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著者紹介

ユヴァル・ノア・ハラリ(1976年〜)
イスラエルの歴史学者。ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授。世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』、『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』の著者。著書では自由意志、意識、知能について検証している。離婚歴があり、ゲイを公言している。
目次
- 【上巻】
第1部 認知革命
【1】唯一生き延びた人類種
【2】虚構が協力を可能にした
【3】狩猟採集民の豊かな暮らし
【4】史上最も危険な種
第2部 農業革命
【5】農耕がもたらした繁栄と悲劇
【6】神話による社会の拡大
【7】書記体系の発明
【8】想像上のヒエラルキーと差別
第3部 人類の統一
【9】統一へ向かう世界
【10】最強の征服者、貨幣
【11】グローバル化を進める帝国のビジョン - 【下巻】
【12】宗教という超人間的秩序
【13】歴史の必然と謎めいた選択
第4部 科学革命
【14】無知の発見と近代科学の成立
【15】科学と帝国の融合
【16】拡大するパイという資本主義のマジック
【17】産業の推進力
【18】国家と市場経済がもたらした世界平和
【19】文明は人間を幸福にしたのか
【20】超ホモ・サピエンスの時代へ
あとがき 神になった動物
全体の概要
本作はなぜ、このように世界的に大ヒットしたのか?
おそらく本書を手に取ろうとした人や、読もうか迷っている人に共通している認識だろう。
ずばりその理由は、書いておこう。
それは“人類に重要な知識が最短距離で得られる”からだ。
この本を読むことで、確実に読者は、無駄に読む本を減らせる。時間を浪費することを減らせるし、そもそも本を探す手間も減らせる。また、変な情報に踊らされることも少なくなる。
要するに、かなり便利でお得な本ということだ。
世界史・歴史学の中心は、イスラエル
著者のハラリ氏はいったいどんな人なのか? そのポイントは、彼の出身国と教育的な背景にある。彼は、四大宗教(キリスト教、ユダヤ教、仏教、イスラム教)の三つの宗教が誕生した、イスラエルの歴史学者で、しかもヘブライ語が堪能だ。
1800年代からずっとヨーロッパ人学者はヘブライ語ができることに重きを置いてきた。なぜなら、ヘブライ語が読めなければ、古い書籍(原典)を読むことができないからだ。特に、キリスト教に関係した書籍は、ほとんどがヘブライ語で書かれていた。
これは日本の江戸時代以前の学者が、中国の漢詩(漢文)を読めないと、一流ではないのと似ている。知識は、一定以上の能力がないと共有されないという文化的背景がどの国でもあるのだ。
ハラリ氏の専門は歴史の中でも特殊な “軍事史”
ハラリ氏は、ヘブライ語で歴史を収めており、これは白人系の歴史学の分野ではスーパーエリートに該当する。また、博士課程ではイギリスのオックスフォードで軍事史で博士号を取得している。
そんな彼が、人類の誕生からIT革命やAI、ロボティクスに至るまでの人類の総合史を、数字や年表を一切使わず、ユーモアたっぷりのストーリーラインで、たった2冊の本にまとめることにチャレンジした。この裏には、2000〜5000くらいの著作や論文が圧縮されていると言われている。
また、日本人にはこれまで公開されることが少なかった機密的な情報も多い。
上巻の概要:農耕社会による家父長制と宗教激化
猿から人類への進化から入り、火や木製製品の加工から農耕に至る道筋を駆け足で語る。
重要なのは、体力主義・組織主義になってしまった農耕社会からダイレクトに、家父長制、つまり男社会になった政治・経済に至る、現代の差別主義について、わかりやすくまとめている部分だ。
後半部は、人類を一番最初に支配した通貨制度について解説する。
人間は新しい技術や制度を発明するたびに、その生み出した技術・制度に、国や人種が丸ごと支配されてしまい、そのせいで残酷な殺戮や飢餓を繰り返してきた歴史を語る。
この上巻で語られるのは、真新しいことではないが、大きな視点を持たないと得られなかったような、新しい考えや発見が多く含まれている。これらは強引に圧縮した知識ではあるが、陰謀論とは違い、科学的な論拠に基づいた飛躍のない視点で、納得度が高く、覚えやすい。
下巻の概要:資本主義による非戦化の悪夢
本来、多神教がベースであった宗教が、なぜ一神教になり、自分以外の宗教を攻撃するようになったのか、から、下巻はスタートする。
これらの宗教から、世界大戦までの戦争の歴史を駆け足で語りながら、戦中・戦後に生まれた原子爆弾や情報拡散技術、IT技術によって、軍事的な戦争を徐々にできなくなって、ある意味、身動きができなくなっていく人類史が語られる。
ハラリ氏は反宗教主義者である
