学歴主義が前提だが、子育ての基本を学べる。網羅性が高く、使い勝手に優れた本『世界標準の子育て』船津徹

オーディオブック

著者紹介

TLCフォニックスオンラインより引用

船津徹

1966年福岡県生まれ。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、故七田眞氏に師事(七田式の創業者)、幼児英語教材の制作に従事する。その後独立し、米ハワイ州に移住。

2001年ホノルルにTLC for Kidsを設立。歌と映像を組み合わせたオリジナルのフォニックスプログラムを開発。同フォニックスプログラムは全米25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。同校の卒業生はハーバード大学、イエール大学、ブラウン大学、ペンシルバニア大学など、世界最難関のアイビーリーグを始め、世界各国のトップ大学へ進学し、グローバルに活躍している。

1990年代後半より日本でもTCLフォニックスを開講し、独自の英語習熟プログラムを導入した教育を実践している。ただし、検索する限り、まだまだ評価が少なく実態がよくわからない。

概要(ブログ主のまとめ)

私は少しだけ、初等教育の出版をかじったことがある。

児童教育分野はえてして、つぶしあいが激しく、自分たちの書籍では丁寧で優しい言葉に徹するのに、相手の追い落としが半端ない。特に英語教育や受験に関する幼児教育の世界はひどい。

みなさんが思う以上に汚い業界である。そのため、アマゾンや各種幼稚園、保育園のスクールレビューサイトも、上げ下げ合戦になりやすい。良書や確かな情報を本当に見つけにくい。

アマゾンの初等教育本のレビューなどサクラレビューアプリを使用するとすぐにわかるが、サクラによって荒らされているケースが多い。この結果から、予想できるのは、実際の保育園・幼稚園サイトではもっと壮絶に同業者同士で荒らしあっているだろうということだ。

著者は、悪名高い七田式で、初等教育ビジネスを取得しているが……

本書の著者は、プロフィールにある通り、あのあまりいい噂を聞かないことで有名な七田式の教えを乞うている。七田式は、今は脳科学で間違いだとされている“右脳”“左脳”教育の走りだ。

現在、この右脳と左脳の機能の違いは誤りであり、例えば右脳だけになっても左脳と右脳の両方の機能を果たすことが知られている。つまり、単なる役割分担で、それの分野はいつも常に入れ替わっている。右左と分けられるような一定型ではないのだ。

右脳は文系、左脳は芸術家みたいなことを言ってきたが、これは完全な間違いだ。

とはいえ、本書を書いた船津氏は、私の印象ではあくまでビジネスとしての七田式の肩書きを利用しているに過ぎないように見える。日本ではまだこの七田式を念頭に考える人が少なくないからだ。

初等教育の概要

初等教育方法の分野では、以下の教育法が著名だ。

◯シュタイナー教育(ドイツ・オーストリア)
◯モンテッソーリ(イタリア)
◯レッジョエミリア(イタリア)
◯フレーベル(ドイツ)
◯七田式(日本)

その他もろもろ……。もっとたくさんある。

そして、ググってみるとわかるが、全ての教育が、自分たちが最先端で驚異的な結果を残していると称している(ほぼ自称)。そして、思い思いに自分たちが育てた(かもしれない)これでもかというように有名人のリスト(〇〇は〇〇式で育った的な)を羅列している。

特に、学者や有識者よりもなぜか芸能人がこれらの広告塔になる場合が多い。芸能人は、能力というよりも容姿や周辺環境(家系)などの影響が強く、普通に考えたら初等教育の効果があまり出やすい業界ではない。むしろ経営者や学者は自分達の初等教育を語ろうとしない。

一体何を基準にすればいいか? 基準などあるのか? 

そんな中で、その謎の多いスイートスポット目掛けて制作されたのが、この本ではないかというのが私の推測だ。自分の子供にベストな教育を施そうとして、子どもが2〜3歳くらいになる前後に、親たちはこの手の情報を貪って、疲弊する(私を含めて)。要は、何を基準にしたらいいのかわからない。

この本はそもそもグローバル(本当かどうか確認できない)の影響を受けすぎてぐちゃぐちゃになって、訳のわからない日本流に落ち着きつつあるヘンテコな日本の初等教育に、地味に網羅性の高い世界の初等教育の最小限の知識をまとめた書籍、と言える。

私としては、頭にある情報が整理されたという点で、とてもお買い得な本だと思った。

学歴至上主義が前提

ただ、本書は大きなデメリットも抱えている。

大学を行かない自由、受験を拒否する自由を一部で唱えてはいるものの、基本的には受験・学歴が親が子供にしてやれる最大の資産形成だという思想が、第一にあるからだ。

ここを、よく検討してから買うのでもいいかもしれない。

Q:どういう人が読むべきか?

