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作品情報


スタッフ
- 監督:セルゲイ・モクリツキー
- 脚本 :セルゲイ・モクリツキー
- 製作:イゴール・オレショフ、ナタリア・モクリツカヤ
- 出演者:ユリア・ペレシルド
- 音楽:エフゲニー・ガルペリン
- 撮影:ユーリー・コロル
- 制作国:ロシア・ウクライナ
製作費・興行収入(ルーブル・円換算基準は2022年1月)
- 製作費:124,000,000ルーブル(日本円で約1億9千万円)
- 興行収入:435,468,256ルーブル(日本円で約6億5千万円)
ウクライナ出身・ロシアスナイパーが注目されている
ロシアがウクライナに侵入する前から、ロシアの状況をずっと配信し続けたテレビ東京の人気キャスター、豊島晋作氏。その彼が、ロシアのマインド(追い詰められやすい兆候)を分析した上記の動画で、取り上げたのがアガサクリスティ賞を受賞した小説『同志少女よ、敵を撃て』だった。
『同志少女よ、敵を撃て』の元ネタ『ロシアン・スナイパー』
そして、この小説『同志少女よ、敵を撃て』の元ネタとして有力視されているのが、この『ロシアン・スナイパー』だと言われている。
小説『同志少女よ、敵を撃て』自体は、309人のドイツ兵の狙撃を成功させたリュドミラ・パヴリチェンコがモデルとなっているが、このリュドミラ・パヴリチェンコを日本に初めて知らしめたのは、この映画『ロシアン・スナイパー』(2015年劇場公開)であるのは間違いない。
女性目線としての映画(あらすじ)
では、本作の内容を見ていこうと思う。
本作は、形式として、ナチスドイツ打倒の立役者と有望視されているパヴリチェンコが、アメリカに招かれ、当時のルーズベルト大統領夫人であったエレノア・ルーズベルトの家にホームステイするところからの、回顧録となっている。
エレノア・ルーズベルトは、独ソ戦(1941〜1945)での功労者だったパヴリチェンコを1943年にアメリカ呼び寄せ、第二次世界大戦のさらなる攻勢にしようとした。
ハリウッド並みの戦闘シーン
中盤から後半にかけて、ロシア映画をあまり多くは見てこなかった私は、ロシア映画界のVFX技術の高さに驚く。おそらく日本よりも高い技術を持っており、戦争映画としてはアメリカに匹敵する高い技術をロシア映画は持っているのが明らかにだ。
何よりも、これほどのクオリティを製作費たったの2億円程度の映画で実行してしまうのがまたすごい。ただし、本作を業界関係者が見ると、そのコスト面での無駄のなさにも驚く。
無駄のないVFXと爆薬効果:画角の広いシーンでの戦闘シーンが少ない
ここからは少し専門的な話になるが、独ソ戦の激化したシークエンスに入ると、ほぼ引きのショットでの戦闘シーンはなくなる。ただし、移動のシーンで、きちんと壮大な自然を写す。
これは元カメラマンであった監督のセルゲイ・モクリツキーの手腕だろう。監督と並行して、脚本も担当している面を考えると、予算のかかりそうなショットをなるべく設けないようにしているのもおそらく彼の仕事だと言える。

監督のセルゲイ・モクリツキー
それでも、十分にアクションシーンの迫力はすごく、戦争映画としての表現も申し分ない。
基本は『恋愛映画』で、全体のテーマは『戦時中の女性の人権』
作りははっきり言って、エンタメ映画であり、いわゆるブロックバスターといえる。
だが本作を見終わって感じるのは、この作品はどちらかというと、女性に向けて作られているというその指向性だろう。
物語の中で、パヴリチェンコや同僚の女性兵士たちは、恋愛だったりファッションだったり、やはり戦時であっても女性的な面を捨てることができないシーンが多くある。
また、戦争が激化していけばいくほど、子供を出産したいという思いを描く女性兵士特有のメンタリティー描写が徹底している。ここに私は大きく驚かされた。
お決まりかもしれないが、前線で女性兵士と恋に落ちた男性兵士は次々と死んでいく。パヴリチェンコの恋人も同様に前線で死ぬことになる。
本作を通してわかること:ロシア国内での反戦意識
パヴリチェンコのアメリカの滞在シーンについて:アメリカ人の描写
独ソ戦のシークエンスに突入しても、時々この映画はアメリカでのシーンに戻る。
そこで描かれるアメリカ人の描写に私は当然注目する。なぜなら、そこにはロシア人の多くが抱くであろう典型的なアメリカ人の姿が出ている、と予測できるからだ。
パーティのように戦争を楽しむ:陽気で好戦的なアメリカ人描写
パヴリチェンコがエレノア・ルーズベルト共に、アメリカの各地で講演を重ねるが、その都度、その活躍が讃えられ、パーティ三昧になる。挙句の果てには、309人を殺したことを延々と絶賛される曲をフォークシンガーからプレゼントされたりなど、まるで狂気のアメリカ人描写が続く。
アメリカ人は、戦争のために資金集めをしたり、人集めをしたりするのを実に楽しんで行う。それに対し、パヴリチェンコはむしろ、こいつら狂っている、的な暗い感情を表すようになっていく。
私はこの自分が予期したものと全く逆の流れを見ながら、ああ、ロシア人も豊かになって戦争をしたくないと心から思うようになったのだな、と感じるようになった。
これらのことを含め、本作は総じて反戦映画としての機能を持っている。だが、歴史として自国を守るために行った独ソ戦を、過度に賛美するロシア人的な傾向ももちろん存在している。
Q:どんな人が見るべきか?
A:時期が時期なので、ロシア映画を一度も見たことがない人がいいかもしれない。
今後、西側サイドに属する日本には、ロシアのエンタメは入って来なくなるのは間違いない。下手したらこの作品を含む、ロシアの戦争映画は配信もろとも削除されてしまうかもしれない。
ハリウッド的ブロックバスター映画が、GDPの低い国でも作れる時代に
ロシアのGDPは現在第11位(日本は第3位)で、オランダ、ドイツ、韓国などに比べても低い。そんな国が、ある程度力を注げば、ハリウッドクラスの映画ができるという見識を、日本人はおそらく持っていいない。そういう意味で、本作は良いきっかけになるだろう。
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