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著者情報

吉野 源三郎(よしの げんざぶろう、1899年(明治32年)4月9日 – 1981年(昭和56年)5月23日)は、編集者・児童文学者・評論家・翻訳家・反戦運動家・ジャーナリスト。
昭和を代表する進歩的知識人。『君たちはどう生きるか』の著者として、また雑誌『世界』初代編集長としても知られている。岩波少年文庫の創設にも尽力した。明治大学教授、岩波書店常務取締役、日本ジャーナリスト会議初代議長、沖縄資料センター世話人などの要職を歴任した。
東京大学図書館に入社した直後から社会主義団体に出入りをするようになり、1931年(昭和6年)に治安維持法事件で逮捕される。このとき抱いた軍国主義への不信感が、後年の反戦活動、理想主義的な思想体系を形作った。そして、この経験が本書『君たちはどう生きるか』にも影響している。
目次
1 へんな経験
2 勇ましき友
3 ニュートンの林檎と粉ミルク
4 貧しき友
5 ナポレオンと四人の少年
6 雪の日の出来事
7 石段の思い出
8 凱旋
9 水仙の芽とガンダーラの仏像
10 春の朝
概要(あえて他では書かないまとめ方をしてみる)
本書は、古い書籍である。だが、これまでにも何度かリバイバルしており、総売り上げ部数はずっと伸び続けている。直近では『風立ちぬ』(2013)後の宮崎駿監督の新作の原作として、話題となった。海外では、この宮崎駿の発言によって、初めて海外版の流通が始まった。
関連記事:The First English Translation of Hayao Miyazaki’s Favorite Childhood Book(ニューヨークタイムズ)
驚くべきは、宮崎駿の脅威的なブランド力だが、彼が生涯愛読したという本書の内容の不変さもまた捨てがたい魅力であることある。
ここから、内容に触れていく。
検閲のため表面上は「教養小説」の形を取ったが、欧米の自由主義思想の根本を伝える
本書は、中学生のコペルくんという、資産家でハイソサイティの子供のストーリーだ。
だが、コペルくんは幼い時に父をなくしており、上流階級としての地位をダウングレードすることを余儀なくされ、使用人の数を激減させ、住まいも東京の貧民街の付近に移すこととなった。
そんな彼が、エスタブリッシュメントである叔父とのノート交換で、さまざまな教育的なイニシエーションを受けながら、どうにかしてエリートの道を外れずに、成長するという内容だ。
コペルニクスから付けられた「コペルくん」という名前の意味:プライドの表現
主人公は、叔父に「コペルくん」という名前を付けられる。
これは、官僚家系に生まれ、世の中を変革する、という思想の中で家を発展させてきた家族的なプライドを子供に移植させるという目的がある。
コペルニクスは、よく知られる通り、ローマンカトリックが、キリスト教の理念が崩れるとしてガンとして曲げなかった天動説に対して、地動説を唱え、死後にその正しさが認められた、いわゆるパラダイムシフトを起こした偉大な人物である。
実は、日本の官僚制度は、このコペルニクス病という病にかかっている。それは簡単にいうと、自分はどんなに小さい存在でも、やがてはコペルニクス的なパラダイムシフトを産む、はずだ。という理念への、狂気的な信望だ。
当然、吉野源三郎も官僚教育機関である東京大学出身で、卒業後もインテリ畑を歩いたので、この思想を持っている。良い面も悪い面も含めて、主人公コペルくんは吉野の分身である。
『君たちはどう生きるか』は「知識的な正しさの追求」と「バカの支配下での辛抱」
本書の特徴を乱暴に書くと、この見出しのようなことになる。
私はこれを悪く書いているつもりはない。簡単にいうとあくまでこうなるということだ。
本書では、
前半部を「知識的な正しさの追求」
後半部を「バカの支配下での辛抱」
に、ページを割いている。
これは多かれ少なかれ、偏差値55以上(上位30%)の人間が経験しなければいけない、学習態度と処世術の要点が書かれたものであるとも言える。つまり、結構広く使える内容の本なのだ。
本書に魅了された宮崎駿は、なぜ成功したのか? 答え:ドス黒い経済学の側面も描いているから
ただ、ここまで書くと単純にインテリ左翼の教養書籍、と受け取られるかもしれない。
しかし、そうではない部分も本書にはあり、そこが重要だ。

みなさんは『おしん』というドラマはご存じだろうか? 最上川を身売りに出される少女が泣き叫んでいるシーンで有名な本作は、実は第三幕の最終章は意外な展開を迎える。
吉野源三郎は、左翼的な思想も経済的基盤を持たなければ、死ぬことを語った
この『おしん』の第三幕は、実は当時かなり不評をかっていた。
今まで反戦と理想主義を通してきた『おしん』というドラマが、バブルに浮かれる1980年代の日本の経済第一主義に矛先を変えてきたせいで、トンデモクソドラマという扱いを受けて、実は『おしん』が、このクソ的な評価で終わったことはあまり知られていない。
だが、このシフトは今では評価をされてきている。実はこの第三幕を一番評価したのは、国民が90パーセントが見たと言われる中国人だったのだ。
経済性に対する考えの甘さ:日本人の欠点を早期に伝える
この『おしん』というドラマから中国人は、日本人の二の舞をふまず、正しい経済発展を目指したいと考えるようになったのだという。これは、単にドラマの内容だけではなく、このドラマの終焉に対する日本人の態度も含まれる。
日本人は、橋田壽賀子の予言した通り、経済性を的確に見極めることができず、バブル崩壊であっさり失速した。その後、今、中国はGDPのアメリカ越えを3年後に見据えている。中国は、経済的なクラッシュを何度も起こすが、日本人のように致命的な間違いはしていない。
『おしん』を遥かに凌ぐ洗練された経済的先見性を『君たちはどう生きるか』は持っている
本書は、この側面を持っている。というか、私からすると『おしん』のような過剰な回りくどさもなく、実にシンプルにスマートに、人間の理想が経済性に支えられていることを説いている。
そこを可能にしたのが、没落家族の子供と、エリートの叔父との対話というわけだ。
そういう意味で、世界的な権威者として大成功した宮崎駿が、この本を最後の素材として選んだのはとても興味深いと思っている。期待したいと思う。
Q:どんな人が読むべきか?
A:もしお子さんが本に興味を持って、本作を少しでも読みたいという態度を示したら、できるだけ早く読ませるべきだと思う。日本の教養物としてはかなり稀有な出来栄えの本だと思う。
しかしながら、本書から大事なことを気づかない子供も非常に多いと思う。
その際には、親の力量が求められるだろうが、ここが一番難しいところだと思う。
Q:読む時に注意することは何か?
A:読みやすく、覚えやすい内容だということ。
ここが、数少ない唯一のマイナスポイントだと思う。
読む回数が少なければ、受け取れる情報も少なくなる。実は、非常に高度で難易度が高い書籍であるにもかかわらず、本書は「安易な大衆的な作り」をしてしまったのだ。
ここをどうやって読もうとする人間に伝えるのかが、注意すべき点だと思う。
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