孫正義に敵対した人物たちや家族・親族を徹底取材。成功者の“やましさ”を追求した興味深い評伝『あんぽん』佐野眞一

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著者紹介

佐野慎一(1947〜)

早稲田大学第一文学部卒業。音楽出版社・勁文社に入社。その後、フリーに転身。1997年『旅する巨人』により第28回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』により第31回講談社ノンフィクション賞受賞。
2003〜2012年(平成24年)まで、開高健ノンフィクション賞選考委員を務めていたが、週刊朝日による橋下徹特集記事問題で辞任した。

この橋下事件をきっかけに、佐野による数々の剽窃行為が明るみに出され、溝口敦・荒井香織『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム 大手出版社が沈黙しつづける盗用・剽窃問題の真相』(2013年、宝島社)の中で、盗用問題の詳細が検証された。

2015年2月18日、橋下徹と大阪地方裁判所において和解が成立した。

目次

  • 第1章 孫家三代海峡物語
  • 第2章 久留米から米西海岸への「青春疾走」
  • 第3章 在日アンダーグラウンド
  • 第4章 ソフトバンクの書かれざる一章
  • 第5章 「脱原発」のルーツを追って
  • 第6章 地の底が育てた李家の「血と骨」
  • 第7章 この男から目が離せない

ソフトバンク・グループ株主総会の写真の謎

孫正義が経営するソフトバンクグループが、2021年の5月に過去最高益の約5兆円の利益を発表した。この時の株主総会の冒頭で出された写真がこちらだ。

この写真、実はこの『あんぽん』を読むと、単なる創業時の過去写真ではないことがわかる。ポイントは踏み切りだ。

孫正義は、父である孫三徳から経営者としての英才教育を受ける。その一番最初の指導が『踏切で電車を待つ時に、商売のアイディアを一つ考えろ』というものだった。

これは、父の孫三徳インタビューで、彼の口から直接語られる。

それ以来、孫正義の原点はこの踏切であり、彼は故郷の踏切だけではなく、踏切というもの全体へのこだわりを持ち始める。この写真もその中に含まれる。

本書の出版は2012年と古い。だが本書を読むことで、著者の徹底した周辺への調査と、現在の孫正義ともリンクする重要な真実が多く語られている気がつくだろう。

著者:佐野慎一に関して

本書の著者、佐野慎一は私の世代ではノンフィクションの巨匠として知られる。だが、下の世代からは、クオリティの引く橋下徹の評伝を書いたことで訴訟問題となり、また、その後剽窃問題で世を賑わせたワケアリ作家として知られている。

だが、剽窃をした作品は、彼の代表作というよりは、大家となって忙しくなった後に書かれた駄作が多い。実際は調子に乗ってしまって、能力の低い編集者と組んだことが原因だろう。

そんな中で、この『あんぽん』は、剽窃なしで、正真正銘の佐野自身によって書かれた最後の書籍だという話だ。そのようなことが、本書の改訂版あとがきに書かれている。

私自身は、これに対して何も思うことはない。

一つだけ言えるのは、これだけ孫正義を疑いにかかり、その敵対者や親族、関係者に徹底的に取材したノンフィクションは珍しいということだ。

本書が書かれたのは2012年と古い。

だが、孫正義を徹底的に批判的な切り口で取材した故に、今の孫正義像と、本書の孫正義像は間違いなく繋がっていて、彼の本質がよくわかる作品だと思う。

概要(ブログ主の強引なまとめ)

孫正義は、佐賀県鳥栖の密造酒の訪問販売をする父の子として生まれた。

家族は『安本』姓を名乗り、在日韓国人であることを隠しながら、父が密造酒で稼いできた資金をもとにパチンコ屋や焼肉店を一族経営するなど、中学生になった頃には貧しさから脱し、裕福な一族として知られるようになる。