ハラリ氏は完全に神の存在を否定しており、いわゆるエイシスト(反宗教主義者)である。おそらく、そうでないと、紀元前以前の進化論ベースの歴史学者になれないのだろう。
この感覚があるから、ヨーロッパの産業の発達からコロンブスのアメリカ大陸への進展の部分も語りやすくなる。下巻で語られる植民地主義は、差別の世界化だ。
前提がしっかりしている故に、被支配国の人間も読みやすいソフトなストーリーになっている。
一般的な植民地主義の解説は、キリスト教に属する学者によって語られている。
そのため、正しさや悪といったおどろおどろしい動機で裏にある真相を隠して語られたが、ハラリ氏はそれをしない。簡単な、経済性や欲望などのわかりやすい論理で、ユーモアたっぷりに語られる。
原子爆弾とIT “非戦のグローバリズム”のストレス問題
下巻の後半部は新しい技術、ITやAI技術といった先進技術のテーマについて触れられていく。
上巻から読んでいる人は、その論理の進み方のスムーズさと整合性に驚くはずだ。
この下巻は、マーク・ザッカーバーグを含め、多くのIT実業家に支持されている。人間の進化に興味のない人は、この下巻を読むだけで、戦後から現代のIT技術の頒布の裏にある人類史について、網羅的に、しかも繰り返すが、数字や図、難しい用語が一切ない。
下巻の最大テーマは、今の人類が抱える「ストレス」
かつての人類は、戦争や飢餓や、宗教による紛争によって、制度や国が定期的にぶっこわれることによって、法律、生産体系が固着化せず、ストレスが溜まり続けると言う状況はなかった。
だが、現代は戦争や紛争がゼロではないが、過去の時代に比べて格段に起きにくい。下巻ではそれらの影響による現状維持バイアスなどによって弾きこされるストレスが、人口の爆発と非戦によってさらにどんどん膨れ上がっている様子が克明に書かれており、上巻よりもその分スリルがある。
この資本主義が生み出した状況が今後どうなるのか? というところで、本書が終わる。

Q:どんな人が読むべきか?
A:読者は限定しないと思うし、全体的に読んで損をする人の方がむしろ少ないだろう。ただ、本書を読み切れる胆力のある人は限定される。
それでも、海外での投資をする人などは、常識として知るべき内容であり、海外関連ニュースを読む精度を、いわゆる世界標準にしておきたい場合にはこれ以上の本はない。読むことで、確実に金銭的なメリットとして享受できるのではないかと思う。
その意味で、本書が時間的にも金銭的にもかなりお買い得であることを知って読めば、さほど忍耐力をかけずにして、読破できると思う。
Q:読むメリットは?
A:海外ニュースの読み込みがしやすくなる。また、単純に騙されにくくなる。
日本で読む海外ニュースは、えてして引用元が不明だったり、前後の文脈が怪しいものが多い。だが、文面だけ見ると気がつきにくい。
どうしてそうなるかというと、そもそもニュースというものは、形にするための取材コストや人材コストがあり、当然、それに付随して資本の動機や願望がある。それらを人類史をざっと知っておくことで、あからかに防波堤の役目を持たせることができる。
簡単な例を示すと、とあるアメリカ経済の危険性の記事を、一見同じ白人に見えるが、ロシア人が書いているケースと、アメリカ人が書いているケース、ドイツ人が書いているケースでは、全くその中身の意味合いが違ってくる。
これはかなり強引な例えばなしだが、わかってもらえるだろう。
ニュース発信者の動機が見えることが格段に増えてくると思う。
Q:デメリットはあるか?
A:何といっても、それは宗教を完全否定している面だろう。
本書を読むことで自分が信じてきた宗教を、思いっきり否定したくなる人が出てくるだろう。そう言う意味では、かなり危険な書籍だが、逆いうと、ヨーロッパで本書が爆発的に売れたと言うことは、もう白人社会の大半は神を信じていない、という裏付けだとも言える。
Q:なぜ本書が売れたと思うか?
A:これは個人的な考えだが、リーマンショック後に全世界的に陰謀論が流行ったが、これが少なからず影響していると思う。リーマンショックという金融危機が、世界じゅうに飛び火したことは、陰謀論という「陰で世界を支配する」という考えを、かなりイメージしやすくしたはずだ。
それ故に人々の間に、その陰謀論の有る無しに決着をつけることができる知識人の登場を期待したところがあるのではないだろうか?
そして、その中で、ハラリ氏は「陰謀論を否定する存在」として誕生したのだと思う。
しかも、ハラリ氏の本を読めばグローバリズムに対して、意識の最適化が行えると思う。
Q:ハラリ氏は裏がある人物の可能性はないか?
A:そこが、本書を読む上で最大のテーマだと思う。
だが、残念ながら、私程度の人間には、そんなことは判断できないとも思う。
なので、今後の彼の世界でのポジションや活動を追っていく必要はあると思う。
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