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著者情報
村田 沙耶香(1979〜)※いわゆるY世代に当たる
千葉県印西市出身。
10歳の時に小説執筆を開始。芥川賞を受賞したのは、2016年だが、作家デビューしたのは2003年とキャリアは長く、それ以前に三島賞※を受賞している。
※一般的に芥川賞は新人賞、三島賞は中堅からベテランが受賞する賞である。
家庭は保守的で、兄は医者か裁判官になるようプレッシャーをかけられていた一方、村田自身は「女の子」としてピアノを習い、清楚なワンピースを着て、伝統ある女子大学に進み、しかるべき男性に「見初められて」結婚してほしいというのが、母親の願いだったという。本作で知名度が上がってからは、エッセイ・ラジオなど純文学以外の仕事も行うようになった。
二松學舍大学附属沼南高等学校(現・二松學舍大学附属柏高等学校)、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。大学時代には、小説と向き合うためにコンビニエンスストアでアルバイトを開始し、2016年に『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞した後もしばらくアルバイトを続けていた。大学時代、周囲の人間から、金持ちの結婚相手を見つけ出産について考えなければいけない、と言われ、何のために大卒資格を取るのかとショックを受けたという。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞受賞。
2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補。
2009年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。
2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。
2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。
2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。
2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。
2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
あらすじ
コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
夢の中でもレジを打ち誰よりも大きくお客様に声をかける
…現代の実存を軽やかに問う話題作。
「普通」とは何か?
現代の実存を問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。
累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。
世界各国でベストセラーの話題の書。
芥川賞受賞作のオーディオブック化は非常に珍しい
今回『コンビニ人間』は、オーディオブックで読んだ。
これは割とはっきりしているのだが、芥川賞受賞作がオーディオブックになることは珍しい。しかも、アマゾンが先行して日本の純文学をソフト化するのは見たことがない。
おそらく、それだけ本作が海外でも売れている作品だということなのだろう。
高度成長世代がやっとこさ作った“常識”に覆す貧困世代の戦い
では、ここからは本作の内容に踏み込んでいく。
最初、本作を読む前はコンビニが好きなコンビニ店員のシステム化された侘しさみたいなものが、面白おかしく描かれているイメージを持っていたが、読んでみて非常に驚かされた。
ものすごい大きなテーマを、実は扱っている本だったからだ。
就職・結婚・出産の全てのライフイベントを敵に回す:『攻撃的な小説』
本書を読んでみて、これほど読みやすく、過剰な情景描写も少なく、日本語としてのエッジも抑えられた芥川賞小説は久しぶりだと思った。
芥川賞の特徴は、主には三つある。
- 文章表現の難易度を上げることで差別化を図る
- テーマの刺激性(非日常性)を武器に、私小説の特色をフルに生かす
- 時代に適合した時事的な問題を扱う
本作は、ある程度有名になった後もコンビニの店員をしていた、という私小説的な要素はあるものの、実はそれがメインテーマではないのが読んでいてわかる。
つまり、コンビニ以外の家でのやりとりがメインであるのだ。
また、日本語もシンプルで、おそらく芥川賞の作品にしてはこの20年くらいで最大級に簡単な文体で、難しい漢字表現もなく、日本語としてのエッヂもない。
ただ、時代に適合した内容という面では、強い特徴を持っている。
それは、本来、人生の中で一番生産性が高く、高級取りになるはずの30〜40代の貧困を描いたという点だろう。今回、この部分が最大の作品要素となる。
コンビニの求人に群がった低所得者層を、世代抗争の修羅場に変える
もう少し内容に踏み込んでいきたいと思う。
コンビニの店員は、現代の日本では社会ヒエラルキーが最下層の労働者だというのは間違いない。
そこに集まった40歳目前の男女が、お互いの状況を駆使して、就職・結婚・出産に関係する常識をことごとく、非暴力的に踏み躙っていく姿が、コンビニの店舗の外で繰り広げられる。
具体的には、処女の女性(主人公)が、別に彼女がいる無職の男性と性的な興味がゼロのまま同棲を開始し、それによって主人公の家族・友人たちが、勝手に熱狂したりどん底に落ちたりするのだ。
常識を無視すると、社会が痛む:周囲の人間たちが混乱し、落ち込む
本書が明らかにしているのは、常識を壊す簡単な方法と、それによる安定していると思っている人間たちの混乱ぶりである。ただ、それには様々な偶然と準備と時間が必要ではある。
弱者の真の戦い:ルールの無視にあり
これらのことを総じてまとめると、弱者の戦い方というのは、好景気世代が作ってきた“良き日本人”というアイデンティティや、戦後の冠婚葬祭などによる“再構築された常識”を無視して、無力化することだというのが、本書を読むとわかる。
これは正攻法の戦い方ではない。相手を混乱せる手法だ。
ただ、これははっきりしているのだが、そうやって弱者が傍若無人に振る舞うと、同時に社会も国力も著しく弱体化するということだ。
コンビニという最底辺で最低賃金の場でしか描けない、そのような物語を、著者である村田 沙耶香は、実は熟練の技で“ぽっと出た新人風に”書いたのがこの本だと言える。
Q:どんな人が読むべきか?
A:年収300〜500万円以下の人。
なぜ年収で区切るかというと、この層が一番、不安定で人員過剰だからである。一歩間違うと仕事を失いやすく、求人数に対して再就職が難しいのだ。
そのくせ、意識だけは「中流以上」というプライドを持ち、1年に数冊は本を読めたら読みたいという、著者の最大顧客の可能性もある人口層である。
そしてこの層の下に、実際にコンビニで働く層が待ち構えている。
年収が少しでもコンビニ店員より高ければ、コメディとしてギリギリ読める
本書は、実は高いところから下界を見下ろすような小説だというのは、なんとなくわかるだろうが、その意味をきっちり理解できている人は少ないと思う。
それは、日本に多い層を狙っていると同時に、本というものをギリギリ買って読める(新刊)所得ランクというのもあるが、ひどいことを笑って受け入れることができる最後の層だというのもある。
この点は、村田 沙耶香氏の冷徹なマーケティングで、むしろ国際的に本書が売れたのはこの戦略があるからだと、私は思っている。
こういう社会的なヒエラルキーは、おそらくどの国でもあるはずだから。
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