戸建(売買)のお取り広告レポート
不動産のお取り広告について
皆さんは不動産のお取り広告はご存知だろうか?
一番メジャーなお取り広告は、賃貸物件で、既に契約済みの割安物件などをそのまま掲載しておき、それを餌に店舗誘導や、個人情報の取得などを行うパターンだ。
これは厳密に言えば違法だが、それでも多くの不動産業者が行なっている。
それに対して、戸建やマンションの売買物件でのお取り広告は、これまで少ない、もしくは減少傾向にあると言われてきた。悪徳不動産業者がかつて横行し、それが取締られたというのもある。近年話題になったスシローのようにすぐに通報されて、メディアで拡散されてしまう、というのも大きい。
関連記事:なぜスシローは「おとり広告」をやらかしたのか 「また起きる」これだけの理由
しかしである。
現在の不動産の活況により、かつてはほぼ全滅した売買物件のお取り広告が現在、復活しようとしている。本ブログはそのお取り広告に、私自身(と友人の宅建取得者)がアクセスして、分かったことと、そのリスク・対策をお話ししていきたいと思う。要は体験レポートである。
相場より激安の物件を見つける
合計6社の不動産会社が販売。友人の業者を通して連絡をしてみると……

ある日、近所の物件で明らかに相場よりも1,000万円以上、安い物件を見つける。
これはすごいと思い、実際に住所も開示していたので歩いて見に行ってみる。信じられないほどいい物件で、しかも好立地。これはぜひ、と思い、友人の業者を通じて問いあわせてみた。
すでに5件の買付が入り、購入の望みは断たれた……
ところが、即日で5件の申し込みがあり、現在、住宅ローン承認待ちで内見も打ち切りだし、6番目に並ぶこともご遠慮願いたい、ということだった。
残念、ということで見送ることにした。
だが、この不動産物件はその後もたくさんの業者によって販売ページが作られ、増殖していき、2ヶ月後くらいしてから、ようやく消えていった。
専任媒介系と一般媒介の違いついて:物件の取り扱いが1社か、複数社か
そもそもの大前提についてお話ししておきたい。
不動産の売買契約には以下の三つの媒介契約が存在する
- 専任専属媒介契約(1社しか扱えない)
- 専任媒介契約(1社しか扱えない)
- 一般媒介契約(複数社扱える)
ここでは、1社しか扱えない専任専属媒介契約と専任媒介契約の微細な違いは解説しない。簡単にいうと、前者:専任専属媒介契約は一般人が使うことが多いが、後者:専任媒介契約は業界人などが自分でも売り手や買い手を探せる場合に使用される。
それに対して、複数社扱えるのは、一般媒介契約だ。
つまり、例の増殖に増殖を重ねて複数社で販売がされた激安物件は、一般媒介契約だろうと私と知人の業者は思った。というか、法律上、一般媒介契約以外ではこのようなと扱いはできない。
ここが重要なのでもう一度書く。
一般媒介で契約している物件以外は、複数社での取り扱いはできない。
そしてある日、例の物件が復活する:そんなことある?全員落ちたの?




そして、あの3,150万円の相場よりも激安な物件が一旦消えたあと、1ヶ月も経たないうちに、また別のサイトで復活した。住所やスペックを見ても直ぐに同一物件だと分かった。
また以前と同じように時間が経つとぽんぽんと同じ物件を充つ業者が増殖し始める。
これは、おそらく一般媒介で再び売り出しをしているのだろう……。しかし、5人も住宅ローンに並んでいて、その全部が落ちるというのはあり得るのだろうか……。
おかしい……。5人も連続で落ちるなんて、あるのだろうか……。
ひとまず、いろいろムラムラするが、当時5社取扱のあった業者の中で、最寄りの業者に問い合わせてみることにした。
内容がめちゃくちゃな返信メール:オトリ物件だとわかる
業界関係者は一瞬でわかるが、しかし一般人にはわからないスキーム
ということで、内見の打診をしようと思い、取扱業社とやりとりをする。
すると、何も言ってきていないのにいきなり、謄本を送ってくる(メール画像参照:お約束通りって約束してねえ……)。普通この段階で、謄本を送ってくる業者は珍しい。一体なんの意味があるのか?
加えて、前回5人も並んでいた住宅ローンが、なぜ上手くいかなかったのか聞いた答えは……

