著者の壮絶な体験談で、民事訴訟の無意味さが露呈・暴露『臆病者のための裁判入門』橘玲

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著者紹介

橘 玲

早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。経済書籍での脅威のベストセラー出版率を誇る。

概要

橘氏には珍しいノンフィクションスタイル。日本の保険制度の闇を暴露する

本書の特徴は何と言っても、この著者にしては珍しいノンフィクションスタイルだというところだ。

橘玲氏の本には、こういうリアルな本は何気に存在していない。本書は実体験に根ざしており、ちょっと想像すれば大体わかる具体的な大手保険会社のイニシャルトークも効果的である。

小さな出来事が、巨大化していく

冒頭から中盤までは、著者の友人訴訟の体験談が語られる。
交通事故の犠牲者であった著者の友人トムが、A損保(誰もが知っている大企業:あいおい)の従業員である栗本によって、違法な手続きで保険の処理をされてしまったのがきっかけである。

アメリカの上位の大学でMBAを持ち、出身国のオーストラリアでも、交通時の違法な保険金訴訟を自らの力で解決した経歴のある優秀なITプログラマーのトムは、自身になされた保険の処理が不備であることに気が付く。

何をすればいいのかわかっている。それでも日本語が堪能ではなかった。だから、英語ができて、法律やこういう事件性のあるものに強い関心のある橘玲氏が付き合わされることになった。

かかった期間は2年5ヶ月である。

彼らは結果的に、大企業で誰もが知っているA(あいおい)損保にかなり歪な形ではあるが勝訴する。その工程によって、読者はかなり容易に日本の裁判の実態を知ることになる。

先後には、あい◯い損保 VS 東京海上◯◯となり……

本書は途中で、保険の最大手である大企業 VS 大企業の争いとなる。

保険会社の説明義務というのは、それだけ大きく、後を引くのだとわかると同時に、この二大保険会社の狡猾さ・汚さも徐々に表面化してくる。

この両者の保険会社(あいおいの方は後に、東京海上のライバルのMS &AD社に吸収合併)のいずれかと契約している一般人も少なくない、というか、かなり多いと思うので、本書の響きは脳味噌や心臓にまで伝わってくると思う。

ちなみに、東京海上は表面的にはそんなそぶりは見せないが、三菱系であり、MS &AD社は名前にもある通り住友系である。ここの闘争構図を先に知っておくと、話もかなり早くなる。あいおいは、つまりは合併はしたものの、最初から住友系で、それ故に三菱に喧嘩を売った可能性が高い。

この辺は、時間が経ったとはいえ、今でも十分役立つネタだと思う。

Q:本書を読んでどう思ったのか?

A:私は実務でも、映画監督活動でも常に裁判のリスクを抱えており、実際に何度か裁判を経験している。その時に、読んで最も助けられた本に副島隆彦・山口宏の『裁判の秘密』がある。

副島隆彦・山口宏の『裁判の秘密』で書かれていたことは以下の通り

  • 民事訴訟は勝訴しても賠償金回収率は異常に低い(30%以下 特に離婚訴訟は低い)
  • 審議では、結果的に事件と関係ない討論に移行していく(法律学上の問題)
  • 裁判官と検察官のキャリアが法律の歪めている
  • 日本国憲法の基本的人権の問題性(他国と同じ法律を作れない)
  • 裁判とは個人が会社(有名人も)を訴えて、それをニュースにした時だけ機能

この『裁判の秘密』は、2ちゃんねる創設者の西村ひろゆき(通称:ひろゆき)が、自身の山のような訴訟に、悩まなくなり、無視できるようになった書籍として知られる。

この本の登場によって、彼は裁判所に出向くこともなくなり、訴訟で敗訴した賠償金も1円も取られず無視できている。かなりヒットしたために、社会的な影響が多くあった書籍として知られる。

で、本題の本書(橘玲『臆病者のための裁判入門』)を読んでどう思ったか? 

だが、むしろ実際的に今日本人として生きている現実に役に立つのは、この本(『臆病者のための裁判入門』)の方だと思った。本当にすごい本だと思う。

何がすごいかって、裁判は、訴えても無意味だし、訴えられても無意味だと言う、日本の裁判制度の無駄さが、手取り足取り頭取りの状態で、まるで子供向けの絵本のレベルのわかりやすさで描かれているである。その点、副島氏の『裁判の秘密』はかなり専門的な書籍だ。

Q:どんな人が読むべきか

A:訴訟に怯える全ての人。

特に離婚しそうな人などは、すぐに役に立つ。びっくりするぐらい。ここで登場する大企業のはぐらかし方は、離婚裁判でも使えそうなものばかりだ。それでなくても、裁判(訴訟制度)が思った以上に長ったらしく、無気力で、全然悲劇的ではないものだというが実感できる。

ただし言っておくと、本書では裁判のシーンはほんのちょっとしか出てこない。

本書で垣間見るのは、わたしたちが将来体験するであろう、官公庁での無視・たらい回しであり、そのめんどくさいところで、少しでも変な態度を取ったらどん底に落とされる恐怖である。

場合によってはいい弁護士がいても、全く役に立たないケースも散見される。

Q:A損保もT海上も高配当株として有名ですよね?

A:そうそう!そのことについても、いろいろよくわかる。

保険会社の儲けの手口は、裁判を起こされても損失が極度に小さいし、払っても払わなくてもぶっちゃけわからないということだ。全て日本の裁判制度のボロさに裏付けられている。

正直、保険会社は裁判で敗訴しないし、しても損はほとんどしないのだ。そして、保険会社は基本的に、いかにして裁判を引き伸ばして、結果が出ないようにしつつ、保険金を払わないようにするかが決め手であるという事情もよくわかる。

A損保(親会社)もT海上も、近年では配当利回りが常時4%以上の高配当株として有名両学長も毎月ポートフォリオに入れることを推奨)だが、これは、保険金がいかに還元されないものであるのか、ということの表れであると考えられる。ボロい商売なのだ。しかも、本書を読めば、日本国憲法や民法、商法など全てにおいて、保険業者が楽勝だと言うことがわかる。

そういう意味で、二度美味しいノンフィクションだと思う。

Q:ダメなところはないのか?

A:よくないところもある。この手の新書にしてはとにかく長いし、裁判とは関係のない手続きの話も少なくないからだ。正直、後半部の20%くらいは不要だと思う。

それでも、このトムと橘玲の2年半にわたる裁判闘争史で、A損保という大企業に勝つ(40万円の支払命令)ロードマップは、全ての人が絶対読んだ方がいい内容で、逆に買って読んでつまらなかったら私が返金してもいいくらいだ(しないが)。それだけ、私は感動した。

そういう意味で、是非最後まで読み通してもらいたい。飽きても最後だけは読んでほしい。

で、もし本書を読んて内容に気に入ったら、ちょっと難しいが副島隆彦・山口宏の『裁判の秘密』もおすすめだ。実際に手続きとして法律から身を守る手法は、『裁判の秘密』に書かれている。古本も安いので是非、手に取ってもらいたいと思う。

本作はアマゾンオーディブルで読むことも可能です。

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