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著者紹介

ウォルター・シャイデル(Walter Scheidel 1966〜)
オーストリア・ウィーン出身。現在は、スタンフォード大学人文科学ディカソン教授、古典・歴史学教授、人類生物学ケネディーグロスマン・フェロー。1993年ウィーン大学Ph.D.(古代史)。著者・編集者として16冊に及ぶ記事を上梓し、近代以前の社会・経済史、人口計量学、比較史に関する幅広い研究成果を発表している。近刊誌として『帝国の失敗と繁栄への道』2019。
目次
- 序論 不平等という難題
- 第1部 不平等の概略史
- 第2部 第一の騎士―戦争
- 第3部 第二の騎士―革命
- 第4部 第三の騎士―崩壊
- 第5部 第四の騎士―疫病
- 第6部 四騎士に代わる平等化のてだて
- 第7部 不平等の再来と平等化の未来
- 補遺 不平等の限界
本書の前提:トマ・ピケティ『21世紀の資本』の影響
本作は、石器時代から現代まで人類の富を平等化させてきたものは何だったのか、歴史的データを分析し、平等化メカニズムをつきとめた意欲作だ。
ところで、なぜ、著者はこのような本を書こうと思ったのか?
そこには、著者の同世代であるトマ・ピケティの『資本論』の影響が実はあるのだ。

本書は、ピケティの前提を覆す可能性がある
本書ないではいたって、ピケティ『21世紀の資本』に対して穏やかなリスペクトを表明しているが、実は詳しく読むと、本書『暴力と不平等の人類史』は、ピケティの前提を覆すようなさまざまな事象を扱っていることに気がついていく。
本書の根幹を形成する『ジニ係数』とは
その前に、本書の最重要指標として扱われる『ジニ係数』について触れておきたい。
本書は、石器時代から現代までのジニ係数を割り出し、それを所得のシェア率(物々交換の時代があったり、インフレや通貨ギャップなどの調整)で調整しながら使うことで、貧困率の割り出しをおこなっている。
ジニ係数は、イタリアの統計学者コラド・ジニにより考案された所得などの分布の均等度合を示す指標で、国民経済計算等に用いられる。 ジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。
こういう書き方をすると、幾分ややこしいように感じるが、基本的には本書はこのジニ係数のみなので、こういう学術書籍にしてはかなりシンプルで読みやすい。
R>G(ピケティ)が成立するのは、平和時の “一瞬”
『暴力と不平等の人類史』がピケティよりも優れている点
単刀直入に言おう。本書は『21世紀の資本』よりも重要な書籍だ。
人類に必要なものを知ると言う観点にたてば、これ以上の重要な書籍はない。なぜなら、ピケティは平和な時期に、一瞬だけ成立する(R>G)を解き明かしただけなのだ。それにのちに崩れるかもしれない。それよりも長期的な展望や大枠や肝心な人間行動学の本筋は『暴力と不平等の人類史』にあり、一般人にとってはこちらの方が大事だと言える。
日本の戦後モデルに:実感を持って理解できる
第2部 第一の騎士―戦争では、第二次世界大戦後の日本について多くの紙面が裂かれており、日本人のある程度本を読む、私のような人間でさえも知らないことが多く書かれている。
日本の平等化はなぜ起きたのか?
戦後の高度経済成長を経て、一時期は共産圏以上の平等化をした日本だが、当然、本書でも日本は研究対象とされている。そのことをここではネタバレ的な感じで少しだけ触れる。
- 戦時中の貧困期間が世界で最も長かった
- 農業分野以外の富裕層がほぼ全滅した
- 戦時中に貧困層に向けて、大幅な税制改革が実施され、戦後も残った
- GHQによる地主・財閥の解体
- 終戦直後の冬(1945)から起きたハイパーインフレ
上記が、本書で語られる日本の長きにわたる平等化に貢献した影響である。
GHQが、戦時中の税制変更を戦後もそのままにした影響の大きさ
さらにもう少し踏み込むと、まずは、ジニ係数を大きく下げることになったのは、日本が戦時中の貧困期間が最も長く、その間に農家の富裕層以外がほぼ全滅したことが挙げられる。
これによって、富裕層の持ち物は、自動的に日本軍・政府によって、取り込まれたり、消費財であれば配給によって民衆に移転することになった。つまり現物資産の分配である。
だが、これ以上に戦後の平等化に貢献したのは、税制だと言う。
国家総動員関連法令が発令された後、日本は急激に貧困化が進んだ。
この時に、当初の日本政府はできる限り、貧困化をスローにしようと考え、徴税の対象を富裕層にキツくすることにして、平均所得前後の一般世帯をベースに、さまざまな減税法案を通した。
これらの税制が、GHQに支配された後も温存され、メスが入ることがなかった。
ここが、その後の高度成長期の平等化に強く影響を与えた、ということである。
高度成長期に目立つはずの「格差拡大」が日本で起きなかった理由
かつての日本には、長者番付というものがあり、高額納税者は個人情報を報道され、一般人に広く詠まれていた。これは、基本的人権による法の影響もあるが、そもそも高額納税者の税金支払い率が、以上に高く、エンタメ化しやすかったというのが正しい。
そして、この高税率が、戦時中にできたものであることが本書に書かれている。
この内容を読み得て、私は、この『暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病』と言う本が持つ凄さというか、強烈さというものをひしひしと感じた。
ピケティの『R > G』というシンプル化した結論はないが、本書の研究は、必ずピケティよりも後世まで生き残るだろうという考えができあがったのだ。
平等化のバラエティは豊富
最後に、本書が取り扱う『平等』のバラエティの多さについて、語っておく。
ジニ係数は「平等状態」を表すだけで、「平等の質」は表さない
本書で平等化の指標とされているジニ係数は、実は平等の質を表さない。
簡単にいうと、年収3000万円の一般サラリーマンが最も多い状況と、年収5万円の一般サラリーマンが多い状況をごっちゃにする。
他にも石器時代や中国共産党、ソビエト連邦時代の平等化など扱っているが、その平等の幸せ感のようなものは、全く異なる。日本はかなり幸せな平等化を実現したが、中国共産党の1960〜70年代の平等は、レベル的には最高レベルのジニ係数だが、不幸もすごい。
本書を読むことで、平等が一概にいいとは思わなくなるだろう。
もしかするとこれが最大の効果かもしれない。
Q:どんな人が読むべきか?
A:平等が理想だと思っている人。
あるいは、戦争・疫病・災害・崩壊で、投資のタイミングを知りたい人。
本書では、平等化が、人間自身の力ではなく、戦争・疫病・災害・崩壊によってもたらせることを書いている。そして、先の結論でも述べたが、平等にも良い悪いのレベルがある。
耳を塞ぎたくなるような情報も多く、そもそもが720ページの超大作なので、読めない人がほとんどだろう(私はオーディオブックで読んだので一週間で二往復読めた)。
よって、平等について強い意識がある人だけしか読むべきではないと思う。
投資リスク本としても読める
だが、本書のもう一つの側面がある。
それは、人類史の中で起きる危機的状況の中で、どのように投資を行えば安全か?を知りたい人の、重要情報が本書にはしこたま載っているということだ。
これは、おそらく著者が意図して書いたものではない。だが、それでもかなりの精度だ。
海外の投資を行なっている人であれば、本書を利用する局面は多くあるのは間違いない。
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