おい!まてまて、複数業者で販売してて一般媒介じゃないってどういうこと?
専任媒介ってこと?だったら、一社でしか取扱できないじゃん!
なんだか全然おかしい!
何そのインターネットサイトへの広告を許可してるって!
ネット広告OKなら媒介契約関係なく、複数社で販売やれるってか?
しかも、1番手のキャンセル理由が両親の反対って、聞いたことがねえ!連帯保証人は今はもうマストじゃないし、そもそも住宅ローンと成人しか組めないはずだが、未成年で都内の戸建を買おうとしたのか?! はぁ? なんなんだそれは!
2番手で進めてるって、他の3人(合計5人はどうした?!)
おかしい……。めちゃくちゃおかしい……。話が全然繋がっていない……。それとも、私が日本国と全然不動産の法律の違う国にいるのか……、それとも未来にタイムスリップしたのか……。
しかも、オーナーはのんびりしているとか、なんだかほっこりした文面を入れてくるのは、さらに巧妙すぎて怪しい……(ちなみに、持ち回りで契約するというのは、業界用語。各自契約するという意味で、一箇所に集まらないということで、不動産取引では普通と言えば普通)。
念の為に知人の不動産業者(宅建免許保持)に聞いてみる
ということで……。
あまりにも異次元の返答だったので、念のために友人の不動産業者にも聞いてみた。
すると……。
友人「やばいねこれ、でもこれで騙されるんだろうな一般人は。ネット広告とか言えば、いろいろうやむやになるだろうしね」
Pit監督「マジで。こんなストーリーでか!」
友人「まあ、手法は、昔からあるお取り物件広告だね。でもメールの文面が、慣れてる。いろいろと、違法なことを言わないように、危険な文言を避けている。そのせいでだいぶめちゃくちゃだけどね」
Pit監督「だよね!」
友人「特に、何にも言ってないのに謄本とか一見専門的な文書を送ってくるのは面白いね。素人はこれで信用しちゃうんだろうね。いやー、勉強になるわ。もうちょっとやりとりしてくんない?」
Pit監督「マジでー。嫌だなー。まあ頑張ってみるよ……」

知人解説:現代のお取り不動産広告とは。儲かる仕組みも

後日、知人の不動産業者が調べた結果、分かったこのオトリ広告の手法を解説する。
用意するもの
- マイナーサイトで割安な物件広告
- 地域の不動産とシェアできる合鍵(10本くらい)
- 周辺のクソ物件よりも高めだが、相場よりも若干高めな値段設定(共通固定)
- いかにも一般媒介で扱っているふうなムード作りがされたウェブ広告
主な手法
マイナー不動産サイト(不動産ジャパン、オウチーノなど)で割安の優良不動産物件を見つける
不動産サイトの業界シェア率は以下の通り
- スーモ(50%)
- アットホーム(25%)
- Yahoo!不動産(15%)
- その他(オウチーノ、不動産ジャパン、ハウシーなど)10%程度
(1)上記のその他の不動産サイトから相場より明らかに安い物件を見つけてきて、スーモ、アットホーム、Yahoo!不動産などに移植する。
(2)内見に来た客に「残念ですが……、この家、きまっちゃいました(笑)」と言う
(3)その後、悔しい思いをする中で値段が同じくらいのクソ物件を押し付ける
これにより、マンツーマンで精度の高い、買う気のある顧客に効率よく営業できる
特に、不動産ジャパンにはどういうわけか、オトリ物件の大元の物件(専任専属の媒介契約のもの)を見つけることができる。

