団塊世代を襲う新型詐欺・原野商法(第二次:原野商法)。見抜くのが不可能なステルス事務手数料詐欺も暴く『正直不動産(14)』

オーディオブック

扱われているトピック

  • 原野商法
  • 住宅ローン事務手数料
  • 物上げ
  • 家賃滞納
  • 更新料

著者情報

夏原武(漫画原作者 1959〜)

19歳の時に桜美林大学文学部中国文学科を1年生の途中で中退し、東京の下町にある的屋系の暴力団に加入して約10年間ノミ屋、債権回収、地上げなどを行う。

バブル経済時代の月収は600万円から700万円。のちにビデオ専門雑誌編集者を経てフリーライターとなり、裏社会やアウトローに関した題材を得意として『別冊宝島』などで執筆した。
2003年から『週刊ヤングサンデー』で、詐欺を主題とする漫画『クロサギ』の原案を担当。2007年に小学館漫画賞一般向け部門を受賞。詐欺や闇ビジネスに関する単著も多く執筆している。

大谷アキラ(1982〜)
日本の漫画家。山梨県出身。2004年、22歳の時にまんがカレッジ入選。以後、週間少年サンデーやビックコミックを中心に、作品を発表している。『LOST+BRAIN』『ツール!』『機動戦士ガンダム FAR EAST JAPAN』『ニッペン!』『正直不動産』。

付録(1):ドラマ化スペシャル対談

山下智久(主演)・夏原武(原案)・大谷アキラ(作画)・水野光博(脚本)による対談

本巻の目玉は、なんと言っても正直不動産のテレビドラマ化に関する付録だろう。

私は、元不動産ブローカーだったため、このマンガが発刊された当初からずっと注目してきており、その中でどうやってもこの内容をドラマで大々的に放映することは無理だろう、と思ってきた。

そこを実現してしまったのは、小学館もすごいが、逆にいうとそれだけ不動産業界の腐敗が民衆を襲っていることを意味するわけで、ある意味怖い。

また、ジャニーズの山下智久が、夏原武原案の『クロサギ』に続いて、このかなり厳しい不動産漫画『正直不動産』の実写化に選ばれているのも面白いと思った。

付録(2):原作者の夏原武によるスペシャルエッセイ

今回も例のごとく、内容がマンガだけでスッキリ解説しきれないために、原作者の付録がついている。リバースモーゲージ同様に団塊世代の老人を狙った原野商法もそうだが、このエッセイで語られる住宅ローン事務手数料への言及は興味深い(その闇も深い)。

ブログ主の勝手なまとめ

原野商法について

不動産バブルに沸いた1980年ごろに、日本のど田舎の土地を“値上がり目的”で、不動産屋に買わされてずっと塩漬けにしている団塊世代から上の老人が日本に膨大にいる、ということが最近話題になった。原野商法とは、そんな彼らを狙った詐欺商法である。

もっというと、ネオ原野商法というべき、帰ってきた第二次原野商法詐欺である。

この問題を最初に取り扱ったのは、私の記憶では楽待チャンネルだったと思う。

本書では、その辺のことが触れられておらず、わかりにくい。

この点は巻末のエッセイと合わせて読む必要がある。というか、この複雑さが、ご老人たちが膨大に騙されていく要因ともなっているようだ。身内に、第一次原野商法の犠牲者がいる場合は、本書『正直不動産(14)』を買って送ってあげるのもいいかもしれない。

第二次原野商法の犠牲者は、当然のごとく第一次原野商法犠牲者だからだ。

多くの住宅購入者がはめられている。住宅ローン手数料など契約時の「ステルス利乗せ」

今回の『正直不動産(14)』で、最も業界のタブー的な要素が高いのは『住宅ローン事務手数料』を取り扱った話題である。これは実に多くの住宅購入者がはめられている。

住宅ローン事務手数料は、本来、銀行側が請求する項目であり、実際は銀行サイドの事務手数料に内包されているために無料だ。だが、これを実は不動産業者が設定することができる。

設定して、3%とかで20〜50万円程度上乗せして、あとは銀行に口裏合わせを後日するだけで、予定外の売り上げ収益を上げることができる。これは、大手の不動産業者でかなり行われている行為である。

これから住宅を購入する可能性のある人は、必読のトピックだと思う。

2018年以降、家賃滞納で暴力行為が使えなくなりつつある

また『正直不動産(14)』では、2018年に業界団体が家賃滞納者に、慢性的に実施していた暴力行為(強制退去を促す行為)を自主規制する事件が起き、徐々に暴力行為が減っていた過去を取り扱うエピソードを掲載した。

だが、こちらはあくまで“自主規制”だったため、近年復活しつつあるという話も聞く。そこで、マンガで大々的に取り扱い、社会的な反応を再度促そうとしたトピックだろう。

その理由は、2020年以降の土地バブルの再来ではないかと推察する。現在、都内ではものすごいスピードで、土地の地上げが進んでおり、その陰で暴力行為の復活の気配があるのかもしれない。

ドラマ化によって “社会的な意義” を強く意識するマンガに変貌中

これは『正直不動産(12)』ぐらいから感じていることだが、本作品はだいぶ社会的な意義を意識するストーリー選びと展開になってきている。

その中心として、Z世代の新人類的キャラの十影亮介(ドラマ版は財前優太郎が演じる)が、既にドラマ版にのっけから登場しているところに現れている。

『正直不動産(14)』の中心キャラクターはこの十影亮介がメインである。十影亮介はちなみに、どんな時でも、喧嘩やトラブルの真っ最中でも定時の18時に帰宅してしまう。

この十影亮介が、実は『正直不動産』で、倫理的な思考のキーパーソンであるのだ。通常の不動産業者が思わない倫理的な疑問を、彼が頻繁に提示する。その生い立ちが貧民と富裕層の両面を持っているという特殊な設定も関係しており、結構魅力的なキャラクターだ。

Q:どんな人が読むべきか?

A:今回に関しては、団塊世代以降の老人が読むべき内容だと思う。

原野商法に騙されている老人は、家族にそれを秘密にしている場合がほとんど

本書を読むと、原野商法にはまって大損をこいている老人が日本中にいることもわかると同時に、そのような老人たちのほとんどが、原野商法詐欺に騙されている自分を隠していることもわかる。

『正直不動産』が大衆マンガへと変貌する際には、このような“隠れたニーズの掘り起こし”と“社会問題と親和性を持つ”ことが必須であり、その第一弾がリバースモーゲージで、第二弾はこの原野商法だと言える。この両者は騙された本人たちが、表面化しにくいところに問題がある。

『正直不動産』はそんなことに気が付かせてくれる数少ない機会だと思う。

それとなく、本書を読む機会があるだけで、人によっては大きな意味があると思う。

また、周囲の人間が本書を読むことで、騙された身内を判別することにもつながると思う。

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