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著者情報
角田 光代(かくた みつよ、1967年3月8日 – )は、日本の小説家、児童文学作家、翻訳家。
神奈川県横浜市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。大学では学生劇団「てあとろ50’」に所属。大学在学中の1988年、彩河杏名義で書いた「お子様ランチ・ロックソース」で上期コバルト・ノベル大賞受賞。
大学を卒業して1年後の1990年、「幸福な遊戯」で第9回海燕新人文学賞を受賞し、角田光代としてデビュー。1996年に『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を受賞したほか、数度芥川賞の候補に挙がった。2005年、『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞受賞。
私生活では、2006年に芥川賞作家の伊藤たかみとの結婚が発表されていたが、2008年に一部雑誌で離婚が報じられる。2009年10月、ロックバンドGOING UNDER GROUNDのオフィシャルウェブサイトでドラマーの河野丈洋との再婚。子供はいない(今回の小説のテーマに関係している)。
追加プロフィール
一般的に角田光代氏の小説は、映像化がしやすいと言われている。本書『坂の途中の家』もWOWOWで柴咲コウ主演でドラマシリーズ化がされており、監督は『おじいちゃん死んじゃったって』の森ガキ侑大監督である。
その他の映画化作品は以下の通り。テレビなどの映像作品も多数ある。
- 空中庭園(2005年・監督:豊田利晃、主演:小泉今日子)
- 真昼の花(2005年・監督:秋原正俊、主演:森下千里)
- Presents〜合い鍵〜(2006年・監督:日向朝子、主演:広末涼子)
- Presents〜うに煎餅〜(2007年・監督:石井貴英、主演:戸田恵梨香)
- 八日目の蝉(2011年・監督:成島出、主演:井上真央)
- 紙の月(2014年・監督:吉田大八、主演:宮沢りえ)
- 月と雷(2017年・監督:安藤尋、主演:初音映莉子・高良健吾)
- 愛がなんだ(2019年・監督:今泉力哉、主演:岸井ゆきの)
内容説明(出版社の文章)
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子(2歳児の母親)は、赤ん坊を殺した母親をめぐる証言にふれるうち、彼女の境遇に自らを重ねていくのだった―。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの光と闇に迫る、感情移入度100パーセントの心理サスペンス。
概要と感想(ブログ主の勝手な)
取材力が生きている作品ではある
あまり何も考えずにこの本を手に取ったが、まさかイヤイヤ期の詳細な話とか、子育ての重要情報がこれほどまでに書かれている書籍だとは予想していなかった。
二人の幼子の母親(主人公と被告人)の心理描写に関しても、秀逸であり、角田光代氏の得意な展開に後半にいくにつれ引き寄せられていく感じがある。
角田光代=男社会を非難する小説家
そんなにたくさん読んではいないが、私の角田光代の評価は結構定まっている。
それは何かというと、角田光代の小説は、男性社会の見えない壁を描くことに終始し、そこで苦しむ女性が主人公であることが多い。ときには、この作家は、男性社会に慣れきってしまった閉経後の女性、つまり、女として戦う必要のない(ニーズのない)同性をも攻撃する。
本作でも、同じ裁判員である老婆が、主人公の意見を打ちのめし、主人公の心をぐらつかせて捻じ曲げてしまう存在として描かれる。
『坂の途中の家』の残念なところについて
本書はえてしてクオリティが高く、彼女の読者にも好評の作品だ。だが、やはり彼女には子供がおらず、子育てをした経験がないせいで、想像表現だけが先行した部分も多いと感じる。
だが、それでも本書を読んだ読者の中の女性は「女性の権利を守る:作家・角田光代」を増長するべく、懸命にアマゾンなどのレビューで高得点をつけるのだろう。アマゾンレビューを見る限り、はっきりと悪いレビューは男性、良いレビューが女性だという評価に分かれているのがわかる。
また女性の中でも子育て未経験の女性と経験者の女性で、評価が分かれる。


“子育てへの恐怖” を “妄想”した 『子なし妻の本』
ひとまず私が感じた本書の甘さを箇条書きする
- 娘のイヤイヤ期を、父親・祖母が把握していないのはおかしい(ふつう身構えている)
- 世田谷一軒家の住宅ローンを抱えて片働きという前提が雑※
- 共働きは普通になったという時代性が反映されていない
- 上記を含む生活費の金銭要素など、子育ての経済試算をしない面が多々ある
