共産主義の第一世代(スタリーン・毛沢東)の迷走を予言。第二世代(習近平・プーチン)も登場する『動物農場』ジョージ・オーウェル

オーディオブック

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著者について

ジョージ・オーウェル(1903-1950)

イギリス国籍の作家、ジャーナリスト、戦場ルポライター。イートン・カレッジに国費留学で入学し卒業。その後、イギリス軍に入軍し、ビルマ勤務となったが退職。その後は、パリで最底辺層をメインとしたルポライターから、スペイン内戦のルポライター、最後はフランス・モロッコで作家生活を送る。

当初は貧困層出身であると称していたが、のちにイギリス領であったインド・ベンガルにて裕福な暮らしをしていたことが明かされる。それ以外にもその生涯には謎が多く、結婚後に貧困に喘いでいたにも関わらず、夫婦でスペイン内戦のルポライターをするなど、資金源が推測される国際活動を多く行なっている。そのため、一部ではMI6(イギリス秘密情報部)だったといわれている(副島隆彦説)。

本作『動物農場』は、1945年の戦時中にイギリス国内におけるロシア批判への規制を逆手に取った書籍であり、当時流行しつつあったディストピア小説(退廃した近未来を描く)の形式と、児童書の形式をミックスさせた文体で描かれている。

『動物農場』は、イギリスからヨーロッパを中心に多く読まれ、長い時間をかけてベストセラーになった。その名声と作家としての信用により、次作『1984』へと繋がる重要な書籍である。

あらすじ

イギリス・ウィリンドン近くにあるマナー農場。

農場主のジョーンズ氏はアルコール中毒の怠け者であり、農場の家畜たちの不満が溜まっていた。

動物たちから尊敬される老いた雄豚メージャー爺さんは、夜な夜な行われる動物たちの集会において、人間を敵視し、全ての動物の平等と自由を謳った「動物主義」を唱える。

その「動物主義」によって、反乱が起き、ジョーンズは農場から追い出され、隠して動物たちだけによる理想的な農場、通称『動物農場』が誕生した。

しかしそこでは、想像もしなかった恐怖政治へと全ての動物たちが自ら突き進んでいくのだった

登場キャラクターとモデル

『動物農場』の最大の特徴は、実質的な主人公が不在だということ。また、メインキャラクターにモデルが存在するということである。そのモデルは、実際に存在した政治家たちである。

  • ナポレオン(独裁者として登場・モデルはスターリン毛沢東
  • スノーボール(影の支配者として登場・モデルはトロツキーと言われるが、いわゆるロックフェラー家ロスチャイルド家のような“利回り:スノーボール”の資本家としての色合いが強い)
  • メージャー爺さん(動物たちの反乱のきっかけを作る・モデルはレーニン
  • 犬たち(力で反乱を抑えこむ・モデルは国家政治保安部(GPU)、内務人民委員部(NKVD) などの秘密警察であるとされる)
  • ボクサー(力持ちで多大な労働を負担する・モデルは忠誠心はあるが配慮が足りない赤軍軍曹
  • ベンジャミン(ボクサーの親友で揉め事の仲裁役・モデルはロシアの知識人全般
  • ジョーンズ氏(農場の元々の所有者・モデルは旧ロシア帝国時代の王侯貴族や地主、資本家

ちなみに、ウォーレン・バフェットの自叙伝は『スノーボール』というタイトル。個人的には、小太りでルックスも豚みたいであり、福利を意味する雪だるま(スノーボール)をトレードマークにしている点でも、私は本作のスノーボールをバフェット想定でずっと読んでいた。

地獄の1970年代を30年前に予言した小説

オーウェルは、生前に“動物は資本主義の概念がない”というとっさの思いつきから、本作『動物農場』のアイディアを思いついたと語った。だが、その“アイディア”は、彼がスペイン内戦にルポライターとして参加することで、しばらくの間、寝かせられた。

イギリスとロシアの同盟によって制限された、共産主義批判

自叙伝的な文章(『動物農園』新訳版の著者のまえがき)では、スペイン滞在のあとロシアに長期滞在したことが書かれているが、そこでの実体験(ロシアの政治体制の崩壊ぶり)を母国イギリスに戻っても発表することが許されなかった。

