういう場合は、なるほど、と思うよりそんなこと知ってるよ、と思うかもしれない。
そういう意味で、人を騙したり、情報の出し方を慎重に考えるような立場にいるような職業の人々にとっては「あくまで判断の言語化されなかったものを言語化しただけ」の書籍として映る可能性はある。むしろ、余計なことを暴露する書籍とも受け取れるかもしれない。
だが、自分がすこぶるお人好しの人などは、この本を読むことで騙されにくくなるということは、大いにありえる。
また、本書で語られる細分化された思考プロセスのようなものを、組み直して使えるような能力を持っている人には、さらに自身のコミュニケーションスキルを上げるきっかけになる可能性がある。
Q:読みやすさはどうか?
A:かなり難しく、大抵の人は一度の読書で内容はわからないだろう。ダニエル・カーネマンは基本的に、本を論文形式で隠し、例え話や修司法を使わないので文章が固い。
また、この書籍に関しては翻訳もあまり良くないように思える。訳註も多く、図表も多い上に、しょっちゅうずっと前の図に戻ったりするので、慣れない人はおすすめできない。
Q:読む時の注意点は?
A:ハロー効果、アンカリング効果、ヒューリスティックスなどをほぼ常識のように使う。このブログで書かれているようなわかりやすいかっこがきは一切ない。
注釈に関しては、意味を補完するというよりは、事実を裏付けるためについているので、読む気にならないし、参考にもならない。
なので、この手の書籍を読む時には、速読法をアレンジしたような手法で、例えば、20分くらいでとにかく目で文字を追いながらページをめくり切って、章や項目、キーワードをあらかじめ頭に入れてつつ、ゆっくりと読む、みたいな二段階的な変速読書が向いている。
表紙がキャッチーで、おしゃれな体裁だが、100%学術書だと思ったほうがいい。
Q:なぜ、本書はそれでもベストセラーになったのか?
A:カーネマンの書籍は超高度なのに、恐ろしい実用性を持っている。
いや、正確にいうと、ほとんどの読者にとっては難しい堅物無意味本なのだが、読んだごく一部の人間がそれを利用して新しい商売や金融商品を生み出すというケースが多い。
その後、後付けで何か問題があったとき(商売の破綻やトラブルなど)、本書を使って少し賢い人が解説する(両学長や高橋ダン的な著名人)というパターンだ。
つまり、面白い、とか、役に立つ、ではない。
どちらかというと、参照元、引用元、原著として、どんどん存在感が強くなり、圧迫されて、しょうがかなく購入するという感じだろう。
なので、何度も言うが、読む人をそうとう選ぶ。
誰にでもおすすめという書籍ではないので、注意して欲しい。
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