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著者紹介

ローリー・サザーランド(1965〜)
オグルヴィ&マーサー副会長
世界的広告会社オグルヴィ&マーサーの副会長。『スペクテーター』誌のコラムニスト。広告やメディア、マーケティング・コミュニケーション業界の専門機関である英国広告代理店協会の前会長。出演したテッドトークは650万回以上再生されている。ロンドン在住。
目次
- 第1章 ロジックの乱用
- 第2章 心理ロジックの応用
- 第3章 シグナリングの驚くべき魔力
- 第4章 自分自身の潜在意識をハッキングする
- 第5章 単純化し、合理化し、効率化することの危険
- 第6章 知覚される世界と現実の世界
- 第7章 錬金術師のテクニック
紹介文(出版社の文章)
・誰もが高くてまずいと思うレッドブルはなぜ人気なのか?
・ホテルのドアマンをクビにしてはいけない理由とは?
・なぜ広告キャンペーンにアヒルを使うべきなのか?
・商品名を変えるだけでなぜ売れ行きが変わるのか?
人は客観的な品質(味や価格、量)ではなく、シグナル(小さな青い缶)によって、意思決定をしている。製品ではなく、私たちの見方を変えることで、「錬金術」は人々の心の中に価値を生み出すのだ。
世界的な広告代理店であるオグルヴィの英国支店の副会長で、アメリカン・エクスプレスやマイクロソフトなど、さまざまな企業と30年以上にわたり仕事をしてきた著者が、最新の科学や多くのケーススタディ、心理学の知見をもとに、不可思議な人間の行動を読み解く。
ブログ主の勝手なまとめ
本書で語られる手法
- 非効率性の効果
- 効率的な数字に心を奪われてしまう効果
- 心理(サイコ)ロジック
- 焦点錯覚(フォーカシング・イリュージョン)
- アフォーダンス
- 自己プラシーボ
- 心理物理学
かつて錬金術が失敗した理由は、安い物質を高い物質に変えようとしたからだ、と著者はいう。錬金術の言葉の本当の意味を、誰も理解しなかったというのが、本書を書く動機だと述べられている。
それらの手法が上記にリスト化されたものである。
それらの中からかいつまんで徐々に話していきたいと思う。
全く同じ2枚の25セント通貨の片方を、50ドルにする方法

冒頭で、本物の錬金術はこういうものだ、という例として25セント硬貨を使用した例がある。実にわかりやすい例で、誰もがうなづくだろう。
答えは、片方の25セント硬貨をマリリン・モンロー記念館に行き、マリリン・モンローの財布に一度入れて、そこから取り出す時に写真を取って「マリリン・モンローが使っていた25セント硬貨」だというふうにして、証明書を発行し、オークションに出す、というものだ。
マリリン・モンロー記念館があるのか、また、この手法が実現可能かどうかはさして重要ではない。
この価値を錯覚させるという非科学的なものが、人間社会において富を作り出している、という真実を、わかりやすく解説したのが、この例だと言える。
ここで用いられている手法は、上記リストでいう『心理(サイコ)ロジック』と『アフォーダンス』という手法で、実質的には他の25セントと素材としていっさい変更がないものを、人間の印象・記憶によって錯覚(心理(サイコ)ロジック)させ、そして華麗だが悲運のスターだったマリリン・モンローの意味づけ(アフォーダンス)をして、勝手に価値を高めるという現象である。
ヒット商品の第一世代は、ほとんど “いい加減な考え” から誕生している
前半から中盤までは、この見出しである“いい加減な考え”の効能が語られている。
簡単にいうと、それは山に生えているキノコを世界で一番最初に食べた原始人であったり、戦国時代に腐った豆を、腹が減ってどうしようもないから食べ“元祖・納豆”を発見した足軽兵のような思考である。
当たり外れの率の異常な高さから、“いい加減な考え”を本書のように手放しに礼賛はできないものの、確かにヒット商品のエピソードには、このような例ばかりが並んでいるのも確かである。
それを、改めて確認できるのが、本書が売れた理由だろう。
数字・ロジックの後付け “分析” がもたらす秩序を、否定せずに流し、冷静に「富」を考える
本書の理論的な支柱としてあるのが、2000年代に入ってダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーなどが提唱した経済学はである『行動経済学』の存在である。
これらの『行動経済学』が、例えばゲーム理論などに起因する予測型の経済理論が外しまくった経済的な大崩壊(リーマンショック、ドットコムバブルなど)の後誕生して、小難しい数式などを追いやったというのが、本書が生まれる背景として語られている。
また、本書では “数字” “ロジック” に依存するようになってしまった人のための記述も多い。
著者は何も向こう見ずに、ロジックや数字を否定する立場ではなく、あくまで“ロジック””数字”が、社会の根底・土台を構築して誕生した近代社会を前提に、合間に茶化す、という手法をすすめている。
非効率さが富を生み出す例:郊外のある連続で潰れたレストランのアホオーナーへのチェンジ
本書では、上記のような小難しい話の他にもキャッチーでわかりやすく、身の回りにある例が出されている。それが、賢いオーナーからアホオーナーへと所有者チェンジをしたレストランの例である。
- 1軒目のレストラン(人件費や盗難リスクのあるテラス席を設置しない)→潰れる
- 2軒目のレストラン(ひとまずテラス席を設置したが効果が出なかった)→潰れる
- 3軒目のレストラン(テラス席を出しっぱなし、たまにしまうのを忘れる)→大繁盛
この例では、店舗の個々の料理の内容やコックの能力を問わず、来客へのアンケートからテラス席が魅力であるという答えをたまたま引き出すことができたため、過去に遡って調査したという。
1軒目や2軒目は、簿記もわかり、有名店で店長もしたことがあるオーナーであるがゆえに、慎重さが仇となり、大事な答えに辿り着かなかった。
3軒目のオーナーは、過去に2度も実力者が経営して失敗している店なのに賃貸するというアホオーナーで、しまったり出したりする人件費もかかり、盗難のリスクもあったテラス席を、能天気に設置した。
時には、閉店時もほったらかしで、それを見た客がオープンしていると勘違いし、クレームの電話を入れてくることすらあったというが、結果的に店の認知度が上がり、人気店となった。
数字に心を奪われすぎると感じた時に読む「最高の本」
本書を読んで私は、全てを鵜呑みにするわけにはいかないが、実に使い方のはっきりした優れた本だという印象を抱いた。特に、日本人というのはこういう本が必要だと思う。
ビッグデータやAIの登場で、数字のインパクトはさらに高まり、時には身動きができないまま、茹でガエルになるケースも増えてきた。そういう時に「好ましい言い訳を探す」本として、推奨できる。
Q:どんな人が読むべきか?
A:かなり人を選ぶ本だと思う。
ビジネス書というのは、用途の限定はするものの、読者層の限定はかなり広くとることが多いが、本書はそれとだいぶ趣が異なる。
また、内容的にシンプルさはない。
私はあくまでまとめて書いているので、強引に集約したり、意味づけを行っている。本書の内容自体は、結構難しいし、この著者の書き方が慣れていないのか、また翻訳が悪いのかはわからないが、文章的にもそれなりに読みにくい。
私はオーディオブックで読んでいるが、紙の書籍だったら確実に読みきれなかっただろう。尺も長い。色んな意味で読む人を選ぶ。ただ、数字やロジックに心奪われ過ぎていると確信している人には、響く数少ない書籍だと思う。
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