その理由として、当時(第二次世界大戦時のイギリスとロシアの同盟)によって、オーウェルのロシア大勢批判ネタが封印された可能性が高い。そして、本書を書く具体的な動機なっているようだ。

『動物農場』の優れている部分・ダメな部分

私が読んでみて、優れたと思う部分とダメだと思う部分は以下の通り

優れている部分

  • 共産主義の誕生から腐敗までがわかりやすい
  • スターリンと毛沢東のカリスマ性・時代性がわかる
  • 大衆を洗脳するフレーズ『二足歩行は悪い、四足歩行は正しい』の使い方が秀逸
  • 動物という前提が、非常に効果的に作用している

ダメな部分

  • 共産主義の第二世代(習近平・プーチン)の登場が予期できていない
  • 共産主義と資本主義が共存できることに気がつきながらも避けている

実務力のない理想家から、国を奪った独裁者(スターリン・毛沢東)の未来を予測

1945年当時は、ソビエトの共産主義体制は狂っていたとしても、そこまでではなかったはずだ。だが、オーウェルはこの『動物農場』のように過激な結末を予測して書いた。

現代人が、30年ほど前に一気に崩壊したいわゆる『第一世代の共産主義』を知る資料としては、本書は抜群のわかりやすさを有しているのは間違いないと思う。そこに、高度な予言がミックスされて、非常に読み応えのある物語になっていると思う。

特に、『動物農場』の支配者ナポレオン(オス豚)と裏切り者のスノーボール(オス豚)の扱われ方、つまりは大衆の目の前で圧政者として振る舞うようになっていくナポレオン不在のままで仮想敵としてずっと存在し続けるスノーボールの対比は、今の情報化社会の側面もあり有効だと思った。

ウィキペディアや有識者の評論では『1984』のビックブラザーナポレオンだと考えているものが多いが、私からするとずっと不在のまま驚異的な存在感を示すスノーボールの方が、近いと感じる。

共産主義が資本主義と融合することに気がつきながらも、逃げてしまったオーウェル

本書の中で私が最も抵抗があったのは、最後に動物の代表者であるナポレオン(オス豚)が、人間たちに騙されながらも商売を仕掛けていくシーンである。

当初の人間の扱いは、動物たちをこき使う(馬は労働力、鶏は鶏卵、牛は牛乳など)という扱いだが、ナポレオンは、納屋に山積みになっていた木材の買取や農場の命名権、もしくは法務手続きなどで、さまざまな商売人や弁護士、政治家に近づいていく。

つまり、単なる動物が自身が運営する『動物農場』から、外の人間の世界にコミットするようになる成長の姿を後半では描いているが、そこでの人間サイドのアクションが、そこまで丁寧に作り上げてきた“誰もが共感できる人間の悪性”ではなく、過剰に物語を終わらせる無理な悪質感で溢れている。

つまり、用心深く自然な物語進行をしてきたのに、最後では過剰な演出してしまっているのだ。

もっというと、無意味な騙し合いや、資源の奪い合い、無意味な争いを演出しすぎなのだ。ただ、読む限りにおいて、オーウェル自身は共産主義の第二世代、つまりは資本主義国としのぎを削りながら、経済成長を確保するためにあがく、習近平やプーチンの姿のようなものがある程度わかっていたはずだ。

ただ、それでも本書は共産主義のグルーヴ感を感じるための書籍としてはかなり秀逸である。

Q:どんな人が読むべき書籍か?

A:共産主義の前提を知りたい人。

本作の主要な登場人物は、全て動物なので人間の思考が全くない。それ故に、オーウェルが語ったように、共産主義の理想主義部分を過剰に信じ込むキャラクターたちが自然に描かれる。

ここから共産主義の第一世代がどのような進化を遂げて、退廃してぶっ壊れたまでが実にわかりやすい。共産主義のシンボルとして使われることが多い歌だとかスローガンの使い方も、現代の特に日本のような資本主義社会で生きていると感じる抵抗感がなく、共産主義が台頭した1910〜20年代の時代背景などの情報がなくても、なぜか腑に落ちる。

本書は、ミニマムな話だが、なぜか共産主義の全容を知るのにすごく適している感じがする。

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