名著のフリをした“訳あり”の要注意の書。本田圭佑で流行。ローマンカトリックの過激な思想布教に作った『自助論』サミュエル・スマイルズ

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著者紹介

サミュエル・スマイルズ(1812年 – 1904年)

当初エディンバラで医者を開業したが、後に著述に専念するようになった。1859年にジョン・マレー社から出版した『Self-Help』は、1866年江戸幕府留学生取締役として英国に留学した中村正直が、1867年発行の増訂版をもって1871年『西国立志編』として邦訳し、日本で出版した。その思想は近代日本の形成に大きな影響を与えたと言われている。1918年王立協会フェロー選出。

とウィキペディアにはあるが、、、、

実は、キリスト教徒の間ではスマイルズ牧師(カトリック・イエズス会)としても有名だ。なぜか、日本語のプロフィールでは彼の宗教上のバックボーンを隠している

参照リンク:『敬天愛人』のルーツ 中村正直

自助論の最初の翻訳者はこの中村正直(洗礼名・ジョン カトリック教徒)である。

目次

  • 1章 自助の精神――人生は“自分の手”でしか開けない!
  • 2章 忍耐――努力が苦でなくなる法
  • 3章 好機は二度ない――人生の転機を生かす力
  • 4章 仕事――向上意欲の前にカベはない!
  • 5章 意志と活力――自分の使命に燃えて生きる!
  • 6章 時間の知恵――「実務能力」のない人に成功はない
  • 7章 金の知恵――楽をするためには汗をかけ!
  • 8章 自己修養――頭脳と心・体の効率のよい鍛えかた
  • 9章 すばらしい出会い――人生の師・人生の友・人生の書
  • 10章 信頼される人――人格は一生通用する最高の宝だ!

概要

宗教と関係ない偉人を例に出し、不況に強引に結びつける

天は自ら助くる者を助く というあからさまな聖書の引用から始まる。

本書では、努力と謙虚さで世界的に有名なったとする偉人たちを列挙して、その行いの影にあるとされる宗教的な正しさを協調的に記述。誰しもが、キリスト教(カトリック)の思想さえ守れば成功すると言うような感覚で書かれている。だが、偉人たちがカトリック教とかどうかは不明だ。

一方的な富の否定。ちょっとでも金銭に触れると、たちまち地獄行き

また、富と名声を否定することが偉人への道だと説く。どう考えても、ここで登場する偉人たちは、富と名声がなければ努力をしなかっただろうし、そもそも名前を遠くにとどろかせるためには富が必要だという前提を無視している。この時代は、クチコミでは無理だ。

だが、貧乏人の親の視点で考えると好都合

ただ、人間の経験則を持たない青少年に向けられている書籍でもあり、わかりやすい。

本書を読むことで、過ちの多い人間にならないし、不良にもなる確率は減るだろう。宗教は初等教育に効果が高いと言うのが、本当にわかりやすい書籍だと思う。そういう面では良書だ。

Q:なぜ悪書だと?

A:人間の本質を推し隠し、カトリックの原罪の思想につなげる記述で貫徹されているから。

努力をしない人間は悪で、地獄に落ちる、という思想が本書の背景にはある。

努力をしなければ、豊かになれないとか、お金持ちにならないとか、名誉を得られないと書くならまだいい。それなら納得がいく。が、それ以上の記述が目立つ。

さらに言わせてもらうと、本書ではカトリック寄りの偉人を巧妙に良い印象の残すように記述し、それ以外の人物は悪く書く傾向がある。

コペルニクスダーウィンは、もう既に登場しており名声を獲得得しているのに完全無視。また、反カトリック志向のあった、ミケランジェロ、モーツァルト、ナポレオンに至っては、良くない印象を抱かせる書き方をしている(ナポレオンに関しては地獄行き扱い)。

第4章以降では、イエズス会の宣教師ザビエル(過激な布教活動をした)ローマ法王を、かなり礼賛して記述し、この辺から偉人の多面性をすっ飛ばした都合の良い記述も増え、何よりも倫理面でカトリック寄りになっていく。

私自身は、別に反キリスト教ではなく、むしろキリスト教系の学校の出身であり、近親者にはカトリックの洗礼を受けたものもいるためこういう記述はしたくはないが、本書は、概ね非キリスト教圏でのカトリック教の布教のために書かれた書籍の可能性が高いと感じる。

自己啓発書として読むには、あまりにも内容が浅く、趣旨・主張にご都合主義が多く、全体的におかしなことになっている。だが、このほんの少しの自己啓発感があるため、宗教書ではなく、世界初の自己啓発書としての流通ができてしまうのが、本書のビジネス性を高めている。

Q:このような“訳あり”名著ビジネスに気づくには?

A:本書は、サッカー元日本代表の本田圭佑が読んだ、という触れ込みで数年前にリバイバルヒットをした。名著の版権を抱えている出版社や編集者は、こういう記事を常にエゴサーチしており見逃すことはない。おそらく本田自身はこの書籍の背景をよく知らないと思う。

そもそも、版権切れの古書を扱う権威名著ビジネスは、有名人が読んだ、とか、著名人が師と慕う、的な触れ込みで現代での流通を狙うビジネスで、大体そういう宣伝をする書籍は、今という時代に合わないし、驚くほど中身がなくてめんくらうケースが多い。

私も実はこのようなビジネスをする出版社に長く所属したことがあるのでわかる。その時のことを、以下のベンジャミン・グレアムの『賢明なる投資家』の書評で書いている。

ただ、この手は読むまではなかなか気がつかない。

宗教のことに詳しくなっておくしかないが、それは一般人には難しいと思う。

関連記事:『賢明なる投資家』ベンジャミン・グレアムは、本当に今でも読む価値があるのか? 権威古書本ビジネスを暴露しつつ、注意深く読む

Q:いいところはないのか?

A:ある。

最初にも書いたが、カトリック教は初等教育には最適で、子供が努力をするようになるし、洗礼を受けたりまですれば、生涯に渡ってグレない。

その、裏目として、カトリック教の牧師が少◯愛やロリ◯ンに走るという副作用は存在する。だが、私はこのキリスト教の確立した初等教育の強さは、認めている。

そういう意味では利用してもいいかもしれない。だが、大人になってからのバックラッシュ(揺り戻し)等を、親は気にしておいた方がいい。

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