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著者紹介

森嶋 通夫(もりしま みちお、1923年7月18日 – 2004年7月13日)
日本の経済学者。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス名誉教授、同校サー・ジョン・ヒックス教授、大阪大学名誉教授。イギリス学士院会員。大阪府出身。
1923年に大阪市に生まれるが幼少期は神戸に在住。1942年10月に京都帝国大学経済学部に進学する。大学在学中の1943年、学徒出陣により徴兵。暗号解読を担当する少尉として赴任した。
海軍中尉で敗戦を迎えた後、1946年に京都大学を卒業。その後は経済学部の助手を経て、1963年に、40歳で大阪大学教授となるが、研究所内部での意見対立もあって、1968年に渡英しエセックス大学客員教授、1970年からロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE))の教授として、1988年の定年まで在籍した。
LSEにおいては、1978年に STICERD (スティカード)という研究所の設立に貢献し、初代所長となる。サントリーとトヨタからの寄付金で設立された研究所だが、現在も存続し、STICERDは、公共経済学、開発経済学、政治経済学の分野で多数の研究成果を経済学界に送り出している。

森嶋通夫の業績
それ以外の主な学業業績は以下のとおり
- デヴィッド・リカードの体系に基づく均衡理論の動学化
- 経済学に社会学的アプローチを加味した交響的経済学を提唱
- レオン・ワルラス、カール・マルクス、デヴィッド・リカードの経済学の学説史研究
森嶋はノーベル経済学賞の候補として何度も挙がっており、最も受賞に近かった日本人だった。
目次
- 第1章 予想の方法論
- 第2章 人口の分裂
- 第3章 精神の荒廃
- 第4章 金融の荒廃
- 第5章 産業の荒廃
- 第6章 教育の荒廃
- 第7章 ただ一つの救済案
- 第8章 救済案への障害
- 付記 社会科学の暗黒分野
ブログ主の勝手なまとめ
森嶋通夫の予測手法
本書は1998年と昔に書かれた書籍であるが、2050年の日本の未来を予測し逆算して、さまざまな日本独特の問題・トピックについて書かれている。
では、どうのようにして森嶋は日本人の未来を予見したのだろうか?
その工程に関しては以下の通りに提示されている。
- 2050年に政治家を輩出する1975〜1980年代の青年の環境を見る
- 2050年に労働期を迎える1990年代以降の子供の教育環境を見る
- 戦前世代と戦後世代の体制の切り替わり点を予測する
この三つの非常にシンプルな構成で、森嶋は2050年の予測を行い、2022年の段階で驚くべき的中率を確定させている。
企業制度は、戦前世代が日本軍の組織論をもとに作った=切り替えが異常にしにくい
世代の話をする前に、森嶋の日本分析での要である、日本人の組織論を先に見ておく必要がある。
日本の企業や社会制度、学校制度は、当たり前と言えばあたりまえなことだが、戦後に戦前世代が作った。そして、彼らにはそもそも「オリジナルで組織を作るノウハウ」は無く、当然のごとく、日本軍の組織論を使うことになり、日本の組織制度には奇妙な形で軍隊の風習が残り続けた。
朝礼や社是、社内制度、終身雇用制度の他に、社員旅行、交通費の支給、年金制度、組織体制などが現在でも残存している。
これは新興企業が登場しても残りやすい。なぜなら、株式上場に関係してくると、この日本流の組織論的な目線で、企業の運営状況の外部監査が入っていくからだ。
根性論が根強く、キャリアが長くなれば腐敗がしやすい
この軍隊式の組織の大きな利点に関して、森嶋は経済成長期の日本の経営者の無謀な「特効的な」経営手法や組織運用、根性気合い説を上げている。
と同時に、独裁的な経営陣の存在に反して、社員の個の存在を押し殺す側面から、体力と柔軟性がなくなった社員(役員・執行役員)たちの腐敗がしやすい、という側面も上げている。
また、これらの結果として、社内で決済が降りにくいこと、組織変更が異常にしづらいことも書いている。
森嶋のこの日本企業に対する未来予測は、まさに悪い意味で現在の非効率さとして的中している。
教育制度=政治家人材不在の予測の的中
1975〜1980年代世代の“非政治化教育の弊害”
2050年を予測する上で、森嶋氏が最も危惧したのは、団塊ジュニアと呼ばれる1975〜1980年代の子供たちの「政治嫌い(議論・意思決定を好まない)」教育である。
これは、私自身がその世代であるために非常に実感しており、それがそんなに悪いことだったのか……、と驚くくらいの分析である。
最大の受験戦争を経験するも、最もアドリブ・思考ができない団塊ジュニア
団塊ジュニアは、そもそもの母体の大きさもあるが、大学進学希望者率60%以上という異常な受験比率を伴ったために、過去最高の倍率で大学受験をしている。
だが、その受験の高度化と膨張化によって生まれたのは、考えない教育であった。
具体的には、受験者を裁ききれないために、多く大学でマーク式試験が導入された。マーク式は、明確な解答誘導がされるために、採点者の負担も少ない。
また、大学に入った後もこの“数と暗記教育”の弊害がずっと残り続けた。
森嶋は、この傾向をただ単に“良い悪い”でジャッジするのではなく、具体的に“熟年期を迎えたとき、政治家になりたがる人間が少なくなる傾向が出る”と、恐ろしい精度で分析した。
その結果、必然として“世襲政治家(義務政治家)”が増えるとも書いている。
没落の条件は1980年代に揃っていた
これらのことから導き出されるのは、単に世代が悪い、親が悪い、ということではなく、国家体制を整備しきれない中で高成長を迎え、歪な人口ピラミッドが出来上がったせいで教育制度がズサンになってしまった1980年代という時代の影響である。
森嶋は、この構造におそらく世界で一番初めに気がついた人間だったのだろう。
本書『なぜ日本は没落するか』は中国で多く読まれている
森島通夫の著書が最近日本で売れている背景には、中国での再評価が大きく関係していると言われている。その証拠を検索では見つけることができなかったが、私は何人かの中国人に聞いてこのことを知った。中国は、日本の二の舞になりたくないのだ。
これらのことから、今、もう一度読んでみて良い書籍であると言える。
Q:どんな人が読むべきか?
A:単純に文体と内容面の話をしておきたいと思う。
本文は、元々は学術論文であった可能性が高く、非常に読みにくい(その点、オーディオブックが適している)。そのために、日本人にとっては、辛辣な内容にもかかわらず、読んだ人が少ないという書籍だ。ただ、現代もこの予測の的中が続いているために、読む意味は非常に高い。
この手の文章を読みなれていないと、書籍版を読み切ることは難しいかもしれない。
Q:他に今に役立つ予測が書かれているか?
A:書かれている。
実は今、2020年代の日本というのは、戦中世代が作った体制構造が初めて変革可能な時期だと言え、その時の日本の状況を克明に森嶋が書いているからだ。
2020年代は、戦中世代あるいは戦争の強い影響を受けた世代のほとんどが亡くなっており、高齢者に見られるような、権威的な社会参加も体力的に不可能になってしまった、初めの時代だ。
森嶋はこの時代に、やっと社会が勝手に変わることができる、と書いている。
本書の中間部分だが、ここは非常に今読むと役に立つ部分だと思う。
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