A:現代の、特にネット・クラウド時代以降の0歳〜18歳までの教育の全体像について、うまく書かれた書籍は今、極端に少ない。3〜5年前の教育系の書籍でさえ、今、マジで役に立たない。

これは価値観が変わった、という生やさしいものではない。この辺を知りたくてうずうずしているのに、誰もきちんと答えてくれる有識者がいなくて迷っている親は実に多い。

私が読んだ子育て本でも子どもがいないひろゆきの本くらいしか、まともにこの点に答えた本はなかった。だが、やや捻くれているし、何よりも彼は子育て経験がないので、どのくらい実感をもって書いた本なのか、あまりよくわからない(でも役に立つといえば役に立つだろうが)

とにかく、最近は人類の寿命の伸張に反比例して、物事の進み具合がこの10年で軽く20倍くらいになっている。初等教育もその波を当然もろに受けている。特に、クラウド・AIが登場してからのものは段違いだ。だから、この辺を想定して真剣に考えている教育者の存在は貴重だと思う。

その点で、本書の船津氏の書いている内容は非常に貴重な体験談だといえる。ということで、本書はある程度のエビデンスを元に、具体的なクラウド・AI時代の子育てのアクションが描かれている。

例えば、

  • ネットは親の目の届く、居間(リビングルーム)でしかしない
  • スマホは、掲示板や有害サイトが閲覧できないタイプのものにする
  • デジタル機器を使用しない日を家族で作る
  • 五感のフラット化に気をつける(積み木などの遊具をなるべく使用する)

などだが、しかしこれらは全てアメリカの家庭でのエビデンスによって作られたものだ。とはいえ、そもそも現在、一般的に流通しているエビデンスは、アメリカのもの以外情報がないのも事実

日本のエビデンスを集めるには年数もかかるし、子供の人数も必要だし、おそらく文化庁はそんなことをする時間も予算もないだろうからどうなるか分からない。

その点で、この著者の見識に頼るしかない、というのが本音だ。そういうことを心配している人は是非本書を読んでみるといい。

Q:デメリットはあるか?

A:ある。非常に見過ごせないデメリットがある。それはやはり大学受験が前提であるということだ。

一見、自由主義に見えるが、あくまでも高等教育を受けた上での逸脱という考えしか本書にない。その意味で、了見が狭いと言えば狭いし、商売的だ。

それは著者が教育産業出身で、飯を食わせてもらうポジションにいるということに尽きる。むしろそれ以外の教育者は、このような網羅性の高い初等教育書に興味がない。

当然、第三者的な視点はゼロだ。

内容は至ってオーソドックスで、常識的な範囲に限られているとは言え、そういう状況でも教育論というのは誘導ができてしまい、それこそ普通よりも怖い。

私は専門家でないので、本書の役に立つところしか基本的に目につかない。一番いいのは、読んで、こういう本を読んだがどう思うかを問うような、周囲への共有くらいしか思いつかない。

Q:本書の受験スタンスを教えて欲しい

A:例えば、声優になりたいと子供が言い出した時に、大学へ入りたいか?という保護者からの質問が多いという。本書ではこれに対して、いきなり声優養成所やアニメ系の専門学校へ行くのではなく、受験教科数の多い芸術大学をすすめてやるべき、と書いている。

これは私の経験からして、かなり正しいと思う

まず一つに、芸術の分野は、世の中のどの産業よりも経歴主義だ
ここは、世間に最も勘違いされている部分である。
実力だけで選ぶということは、絶対ない。他の産業よりかなりきつい。

声優になるとすると専門学校に行くことになるのだろうが、おそらくいい大学をでている人間は少ない。声優という職業への憧れが、勉強への逃げも内包しているからだ。

これらを加味すると、いい芸術大学を出ている声優志望者は、他よりも得することが間違いなく多い。芸術大学出身者は特に、面接者・採用者から、読めないので、過大な期待と妄想を引き出しやすいのは、私の人生で死ぬほど経験している。

この本には、そういう膨大な数をこなした貴重な子育てデータがある。

数と経験の本だと思って読むと、かなりいい本だと私は感じる。

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