
この記事を書く、私、PIT監督とは?
2000年代前半からライター・ディレクターとして活動。その後、東京芸術大学大学院映像研究科を修了し、映画監督と社会人を平行でこなす。
多くの海外の映画祭で受賞・上映歴あり。
助成金を受けた映画製作経験も複数あり。
現在は金融系の出版社で編集者をしつつ、世界基準の海外ビジネス系書籍を読み漁る。不動産投資、株式投資も行う。
著者について

ユヴァル・ノア・ハラリ(1976年〜)
イスラエルの歴史学者。ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授。
世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』、『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』の著者。著書では自由意志、意識、知能について検証している。離婚歴があり、ゲイを公言している。
プロフィール追記
出身は、ヘブライ大学とオックスフォード大学という紹介が多いが、もう少し詳しく探ると、ハラリ氏が博士号を取得したのはオックスフォード大学で、専攻は軍事史(Military History)とのこと。軍事史は日本では、どうやら1950年代までGHQにより禁止されていた学問だ。
このことから軍事史は、いわゆる訳ありの学問だと言える。当然、覇権国が最も盛んであるというのはいうまでもなく、オックスフォード大学(イギリス)は世界最先端だ。当然、この学問の取得に対してオックスフォードは人を選ぶだろう(欧米白人のスタンスとして、朝鮮人や中国人、日本人などはおそらくNGの可能性が高い)。この経歴に注目するべきだ。
ハラリ氏は歴史学においける欧州の権威のあるヘブライ大学と、軍事史という特殊学問を最先端のオックスフォード大学で収めた人材だ。生まれも育ちも良い極めて特殊な人材と考えていい。
日本でこれに該当しそうなのは、過去で言うと佐藤優や渡部昇一などが挙げられるが、そもそものレベルが違うのは間違いない。
ユヴァル・ノア・ハラリの作風
神の否定と非インテリ層への奉仕
基本テーマは、三部作全てに共通しており、それは反宗教である。
これは、『神は死んだ』という言葉を残したニーチェの後継である、ヨーロッパ圏のインテリのみに許されたポジションだ。『神は死んだ』はマナーや品行方正さを示すと、よく言われるが、明らかない間違いで、宗教の避難の文言である。
だが、彼のすごいところはそういうインテリな要素ではない。
それは、神や宗教を完全否定するからには、読者である一般大衆と、絶対イザコザを起こさないと決めているところであろう。どうにかして、インテリ層以外にも本を読んでもらおうと画策している。
徹底したローカライズ・日本人に向けたリライト
河出新書房で全著作を出しているが、ほぼ全て、幾度となく日本向けに手直しが実施され、翻訳者は訳出だけではなくリライト作業にも関わっている。スタンスが、大衆化に貢献している。
ユーモア・笑いに終始
最後に、ハラリ氏の最大の特徴であるユーモアについて。
これはヨーロッパ流のいわゆる不条理な笑いだ。
だが、一般大衆が嫌がるレベルにせず、あくまでおかしくて笑えるというものにとどめている。
笑いがあるところには必ず大衆がいるという基本が、彼を形作っているのは、おそらく1976年生まれのゲイというマイノリティから来ていると思う。今でこそ、ゲイは市民権を持っているが、80年代〜90年代を過ごした人間には、そんな将来像はなかった。
そのような時代背景の中で、実力で勝とうとしないという考えが染み付いているはずだ。これはむしろ、若い世代のゲイにはない。笑いへのこだわりは、その裏返しだと私はみる。
日本でもオネエ系のバラエティタレントが、40歳代以上に多く、下の世代になると極端に減ることで垣間見れる。以上が、私が分析した作家としてのハラリ氏の分析である。
『サピエンス全史』(上下巻)

サピエンス全史は、ハラリ氏の著作の中でも最もチャレンジ度の高い書籍で、学術的なリスクが大きい著作だと思います。
そこを、いかにして賛否両論の広告戦略として、運用していくのか。
無名の彼がとった作戦は、時代で上巻と下巻に分けるのではなく、いずれも巻末で、歴史と関係のないトピックを入れるというものでした。
膨大な書籍・論文を圧縮。あえてリスクを選択し、“論争を誘導する”
300時間の内容を60秒で話せと言われたら、その60秒の話は多くの批判にさらされるだろう。
ハラリ氏の著作の中で、私的に最も出版するリスクが高かったのは、この『サピエンス全史』だと思う。本書には、議論が分かれ決着のついていないものから、人種差別になりかねないようなものまで、ふんだんに盛り込まれて強引に圧縮されている。
そもそも人類全史を記述する書籍は、通常はいずれも全20巻とかの全集となり、シリーズ内の分野選別も激しく、何よりも図表が万歳だった。
だが、ハラリは、図表や数値を一切使わず、さらにそれをたった2巻にまとめた。
逆に言えば無理をする必要があったのだ。そして案の定、この強引さによって“論争”が巻き起こった。この“論争”こそが、最大の広告戦略となった。
『サピエンス全史』は、アマゾンオーディブルでもご利用できます。
関連記事:年表・数字ゼロで読み易い。この2冊で、読む本を500冊減らせる。ユーモアで書かれた人類・宗教・戦争・IT史『サピエンス全史』(上下巻)
『ホモ・デウス :テクノロジーとサピエンスの未来』(上下巻)

ホモ・デウスは、本格的な“神”と“宗教”の否定を行った書籍です。前作、サピエンス全史では盛り上がった論争も、静まり、一転して多くの知識人が沈黙するという中で、版を重ねています。
本当に彼がやりたかったこと。それはむしろこの本だと思います。
名声の中で挑みたかった“無神論(エイシイズム)”
海外でいまだに「私はエイシストです」というと、気持ち悪がられて、避けられると言う。欧米白人はもう何となくキリスト教を信じていないが、生活様式に染み付いているせいで、無神論的な考えを人前で表明することができない。
そんな中で、ハラリ氏は堂々とエイシイズムを展開している数少ない学者だ。
しかも、彼は数々の宗教の聖地とさられる「イスラエル」のヘブライの申し子で、ヨーロッパ最高のオックスフォーでの博士号を取得した学者である。そんな彼が本格的に「エイシイズム」を取り扱ったのが、本書『ホモ・デウス』ということになる。
そういう堅苦しい筋書きとは裏腹に、内容の読みやすさと、図表・数字の排除、ユーモアを継続し、世界権力者図鑑(副島隆彦氏)のような軽やかな読み物にまたもや仕上げてしまっている。
本書はオーディブルで読めます(初回無料)
関連記事:寓話で処理されてきた未来が70%の確率で訪れる。悲劇を現実にしないためのレッスン『ホモ・デウス :テクノロジーとサピエンスの未来』(上下)ユヴァル・ノア・ハラリ
『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』
直近の仕事は“予想屋”
『21 Lessons』は、ハラリ氏が名声を得た後に出会った著名人や経済人、財界人からの情報をまとめて、自身のこれまでの著作と結びつける“予測本”である。
ただし、彼は予測を単純に予測と考えていない。
今の有名人になった彼が悲劇的なことを予想すると、その“悲劇予想”に、人々があれやこれやで、現状を歪めて、結局“思ったような未来は来ない”という構図になる可能性があるからだ。
それゆえに、これまでの本を読んでいないと意味不明な記述も多い。
読むなら最後がいいと思う。
関連記事:宗教の消滅やAIの未来を予測。夢・願望のない冷酷な予言書。『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ
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