こちらの書籍はオーディオブックの読み放題で読むことができます。
著者について
相沢沙呼(あいざわ・さこ 1983〜)
2009年『午前零時のサンドリヨン』で東京創元社主催の第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2011年3月「原始人ランナウェイ」が第64回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作。ライトノベル(『緑陽のクエスタ・リリカ』)の執筆や漫画原作なども行っている。
ブレイクのきっかけとなった2019年刊行の本書『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は、『このミステリーがすごい! 2020年版』国内編1位、『2020本格ミステリ・ベスト10』国内ランキング1位、Apple Books「2019年ベストブック」ベストミステリー、第20回本格ミステリ大賞小説部門の4冠を達成。第41回吉川英治文学新人賞の候補、第17回本屋大賞ノミネート作品。
2020年『小説の神様』が初の映画化。
デビュー作で扱われたマジックは作者本人もたしなんでおり、鮎川哲也賞の贈呈式や、デビュー作刊行時に行われたトークイベント(2009年10月 三省堂書店大宮店)では、実演してみせた。
本書の紹介(出版社の文章)
死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。
心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!
まとめ(ブログ主の勝手なまとめ)
オーディオブックで無料だったので読むことになった。私は普段あまりこの手のミステリーは読まないが、オーディオブックがこういうマニアや声優のコアファンを意識した作品選びで、アマゾンオーディオブックを追い抜いたという話はあったので興味があった。
オーディオブックのキャスト
<キャスト>
城塚翡翠 古賀葵
香月史郎/朗読 赤羽根健治
千和崎真 田澤茉純
鐘場正和 佐東充
結花 緒方佑奈
舞衣 小田果林
由紀乃 赤星真衣子
黒越 ボルケーノ太田
別所 大谷翔太郎
菜月 有住藍里
蝦名 佐藤元
琴音 幸村恵理
内容に関して
前半は、霊媒師・城塚翡翠(じょうずかひすい)と探偵・香月史郎(こうげつしろう:本業は小説家)という感じで刑事コロンボのように最初に犯人がわかるという展開だ。
霊媒によって犯人を特定されてしまった香月が、あせって推理を進める、という展開が一通り続いたあと、警察がその犯人を逮捕するという区切りで4話の短編形式となっている。
短編の間に挿入されるシリアルキラーがまさかの主人公・香月史郎という展開
この著者は、おそらくわざと文章を下手くそに書いている。とにかく、霊媒師・城塚翡翠(じょうずかひすい)の美少女描写がくどいのには理由があった。
それは、青少年で霊媒師と共に探偵をしている主人公・香月史郎が、実は連続殺人事件の犯人でもありシリアルキラーだという本筋が別に存在していたからだ。
つまり、最後の章以外は、片手間な印象をあとであたえる必要があった。
霊媒師・城塚翡翠(じょうずかひすい)は、誰も気がついていない名探偵で主人公・香月史郎がシリアルキラーであることを突き止めて、彼を逮捕するためのオトリだった、というのが、本書の大きな流れである。要は、二段オチの小説だ。
映画『ユージュアルサスペクツ』を稚拙にオマージュ
ユージュアルサスペクツが確立したスタイル『支援者が確信犯』
1995年に『ユージュアルサスペクツ』(監督:ブライアン・シンガー、脚本:クリストファー・マッカリー)という映画が世界的にブームとなった。この映画は、ある意味サスペンスのストーリテリングを変えてしまったといえるし、終わらせてしまった面がある作品だ。
その特徴とは何かというと、従来の物語論定義(ジョゼフ・キャンベル、プロップの定義)における支援者・援助者が、物語最大の悪人で影の支配者になる、という構図だ。

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のダメな点
ユージュアルサスペクツは、誰が大犯罪人のカイザー・ソゼか? を疑われる容疑者たちのサスペンスだが、その中で、最もノーマークで力が弱く、障がい者(足を引きずる:小児麻痺)だったコバヤシが、最後に障害者のふりをしていたのをバラすことによって、彼がカイザー・ソゼである、ということを観客だけが知る(映画の登場人物たちは気づかない)という内容で、当時衝撃的だった。
しかも凄いのは、この身バレのシーンで説明どころか、全くセリフがなく、説明もなく、「わずかな動き」だけで、観客に衝撃を与えるところである。
さらには、観客はたとえ記憶力の弱い人でも、この映画に貼らりめぐらされたいくつものフセンを思い出すのである。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は、後付け説明しまくり、しかもほとんど記憶がない
その点、本作はひどい。
最終話で展開されるのは、最初から最後の顛末の全解説と無理矢理な謎解きである。
どんなに記憶力が良くても、その10%も記憶がない出来事の細部をネチネチ掘り起こされ、しかもなかったことを後付けで追加して、ちっとも面白くない。
そもそも、サスペンスというのは、物語の構造の緻密さよりも、最終的には感情に結びつくことでクローズするのが魅力だ。つまり、犯罪者の悲しみを表現するのがサスペンスの効能だ。
本を読むことを、フセンを回収する単なる仕事にしてしまった本書を、何度も読み止めようとしたが、しょうがなく続けた読者も少なくないのではないか?
Q:どんな人がこの本を評価しているのか?
A:本書は、ライトノベルであり、美少女のエロというお約束を守っている。ただ、文章がかなり稚拙で結果的にこれは功を奏したが、著者はそもそも文学的な素地がなさそうだ。
全体を通しても文体が安定しないところを見ると、もしかすると、表紙の絵の選び方や構成などは、編集者が行なった可能性も考えられる。つまり、ターゲットありきの作品の可能性が高い。そして、そのターゲットは低年齢層か、読書や映画鑑賞をあまりしない層だろう。
40歳から上は、ユージュアルサスペクツのパクリ構造だとすぐ気づく
私の世代を含む昭和50年代以前のある程度の文化的素地のある人間なら、ユージュアルサスペクツは誰でも知っている。志村けんやスマップ、とんねるずなどが、本作をパロディしたコントなどもテレビで多く見かけた。
だが、おそらく本作は、一度見ると二度見る気にならないというサスペンス映画の負の要素をかなり強く持っており、再放送での視聴率が悪くなるというのが容易に想像できる。
そのせいか、近年ではほとんど評判を聞かなくなった。つまり、オールディーズ的なリピートヒットが全くなかった作品なのだ。
編集者の類似作品化のモデルストックが考えられる
そのため、世代ギャップを生みやすく、時間が経つことで真似た作品をヒットさせることができるタイプのものだ。小説の編集者というものは、落ち目の作家などをサポートするために、このようなモデル作品のストックを多く持つものがいる。
Q:読むべきではないか?
A:本書にもいいところがある。それは、日本の美少女文化とラノベを複合させた部分だ。だから、完全に本作が悪いというわけではなく、単純に書くのは苦労したことがわかる。
また、この本の読者に『ユージュアルサスペクツ』の方がいい、といっても見ないだろう。なぜなら、『ユージュアルサスペクツ』は、ラストに行くまでかなりヒマだからだ。
本書のようなサービスストーリーもなければ、どきどきハラハラを誘うような丁寧な仕掛けもない。断然、今風なのはこっちだし、それはわかる。
だが、感動のレベルは、後からオマージュしたのにも関わらずオリジナルに遠く及ばない、不出来な要素が多くて、少しばかり残念。というのが、私の感想だ。
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