結果起きることが想定される悲劇
- 現地に行ったのに、その物件はおとりで買えない(労力の無駄)
- マンツーマンで会うので顔も購入推定価格など他の個人情報も知られてしまう
- ムラムラする中で、クソ物件を紹介されて契約してしまうリスクが高まる
- 実際に、内見することで購入者希望者の不動産知識の高低がバレる
なぜ、このような新手のオトリ不動産物件が増加しているのか?
だが、以前は少なかったこのようなオトリ物件だが、なぜ増えたのか? やるにしても、近隣の不動産業者同士のコンセンサスは必要だし、やる方のリスクはないわけではない。その点も私は知人に聞いてみた。そこから、意外な真実が浮き上がってくる。
知人が予測するオトリ不動産広告の増加の理由
- コロナ以降、店舗に客が来なくなった
- 元々個人情報の開示への抵抗が強い上に、ネット上のいい物件ばかり制約しようとする
- 専任媒介(一社扱い)・一般媒介等(複数社扱い)の知識が案外知られていない
- コロナ後、大手以外の不動産業者(仲介)のビジネスチャンスが激減した
- 地元の不動産業者の強みを活かす局面が、年々萎んできている
- 正直不動産などの情報によって、業者対策を一般人もするようになった
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大手仲介はおとり不動産広告をやらない:世間体と社名変更の秘密
このようなオトリ不動産広告を取り扱うのは、圧倒的に地元の不動産業者であることが多い。その理由は、大手は世間体を気にするし、ブランドが傷つくことによる損害が大きいからだ。
ただし、大手の業者も悪いことはしないわけではない。むしろ地面師などの巨額詐欺は大手の方が多いと言われる。だが、オトリ広告などの小規模詐欺は、やらない。ブランドが失墜する損害は、スシローの事件でも明らかだ。
また、知られてないが、地元の不動産業者は実は会社名を結構コロコロ変えることができる。
不動産業界は免許番号(1番台なら新規参入で、5番以降台なら老舗)で、管理されているため、例えば悪いことをしたり、借金を背負った業者などが、何がしかの手法で免許番号を維持しながら、社名変更することが実は多い業態なのだ。
10年ほどで、3〜5回くらい社名変更している会社なんかザラにある。
そうなると、多少悪いことをしても、逃げ切ることは簡単なのだ。逆にいうと、その点でブランドを背負ってしまった業者は、ウェブに絡んだ悪事は小さなものでもダメージがでかい。
そこになんと言ってもコロナ禍によって、不動産売買も大きく変化したことが加わる。
以前は圧倒的に、対面や店舗誘導が主流だったが、ウェブで完結する不動産取引がコロナ以降は激増してしまったのだ。こう言った地場産業に苦しいポストコロナのパラダイムシフトが生み出したのが、今回の新しいオトリ不動産広告の実態だと言える。
オトリ不動産広告に引っかからないために
最後に、オトリ不動産広告に引っかからないための対処法を以下に述べる
- 一般媒介と専任媒介の二つの種別を理解すること
- 媒介契約が空白、もしくは明記されていない場合は不動産ジャパンなので検索して、専属専任媒介や一般媒介と明示されている広告を探してみる
- 事前にレインズに登録されているか確認する。されていない物件は怪しいと思うこと
- その物件が、多社で扱われているときに「一般媒介ですよね?」と聞くこと。もしくは「貴社がしている媒介契約を教えていただけたら、内見に行きます」と言う。
- 普段から、目的エリアの相場を体感で知ること
- 信用できる不動産業者の知り合いがいる(レインズ登録の有無も聞ける)とさらに安全
最も重要なのは、一般媒介と専任媒介系の二種類(厳密には三種類)の媒介契約が、不動産取引には必要であることを知っておくことだと言える。
何度も言うが、一般媒介は1つの物件を多数の仲介業者が取り扱える。専任媒介系は1社限定だ。これはインターネット広告だろうがなんだろうが同じである。ここを抑えれば大半は防御できる。
また、おのようなオトリ業者は、例えば同業の不動産業者を通じた取引、いわゆる(B to B)取引ではオトリであることがバレてしまうと相当怖いので、事前に「もう売れました」「5件以上買い付けが入っていますので……」と、断りを入れるケースが多い。
私の1回目のアクセスもこのパターンだったのだろう。
ちなみに、レインズというのは、業者専用の不動産物件登録サイトで、一般的には義務化されれおり、ここに登録することで透明性がある程度の担保される。
この物件は、調べてみると、レインズに登録されていなかった。つまり、業者同士で情報閲覧されることが、極めて危険だったので登録しなかった可能性が高い。
後日談
その後も、例のオトリ業社と連絡をとったが、最後のメールはこんな感じだった。

二番手の人が、住宅ローンを通って、リフォームをするかしないかで悩んでいる……。とのことだったが、それじゃあほぼ無理じゃん、と言うことで、内見はやめます、というと、上記のメールを送ってきた。意地でも、現地内見に誘い込みたい雰囲気だ。
だが、文面が方々怪しい。ひとまず、私は知人の不動産業者に「現地に行ってきなよ笑」と言われたが、明らかにオトリだと分かったので、断りの連絡をするのだった……。