- 保育園・幼稚園の違いがあまりわかっていない(保育時間だけではない)
- 少なすぎる要素で、裁判員が容疑者をバブリー女だとジャッジする
- 同じ内容をずっと繰り返し描写し続ける
※世田谷区の最安エリア千歳烏山でも2015年当時は新築戸建は最低6000万円。金利・手数料を含めると35年ローンで7200万ほど。月々の返済額は16万円+固定資産税50万円前後。年収1000万円と想定しても40万円前後だ。だが、容疑者の夫は年収は低いという設定。しかし、こういう細かい確認をしなくても、一般人(子育て世帯)は肌感覚でこの設定のおかしさがわかる。
著者の人間描写の力量がよく出ている作品
日本社会というのは、確かに男性社会で、女性は他の国よりも虐げられている面が強く、立ち振る舞いに制限がある。これは物語を作る多くの人間が実感している。
例えば、モテる女の表現は男よりも実は難しい。高学歴とか仕事ができるという男性で使える外的特性を組み込みにくく、逆に「容姿の弱点の無さ」は絶対的に求められる。
角田氏の本を読むとわかるが、彼女は日本がいかに男性社会であるかを、読者(男女両方)に気が付かせてあげようと腐心するタイプの作家だとわかる。本書もそういう作品だ。
そのため、反証や深掘りなどを想定した入念な文章になる。角田光代という作家の特徴はここにあり、彼女は美しい文章表現よりも「納得度」にフォーカスを合わせている作家だ。
だが、本書は「子殺し」「育児放棄」というテーマがあるが故にボロが出続ける
一般人の子育て夫婦であれば、経済性を軸に設定がおかしいのがわかるのだ。
子育て親の「経済観」がわからなかったのが、最大のポイント
角田氏の文章とは、いつの時代も読み手の感情に寄り添う形で発展してきた。その点は本当にリスペクトしている。だが、彼女も日本の小説家に多い、経済性へのリサーチ力の無さがある。
あと5〜10%金銭へのこだわった描写があれば、と読み終えて思った。
被告人の女性を裁判員たちが、経済的にだらしないと評価するには、情報が少なすぎる。それだけではなく、ずっと破綻し続けている。あれ、おかしいという違和感が連発する。
子育て経験者の目には、お金の問題は無視できない
経済整合性は、時として感情よりも全然強い。いいテーマを選んだだけに、とても惜しいと思った。とはいえ、世間の評価はそんなに駄作としてではないので、まあいいのかもしれない。
Q:どんな人が読むべきか?
角田光代のファン以外では、乳幼児や小さな子供がいる男性だろう。
やはり、娘と母親のイヤイヤ期に関してのやりとりは秀逸だと思う。ボロがあるとはいえ、子育て環境での祖母の邪魔さもリアルだ。人間関係の描写は素晴らしい。
男性は、人間関係に関しては明確な答えを用意する傾向があるが、女性は子育てや経済的な自立が簡単ではないため、人間関係の面で白黒つけず保留して生活することが求められる傾向がある。
この苦しみが、祖母との間で特に厳しいというのは有名だ。俗にいう、嫁姑問題だ。
この本も、ある意味「嫁姑問題がメインテーマ」だといえる。そして、男性は、常に「嫁姑問題」を、後付けで勉強しなければいけないので、こういう本は役に立つ。
また、娘と母親の仲違いの件もこの流れに似ている。1〜2歳だからといって、バカにしてはいけない。娘のイヤイヤ期というのは、えてして、実の娘との「嫁姑問題」ともいえるからだ。
この辺の描写は、私も非常に参考になった。
Q:経済整合性をミスらないために何をすべきだったのか?
A:容疑者の夫を、もう少し上流階級の人間にすればよかったと思う。それで、ある程度お金の話題から逃げるべきだった。もしくは、収入をイメージできてしまう要素を減らす。職業や業務形態、住宅ローンの情報、援助・仕送りの金額などを、もう少し上手く調整すればよかったのだと思う。
ただ、女性作家に、経済性のリアルさを破綻なく描くことは酷だとも思う。
例えば、友人や知人が、金銭ランキングでバラつきにくい。例えば、日本の黄金持ち層が集まる青年会議所などには、女性はほとんどいない。
また、女性経営者も増えたが、それでも割合的には、ほぼいないに等しい。
逆に金銭にだらしない方向に対してもこれはいえる。例えば男性の浮浪者のように、女性の浮浪者は少なく、表面化しない。貧乏への耐久性も男性ほど激しくない。
こういったことを取材で克服できても、肌感覚で金銭のハイ&ローを実感でわかるのは難しいし、そもそも経済性を正確に描くことが、女性作家には求められない場合がほとんどだ。
主人公に関しても、ナニワの金融道的なものを、美少女でやるのはニーズがない。女性に生まれただけで、経済に関する敷居が一気に上がるのが日本なんだと思う。
だから、まあ、これはこれでしょうがなかった、とも思っている。
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