創業者が、出資者にCEOの座を奪われるまでを描いた力作。スタートアップ必読書『不可能を可能にせよ!NETFLIX 成功の流儀』 マーク・ランドルフ

オーディオブック

著者紹介

 マーク・ランドルフ(1958〜)

ネットフィリックス初代CEOで創業者。数多くの企業、スタートアップを手がけ、そのキャリアは40年以上。ネットフィリックスを創業し、1億5000万人のサブスクリプションサービスに成長させたのちに、2003年に同社を退き、設立時出資者であった、リード・ヘイスティングスにCEOのポジションを譲渡。現在は、全米のスタートアップメンターとして活動。

本書を読むべき人

  • スタートアップのCEOや幹部
  • 衰退産業に従事する経営者
  • 二代目以降の経営者
  • エンターテイメント従事者
  • 映画監督・プロデューサー・キャスト

目次

  • 第1章 ひらめきなんか信じるな 
  • 第2章 「絶対うまくいかないわ」
  • 第3章 人生一番のリスクはリスクをとらないこと
  • 第4章 型破りな仲間を集める
  • 第5章 どうやって資金調達をするか
  • 第6章 いよいよ会社が立ち上がる
  • 第7章 こうして社名は決まった
  • 第8章 準備完了
  • 第9章 ある日のオフィス
  • 第10章 ハルシオン・デイズ
  • 第11章 ビル・クリントンにちょっと一言
  • 第12章 「君を信頼できなくなっている」
  • 第13章 山を越えて
  • 第14章 先のことは誰にもわからない
  • 第15章 成功の中で溺れる
  • 第16章 激突
  • 第17章 緊縮策
  • 第18章 株式公開
  • エピローグ ランドルフ家の成功訓

出資者の強さ・アメリカ社会の残酷さ

本書は、実に穏やかに描かれているが、95%出資者であるリード・ヘイスティングスに地位を奪われ、退社を余儀なくされるランドルフの悲惨な人生の物語である。

この辺が、アメリカが自由の国だと言われる所以だと思うが、流石になかなかシビアすぎると思った。だが、これはスタートアップなら日本人でも感じることだろう。

文章が笑える、変わった回顧録

ネットフィリックスが1997年にオンラインDVDレンタルサービスを立ち上げてから2003年に著者がCEOを退くまでの6年間をメインに描かれている。

とにかく、文章が終始笑える。

特に面白かったのは、伸び悩む1998年に行ったクリントンキャンペーンのくだりである。

クリントンキャンペーンとは何かというと、クリントン大統領がモニカルインスキーとの不倫で揉めに揉めたセ◯クススキャンダルの公判の動画を、送料のみで無料で全国にDVDを配布するという、とんでもないキャンペーンである。ランドルフの思いつきで、生み出されたこのキャンペーンは、妙な社員たちのやる気を引き起こし、結果的に、同社の知名度を全米に知らしめる。

映画配信がゴール。資金づくりとしてのDVDレンタル事業

ランドルフは、妻や出資予定者で現在CEOのリードと、週末に集まってホワイトボードに起業案を書きまくるというランチミーティングを行っていた。

その中で、当初出た案は現在のネットフィリックスである、映画のオンライン配信会社であった。だが、当時のインターネットインフラではそれは不可能だった。

その代わりの案として、一段階ダウングレードしたオンラインDVDレンタルであった。

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アメリカはDVDの流通を拒否していた

1990年代すでに登場していたDVDのメイン企業はソニーと東芝であった。

つまり、DVD技術はアメリカが発案したものではないのだ。

そのため、アメリカは全体的にVHS(ビデオテープ)への執着があり、レンタルサービスも近年までVHSにこだわっていた。日本よりも遅れていたのだ。

そんなアメリカでも1996年にDVDが上陸することとなった。

DVDは、VHSよりも薄くて軽量でショックに強く、郵送に向いている。そこにランドルフが目をつけ、このサービスでの起業が決定した。

既存の産業を敵に回す、という企業

本書の前半部分で、起業に関しての記述がある。
本書を読んで一番ためになるのはこの部分だと感じた。

まだ800作品しか流通していなかったDVDの市場をベースに、既存の映画館やビデオレンタルショップ(本書では主にブロックバスター社:2013年に倒産)と戦うことを前提に、ネットフィリックスの企業が設計されていたという事実である。

通常、企業というのは狙うべき市場というのが読めないということ多いが、ネットフィリックスの場合は、奪い取るべき市場、先行きや映画制作に参入する未来像までが、創業時に読めていた。

既存企業を敵に回す、この手のスタートアップは、かなりスムーズに行く。

それでも、トラブルばかり起きる日常と、揚げ足取りばかりが登場するようなアメリカ社会の困難さが描かれている。また、過酷な労働環境で、役割がなくなった人間は躊躇なく切り捨てられる表現が、ランドルフの独特の視点を持って、ユーモアに描かれている。

企業提携の難しさと倒産危機、レイオフ描写

後半につれて、CEOだったランドルフの足元がぐらついてくるのがわかる。

創業2年しかたっていない1998年ごろからアマゾンやブロックバスター社との駆け引きが始まる。業務が帰路に立ち、もはやアイディアだけでは生き残れないことを悟っているのだ。

そんな中で、ブロックバスター社との提携が失敗すると、ネットフィリックスは深刻な資金ショート問題に見回われる。この辺が、日本のスタートアップで悩む人たちにとっては最大の見どころだと思う。レイオフや、企業形態の切り捨てなどが進む。

その工程で、とうとうランドルフも用済みになってしまう。

このようなある種の正直さをもった書籍は、とても珍しいというのが私の感想だ。共同経営者が時々繰り広げる、側から見たらわからない対立関係が、堂々と描かれている。

なかなか、読み応えのある書籍だったと思う。

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