高校は久留米の名門校に入るものの、東大に入っても自分が希望する仕事には在日韓国人ということでなれないということを知る。その途端、孫正義は渡米を決意し、カルフォルニア大学バークレー校を卒業する。

『安本』をアンポンタンのあんぽんと言われ続けた孫正義は、当時名乗っていた日本人性の安本正義の「安本」を捨てる決意をする。帰国後、本名のに戻し、それにちなんだ会社名『ユニソン・ワールド』を設立し、福岡でコンピュータ卸売事業を起業する。

そこから現在のソフトバンクの孫正義に至るのは、周知の通りである。

敵対する大森康彦(ソフトバンク社長代理)、西和彦(元マイクロソフト)の取材に成功

ソフトバンク時代の最大のタブーだと言われるのが、孫正義が肝臓を病んで長期間社長業務をできなかった時期に、代理で業務を執行した大森康彦との関係だろう。

孫正義のタブー、社長解任事件|余命五年宣告、裏切り、集団退職、ITバブル崩壊

孫正義は、余命宣告を受けた後の4ヶ月の治療で復帰し、40歳以上を定年にする会社規則を作って、強引に大森康彦を退任させる。

今の孫正義からは想像できないダーディな仕事ぶりだが、ある意味彼の本質的な動きだとも言える。本書では、その経緯は初めて明かされたと言っていいだろう。

実の父の孫三憲インタビュー。冷酷な聞き込みで、未熟だが研ぎ澄まされた帝王学を探る

また、同じくMSX闘争で対立した西和彦(元マイクロソフト・週刊アスキー社長)へのインタビューも掲載。また、かつて誰も取材できなかった父の孫三憲へのインタビューができたのも本書である。ここにやはり著者の佐野慎一の能力の高さが、表れている。

圧巻なのは、佐野が孫正義の父の三徳の自慢話、誘導尋問、ウソ、ごまかしにいっさい付き合わず、どんどん孫正義の隠れざる真実に迫っていく部分である。

ここを読むためだけに本書を買っても損はしないと思う。

Q:どんな人が読むべきか?

A:孫正義への興味がある人は当然ながら、敵意を持つ人へもお勧めできる内容だ。

だが、一番読んで欲しいのは、子供へ経営者の教育をしたいと願っている人たちである。

本書の要は、最初にも触れたが、孫正義の父への豊富なインタビューと親族、祖父母に関する取材データである。

この本では、孫正義は、親子3代で目指した世界一への挑戦という裏テーマが語られており、取材の段階で早いうちからそれに気がついていた著者の佐野氏の慧眼ぶりが発揮されている。

だが、父としての孫三徳は、全く優秀ではないし、頭も悪く、密造の焼酎を売り、サラ金、パチンコなどのヤクザ的な商売で成り上がる人物だ。

決して尊敬はできないし、現在も孫正義のことをヤクザだと言っている人たちの原因にもなっている、いわゆる厄介者だ。

ところが、本書を読むと彼の教育方法が抜群に優れているのがすぐわかる。加えて、経営者を育てるということの難しさも身に沁みる。

孫正義の弟も実は、日本の実業界のトップにある凄腕経営者である。弟の孫 泰藏は、5兆円の規模の時価総額を誇るガンホー・オンライン・エンタテイメントの創業者で元会長だ。

この流れからもわかる通り、ビジネス面での初等教育を考えたい人は絶対読むべき書籍だと思う。

Q:親の話以外で面白かったところは?

A:逆に、陳腐でつまらないところを先に言っておくと、後半部は東日本大震災が起きた後に書かれている。その時、著者の佐野は、孫正義が100億の私財を当時て、再生エネルギーの事業を立ち上げると言った後の孫正義を悪く書けなくなってしまった。

なので、この話題になった後の本書は読む必要はないし、面白くない。

それ以外は、他の孫正義の伝記本には書かれていない情報が多い。概要でも語った以外にも、彼のホークスを買うに至った経緯や、アメリカ時代のなど、いい内容は多い。

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