冒頭で触れた飯塚幸三は? ただ、団塊の世代が年功序列を守るために犠牲したものへの分析は秀逸『上級国民/下級国民』橘 玲

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著者紹介

橘 玲

早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。経済書籍での脅威のベストセラー出版率を誇る

目次

PART1 「下級国民」の誕生

  • 平成で起きたこと
  • 令和で起きること

PART2 「モテ」と「非モテ」の分断

  • 日本のアンダークラス
  • 「モテ」と「非モテ」の進化論

PART3 世界を揺るがす「上級/下級」の分断

  • リベラル化する世界
  • 「リバタニア」と「ドメスティックス」

エピローグ 知識社会の終わり

本が売れない時代の『橘玲の汚い仕事』

本書は、池袋暴走事件の直後に出版されており、冒頭で飯塚幸三のことについて触れられている。

私は編集者だからわかるが、本書を書いている時点では、
おそらくこの事件は起きていないだろう。

ただ、本が売れない時代。

直近の橘玲氏の出版物を見ても、長らくヒットが出ていないようだ。
そこで、おそらく編集者がこのようなタイトルと、冒頭に飯塚幸三について書いて欲しいと提案したのだろう。そうすれば、宣伝費も多く出せるし、部数も自然に伸びると。

ただ、彼ほどの大物になってくると、大体このようなセコイ申し出は断るものだ。

だが、彼はおそらくこのような汚い仕事ほど燃える人物なのだと思う。業界でもわかる人はわかるが、このような仕事を受けてくれる作家は、出版社の編集者(企画権を握る副編集長に当たる人物は特に)は、とてもありがたく思うのである。

そして、当然の如く、最後まで飯塚幸三については触れることはなかった。

小泉純一郎がアメリカ民主党の手先だと見抜く

今でも小泉純一郎が何者かをよくわかっていない人は多いと思う。それは著名な評論家や学者を含めそうである。しかしながら、本書では彼の役割がきっちり書かれている。

小泉純一郎は、アメリカ民主党の力で動き、郵便貯金を破壊するなど、日本の資産をアメリカに貢ぐ道筋を整備した。ここまでは、わかる人はわかるだろう。

だが、彼は逆のこともした。

彼は、日本の守るべきものを守ったのだ。
それは何かというと、団塊の世代と、年功序列の社会体制である。

本書では、Part 1の『平成で起きたこと』『令和で起きること』で、さまざまな数値を丁寧に引用して、この小泉改革の内容を分析している。私も、あまり賢いほうではないので、ここで、あ、しまった、あのクソ小泉がこういうことをしていたのか、と思った。

汚いクソ仕事をする橘氏だが、本書はちゃんと読めばかなりすごい本だ。Amazonのバカの書いたレビューに騙されてはいけない。今回に限っては、騙しはあるもの、彼はいい仕事をしている。

具体的にどのようなことを解説しているかというと、男性の労働内訳での非正規社員の増減の動きと、女性の労働内訳での非正規社員・無職の動きの分析。また、高年齢引きこもりや、若年層ニートの公表されている数字の集積と分析である。

そして、著者は恐ろしいことを定義づけている。

なんと、小泉純一郎の登場によって、ほんのわずかな女性の社会進出とともに、日本人は、壮年の大卒の男が仕事を放棄したり、サボってしまう国になってしまったのだ。

この真実を知って、私は腰を抜かしそうになった。そう言われればそうなのだが、こうまでエビデンスを出されてはっきり言われてしまうと、悲しさは倍増する。

団塊の世代が生み出した「少子化」

なぜ、日本人は働かなくなったのか?

それも本書でしっかりと書かれている。それは、彼らが不況の真っ只中で、給料と年金を守り切るために、若者の門戸を極限に絞り込みつつ、バカみたいな過剰で不条理な仕事の押し付けをやって、ボロボロにすることで、子供産めない思考と体と年収にしたのだ。

それによって、生まれてしまったのが上層国民/下層国民の、貧富の差なんてものではない、恐ろしく過激な世代間の格差である。

しかし、格差を生み出した「知識社会が終わる」

PART3 世界を揺るがす「上級/下級」の分断 では、主にアメリカやヨーロッパ、イスラム圏の例を紐解きながら、徐々に「知識社会」が崩れる様子を語っている。

「知識社会」というのは、高学歴やエリートが、民衆やマスメディアを牛耳る社会のことで、それがあったから今まで飯塚幸三のような事件は、表に出ることはなかったのだ。それが、トランプ旋風などの大きな白人社会のムーブメントによって、崩れてきている現状を著者は伝えてくれる。

英語が堪能で、世界の政治にも詳しい著者のような作家でなければ、このような潮流を書籍化することは到底出来ないだろう。

イーロン・マスクやピーター・ティールなどの『サイバーリバタリアン』についても詳しく触れており、これは最新情報だ

本書のエピローグ『知識社会の終わり』が、実は一番、読み応えがあり、重要な箇所だ。出版から2年ほど経っているが、それでもここの部分は今でも最新の知識に近いと思う。

結局、本書を読んでわかったのだが、トランプ政権とバイデン政権は、やっていることは大きくは変わらないのがわかる。現にイーロン・マスクとピーター・ティールというペイパルマフィアは、トランプ政権時代に台頭して、バイデン政権でも変わらず、力の範囲を拡大している。

2021年は団塊世代が、完全に引退する記念の年

2021年が実は記念すべき年であると言うのも、私は初めて知った。この東京オリンピックが開かれる年は、団塊の世代が完全に引退し、労働市場からも政治業界からも影響力を無くす、年齢の限界の年だと言うことだ。

だとすると、本書で語られる、社会制度にフタをし続けてきた、そのフタ(団塊の世代)なくなる今年、著者の言うように大きな社会制度の変革が初めてしやすい時期に突入するということになる

この著者の予言がどう転ぶのか、少し楽しみになる、ポジティブな終わり方だった。

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